私の個人的信念は、「いい授業をする教師は、どんな時も自ら学び続ける人」である。「学び続ける人は、その学びの成果を他人に伝えずにはいられない」とも思っている。「学びとは喜びであり、その喜びを伝えるのが教師の仕事だ」と私は考えている。
この本は4名の類まれなき英語教師が、教師としての自らの学びを開陳している。多くの生徒を英語の学びに誘い、英語の実力をつけさせた授業の原理と手法を全国津々浦々にいる英語教師に向けて語りかけている。
本書は4名による4つの章から構成されているが、各章は著者の人となりを伺わせるエピソードとポートレイト写真から始まる。中身は見開き2ページ構成で、徹底的に読者にとってのわかりやすさを追求している。ひたすらに活字が続くのが典型的な学術書だとしたら、この種の本はそれとは異なるジャンルの書とすらいえるかもしれない。読者の視点から内容が再吟味され提示されている。そして各章は、各人が「授業で大切にしている5つのこと」というコラムで終わる。私が4名の著者を直接知っていることもあり、ことばが深い。苦労の末、自ら成し遂げたこと、あるいは成し遂げようとしてもがき続けていることを短くまとめている。
第4章ではさらに「定年を目の前にして、先生方に伝えたい20のこと(辛口)」が掲載されている。私たちの多くがおろそかにしている「当たり前のこと」を、当たり前に実践できるようになるために、半生をかけてきた著者のことばには説得力がある。私も思わず自省してしまう。
この本は全国規模で活躍する著者4人が、単純に「4人で本を書いたらどうなるかな」という"思い"から生まれたものだという。しかしそういった夢を抱くことと、実際にその夢を実現することは天と地ほどに違う。激務の毎日の中で夢を実現させた著者には敬意を抱かずにはいられない。学び伝える喜びで、生徒だけでなく自らも成長させた4人だからこそできたのかもしれない。
私自身、英語教育の評論家的立場から、実践者的立場へと移って、職業人生は充実している。ただ実務者には、次から次にあちこちから用事や問題が飛び込み、落ち着く暇はない。読書好きの私がこれほど本を読めない日々を過ごすとは思わなかった。だが、読書では得られない知恵を学ぶことができている実感はある。
だが私は、そのまとめをする時間を見いだせないでいる。毎日疲れ果ててはバタンキューで、あちこちにに義理を欠き続けている。
そんな私としては、この著書について少しでも文章を書きたかった。偉大な職業人・実践者に対する畏敬の念を取り戻し、自分も少しでもそんな人間に近づきたいと願うからだ。そうして疲れた自分の中に、活力が戻ることを実感したい。だからこそ、目の前の多くの仕事にもかかわらず、私はこの文章を書いた。久しぶりに書かずにはいられない気持ちを掻き立ててくれた、この4人の先生方には心から感謝する。
教育学部勤務時代の私の支えは、「職業人としても人間としても本当にすごい英語教師を私は知っている」という思いだった。その思いは、今、こうして自分が実践者になった時も私の底を支えてくれている。この4名の先生方のように、驕ることなく、学習者の人生の幸福のために授業を地道に行い続ける教育者がいるからこそ、私は「英語教育研究」という看板を捨てていない。
瀧沢先生、大塚先生、胡子先生、畑中先生、私たちを鼓舞してくれて本当にありがとうございます。どうぞご自愛の上、ますますのご活躍を!