2022/08/22

柳瀬の発表部分のスライドと動画の公開:人を育てる英語教育・田尻悟郎の授業は大学生の人生にどう影響を与えているのか

 

8/20(土)の公開シンポジウム「人を育てる英語教育・田尻悟郎の授業は大学生の人生にどう影響を与えているのか」は100名近くの聴衆を迎えました。聴衆のさまざまな反応から推測するによい会になったと関係者一同思っております。開催にあたって大変なご尽力をいただいた凡人社とYoko-Yoko Networkの皆様に厚く御礼申し上げます。


この記事では柳瀬の発表部分のスライドと発表のリハーサル動画を公開します。ご興味のある方はどうぞ御覧ください。


スライドのダウンロード

https://app.box.com/s/st75bmds4pb7ol5x456d9ffgqw83tm1v




リハーサル動画

https://youtu.be/iVerBgXDVBg



ちなみに私の発表の構成は以下の通りです。


1. はじめに:現代教育の歴史的文脈

2. 学習者の人格を尊重する田尻実践

3. 田尻実践の価値づけ

4. 実践者に何ができるのか

5. 終わりに:英語教育研究者へ


最後のセクションでは、英語教育研究を無人格的な対象を調べる精密科学に近づけるふりをするべきではないといった現在主流(?)の英語教育研究の批判をしています。残念ながら私に執筆の機会はいただけませんでしたが、この批判意識は昨年の以下のシンポジウムで口頭発表したものとつながっています。


柳瀬陽介「教育実践を科学的に再現可能な操作と認識することは,実践と科学の両方を損なう」(シンポジウム:外国語教育研究の再現可能性2021)

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/09/2021_11.html



2022/08/09

公開シンポジウム:人を育てる英語教育・田尻悟郎の授業は大学生の人生にどう影響を与えているのか

 

以下の要領で、「公開シンポジウム:人を育てる英語教育・田尻悟郎の授業は大学生の人生にどう影響を与えているのか」を開催します。

コロナ感染予防に十分な対策をした上で、対面方式で開催します。生のコミュニケーションを重視するためです。

なおこのシンポジウムの中継配信や録画公開はいたしません。ご興味のある方はぜひお申し込みの上、会場にお越しください。



日時: 

2022年8月20日(土)13:00-16:30


会場:

西南学院百年館(松緑館)(https://swu-dousoukai.jp/access/)

福岡市営地下鉄西新駅出口1より博多湾方面へ徒歩5分


参加費:

無料(要予約:下のチラシ第2ページをクリックして画面を鮮明にした上でQRコードを使ってお申し込みください)


講師:

田尻悟郎(関西大学外国語学部教授)

久保野雅史(神奈川大学外国語学部教授)

柳瀬陽介(京都大学国際高等教育院教授)

横溝紳一郎(西南学院大学外国語学部教授)


内容:

下のチラシをご参照ください。






昨今では授業の合理化が進み文字や数字で明確に表されることばかりが、重視されているように思います。「授業とは人格的な出会いの場である」「教育とは究極的に人を育てる営みである」といったことばが冷笑や揶揄の対象になりかねないぐらいです。

しかし学習者は常に根底のところで「人間らしく生きるとはどういうことだろう」「自分の人生をどう作り上げてゆこうか」という深い問いを抱いています。いや、教員もそうではないでしょうか。

このシンポジウムでは、そのような問題意識を常に忘れずに真摯に教育実践に取り組む実践者である田尻悟郎先生をお迎えし講演をしていただくと共に、その田尻実践をできるだけ分析しようと思っています。

私個人としては、例えばこの講演で述べたように、AIなどの先端技術をより人間らしい社会の実現のために活用することがこれからの教育の課題だと考えます。そしてAIについて知ることと人間らしい教育について考えることでは、後者の方が優先度が高いとも考えています。教育理念の理解があってこそのAI活用だからです。

まだ若干でしたら席の残りはありますのでぜひお申し込みください。(今回は席が限られていますので、関係者への広報を優先させました)


2022/08/08

8/2のオンライン講演の動画公開 + 頂いた質問への回答:「英語教育の意義 (why) ・原則 (what) ・指針 (how) :AI時代の再定義」

 


オンライン講演の動画公開



8/2に行ったオンライン講演「英語教育の意義 (why) ・原則 (what) ・指針 (how) :AI時代の再定義」の動画を、「未来の先生フォーラム」の事務局のご厚意でこのブログでも公開します。ご興味のある方はどうぞ御覧ください。



講演スライドは以下からダウンロードできます。

https://app.box.com/s/mwm71h8ocsrgeg513vkwx4tu7yyaag4s


なお「未来の先生フォーラムメンバーズ」に登録すれば、未来の先生フォーラムとマンスリーイベントのすべての動画を視聴することができることもお知らせしておきます。



頂いた質問への回答


オンライン講演を広島大学教育学部の卒業生が見てくれていました。その人からメールで質問をいただき回答しました。卒業生の問題意識と私なりの情報提供を共有しておきたく思い、その問答をここでも掲載しておきます。メールの掲載を許可してくれた卒業生に感謝します。


以下は、卒業生からのメールの一部です。


前置きが長くなってしまいましたが、本日の柳瀬先生のご講演で最も私の知性をくすぐったのはmeasurement/ratingとevaluation/appreciationの部分です。柳瀬先生がご存知だったかわかりませんが、学生時代よりずっと、評価や目標(特に数値)というものに疑念を抱いてきました。なかなか自身のもつ違和感や疑念を言語化することができずにもどかしさを感じてきましたが、徐々にそれもできてきつつあるように感じています。measurement/ratingとevaluation/appreciationという概念を学ぶことで、それが加速されるのではないかと感じました。


何かを達成することをめざして、目標を設定しそれを評価しようとすると、私たちはすぐにその目標や評価を目的化してしまいます。自身が本来求めていたことを忘れ、どのように目標を達成し、良い評価を得るかということが前景化し、私たちはそれに注力してしまいます。こうした陳腐化を、私は数多く経験し、自身が簡単に陳腐化した数字を追い求めるさもしい人間に堕してしまうことを知りました。読書記録を始まれば、読んだ冊数を増やすために読書をし、柳瀬先生に薦められて始めたブログは、いつしかPVのために更新をするようになってしまっていました。


こうした現象は、柳瀬先生が講演中に言及されていたように(注)Tyranny of Matrics『測りすぎ』の中で、喝破されていたものです。本書で私の印象に最も残っているのは、(うろ覚えですが)「データはそれが取るに足らないものとされ、重要だと人々に認識されていない時にこそ有用である」という一節です。内田樹先生やエマニュエル・レヴィナス師の一連の著作を渉猟し、学習指導要領で目指されていたコミュニケーション能力や現在目指されている思考力・判断力・表現力、学びにむかう人間性などは、それを目標として目指し、評価するものではなく、何か他の目標(言語習得など)を目指す内に、事後的に振り返ってみると身についていたな、と己が振り返るものであると考えるようになりました。


そこから「目指さずに目指す」という自家撞着的で、己の言葉に二重線を引きながら語るような言葉を、自身の思想の中心に据えるようになりました。日々の教育活動において実践することはもちろん、「目指さずに目指す」を理論化することはできないかと画策する毎日です。上述したTyranny of Matricsの一節は「目指さずに目指す」を社会科学的に表した言葉だと思い、非常に嬉しく感じたことを覚えています。こうした思想を体系化、理論化することはできないかと市井で(全く体系的でなく、素人同然の)研究を続けています(本当は大学院などで本格的に学びたいという気持ちもあるのですが、経済的事情や家庭の状況などもあり、なかなか思いを実現させることが困難なのが現状です)。measurement/ratingとevaluation/appreciationは、こうした私の研究を押し進めてくれるものと考えていますが、なかなかそれを学ぶことのできる書籍や論文を見つけることができていないのが、正直なところです。お忙しい中恐縮ですが、何か取っ掛かりとなるような文献をご教示いただけると大変嬉しく思います。


(注) 柳瀬が講演中に言及しようと思いながら著者名と書名をとっさに思い出すことができなかった書籍は、上に書かれているTyranny of Matrics『測りすぎ』ではなく、下のリストに掲載したKenneth J. GergenとScherto R. GillによるBeyond the Tyranny of Testing: Relational Evaluation in Educationです。



上のメールに対する返事で私が示したのが、以下の情報です。このブログでは既出情報ですが、備忘録のために掲載しておきます。



■ Measurementに関する参考情報


創造性を一元的な評価の対象にしてはいけない

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2020/09/blog-post_90.html


Shohamy (2001) The Power of Tests のPart Iのまとめ

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/06/shohamy-2001-power-of-tests-part-i.html


「テストがさらに権力化し教育を歪めるかもしれない」

(ELPA Vision No.02よりの転載)

http://yanaseyosuke.blogspot.com/2016/08/elpa-vision-no02.html


いかなる社会的指標も、社会的な意思決定に使われれば使われるほどますます腐敗に向かう圧力を受け、それがそもそも観測しようとしていた社会的過程を歪め腐敗させやすくなる

http://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/07/blog-post.html


Measurement and Its Discontentsの翻訳

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2017/05/measurement-and-its-discontents.html


Robert Crease氏によるエッセイ「文化を測定する (Measuring culture)」の抄訳

http://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/07/robert-crease-measuring-culture.html


Robert Crease (2011) World in the balanceのエピローグの抄訳

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/07/robert-crease-2011-world-in-balance.html


アルフレッド・クロスビー著、小沢千恵子訳(2003)

『数量化革命』(紀伊国屋書店)

http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2013/09/2003toeflielts.html


ユルゲン・ハーバマス(1968/2000)

『イデオロギーとしての技術と科学』(平凡社ライブラリー)

http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review.html#060222


デヴィッド・ハーヴェイ(著)、渡辺治(監訳)、

森田成也・木下ちがや・大屋定晴・中村好孝(翻訳)

『新自由主義』作品社

http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2013/05/blog-post.html


「英語教育実践支援研究に客観性と再現性を求めることについて」の論文第一稿

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2017/06/blog-post.html


「研究力強化に向けた教員活動評価項目」への回答前文

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2014/09/blog-post.html



■ 講演中に著者名と書名を思い出せなかった書籍


Beyond the Tyranny of Testing: Relational Evaluation in Education

https://amzn.to/3OWTsPd


K.ガーゲン・M.ガーゲン著、伊藤守・二宮美樹訳 (2018) 『現実はいつも対話から生まれる』ディスカヴァー・トゥエンティワン

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2020/09/km-2018.html



■ 「目標を前に置かない」ことについて


桜井章一(2010)『努力しない生き方』集英社新書

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/11/2010.html



■ 柳瀬は未読だが関連すると思われる書籍


多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織

https://amzn.to/3oV1td0


報酬主義をこえて

https://amzn.to/3BBO9lj


競争社会をこえて

https://amzn.to/3A4YpkZ


だから僕たちは、組織を変えていける

https://amzn.to/3zUt3NC


柳瀬陽介 (2023) 「「英語力」をこれ以上商品化・貨幣化するためにAIを使ってはならない─技術主導の問いから人間主導の問いへ─」『早稲田日本語教育学』第35号 pp.57-72

  この度、『早稲田日本語教育学』の第35号に、拙論 「「英語力」をこれ以上商品化・貨幣化するためにAIを使ってはならない─技術主導の問いから人間主導の問いへ─」 を掲載していただきました。同号は「人工知能知能時代の日本語教育」をテーマにしたのですが、それに伴い、日本語教育と英語...