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2026/03/09

「AI時代の英語教育の再設計―歴史的考察と英語教育実践報告―」(言語教育Expo2026招待講演動画の公開)

 2026年3月1日に言語教育Expo2026で行った招待講演の動画とスライド(PDF版)を公開します。



スライド(PDF版)はここをクリックしてダウンロード


AI利用については、単に技術的に何が可能かを考えるのではなく、「AIに近現代社会の歪みをこれ以上悪化させてはならない」という基盤を元に考えなければならないと私は考えています。その上で、近現代日本の2度の衰退を総括し、外国語教育の普及の背後にある植民地主義を踏まえた上で、あくまでも教育の問題としてAI利用を考えなければならないと説きました。そういった信念に基づく私のAI活用型英語教育実践も紹介しています。



この発表の前日に、米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まりました。帝国主義が新たに復活した、あるいは既に第三次世界大戦が始まっているのではないかという言説が見られます。

同時にClaudeを提供しているAnthropic社とペンタゴンの交渉が決裂しました(そしてその直後にOpenAI社がペンタゴンと契約をしました)。Anthropic社が譲れなかったのは、Claudeで完全自律型兵器で操作するのは時期尚早だということと、Claudeを米国民の大量監視に使うべきではないという点です。それに対してペンタゴンは軍事利用について私企業が口を挟むべきではないというものでした。

どちらも今後の世界史にとって重要な事件かと思います。


このような世界史的大変動の時代に、日本の英語教育はどうAIを活用すべきかについて考えるために、ご興味のある方はこの動画を御覧ください。


2025/05/29

「AI活用により英語学習者を自律的ユーザーに育てる --京都大学の学術英語ライティング授業についての省察的報告--」(英語翻訳の二次出版付き)

 この度、私の実践報告が公開されましたのでお知らせします。


柳瀬陽介 (2025) 

「AI活用により英語学習者を自律的ユーザーに育てる 

--京都大学の学術英語ライティング授業についての省察的報告--」

『京都大学国際高等教育院紀要』8, 1-27

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/294306




抄録

この実践報告は、京都大学教養・共通教育課程の「英語ライティング- リスニングA/B」の2023 年度前後期および2024 年度前期において筆者が独自に行った生成AI(ChatGPT)の活用について分析的に報告する。本実践は、AI を使わない英語力(身体化された能力)を、AI を使った能力(AI 拡張的能力)で伸ばし、両者を相互補完する統合的能力を育てて、学習者を自律的な英語ユーザーとすることを目指した。本実践の学生はAI を利用しないライティング課題とAI からのフィードバックを得て自らの英文を改訂する課題の連動で学びを段階的に深めた。学生は、授業満足度、学習成果、授業進捗速度においてかなりの肯定的評価をアンケートで回答した。今後も、教師による英語の語法と文体の指導などと学生によるAI フィードバックからの学びを充実させれば、学習者を現実世界でAI を使いこなしながら英語を執筆する自律的ユーザーとして育てることが期待できる。同時にさらにAI が発展する将来においては、英語ライティング授業も、学習者の知の探求と他者との対話への意欲という、AI が代行し得ない欲求をこれまで以上に育てる必要があるだろう。


なお、この実践報告には二次出版として英語翻訳版も付けています。


Yosuke Yanase (2025) 

Empowering English Learners to Become Autonomous Users through the Use of AI: 

A Reflective Practical Report on Academic English Writing Courses at Kyoto University

The Institute for Liberal Arts and Sciences Bulletin, Kyoto University 8, 29-57

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/294306




Abstract

This practical report provides a reflective analysis of how the author used generative AI (ChatGPT) in the English Writing-Listening A/B courses at Kyoto University during the first and second semesters of the 2023 academic year and the first semester of 2024. The special goal of the courses was to improve students’ integrated ability of English proficiency by combining their embodied ability with AI-augmented ability, aiming to empower students to become autonomous language users. Through the combined assignments of writing without using AI and then revising that writing based on AI feedback, students deepened their learning in a step-by-step manner. Survey responses indicated notably positive evaluations of course satisfaction, learning outcomes, and lesson pace. By strengthening teacher-led instruction in English usage and style, as well as the ways students engage with AI feedback, educators can foster autonomous learners who skillfully apply AI when composing English texts for real-world settings. However, as AI continues to evolve, English writing courses will need to place even greater emphasis on nurturing students’ motivation for intellectual exploration and dialogue with others--needs that AI cannot fulfill.



***


 この報告は昨年の9月末締切で書いて11月末ぐらいに査読コメントに応えた完成原稿を出したものです。今年度の授業はこの報告で述べた形と大きく変わりませんが、私自身の英語ライティング環境は大きく変わりました。これからもAIの進化と普及とともに英語授業のあり方は大きく変わるでしょう--というより、変わらざるをえません。



2025/05/18

国立情報学研究所・教育機関DXシンポの第2回目の登壇の動画とスライド、およびその後の社会の変化を踏まえての長期的視野の必要性

 2024年10月3日(水)に国立情報学研究所の教育機関DXシンポジウムに2回目の登壇をさせていただきました(ここ半年あまり本当に忙しくてブログの整理もままなりませんでした)。


AIの言語生成と人間の言語使用の違いを重視するAI活用:

大学英語ライティング授業の教育学的考察


概要ページ

https://edx.nii.ac.jp/lecture/20241003-03

資料ダウンロードページ

https://www.nii.ac.jp/event/upload/202401003-3_yanase.pdf

発表動画





この発表では、1回目の登壇 以降の実践を受け、「AIを英文完成のためでなく、英語を使いこなす人間の育成のために使う」方向性を示しました。

今、AIの普及を受け、多くの生徒や教師が英語ライティングを学ぶ・教える意義を失いかけています。「AIに任せればいいじゃない」というのがその理由です。こういった状況で、必要なのは、そもそもライティングとはどのような営みであり、それはAIを活用することによりどのように発展するべきかを定めることかと思います。

私の上での主張は、英語ライティングはその作品を完成した時から活動が始まるということです。自分が書いた内容について、さまざまに語りえるからこそ、英語で書く意味も出てくるということです。そういった力を育てるには、英語ライティング教育の枠組みは変わらなければならないと考えています(自らの実践では定められた標準シラバスのため思うように実行できないのがはがゆいところですが)。

先日たまたま目にしたX/Twitterの投稿は、東京大学大学院工学研究科の教員の方が同研究科の授業のほとんどすべてが英語で行われる方針について、自らの思いを書いたものでした。

その中で次のような箇所が目を引きました。

海外に出て専門性の必要な生活をしてみるとわかりますが、語学と言うのは単純に自動翻訳ができれば済むものでは決してなく、人と人とのマルチモーダルなコミュニケーションの総体なので、いろいろな場面で即応できる総合的な能力及び感覚を持っていないと、国際社会で相手にすらされなくなってしまいます。

英語ライティング教育は、他の技能教育と統合されるべきでしょう。ですが、私としても定められた標準シラバスもあり、その方向になかなか動けないのが悔しいところです。


また、上の東大の方針については、「明治以来せっかく日本語で工学を始めとした諸学を学べるようになったのに、その財産を捨てるとは何事だ」といった反応が来るでしょう。上の先生も、そういった議論を十分に自覚しています。

これ[=大学院の授業を英語にする方針]に関しては、僕が決定に関わっているわけではないので何も言う立場にはありませんが、もちろん日本語話者の学生に不利になる可能性や、そもそも国の財源で運営される大学が他国語で授業をやるのはいかがなものかといった疑義に対しても十分に議論をされた結果の強い判断なのだと思いますし、僕自身、国際的なアカデミアや実務・開発の環境に身を置く中で、今後日本語に閉じた授業や研究環境にこもっていては、大学としても、卒業生の価値としても、引いては日本の産業競争力や国力としても、確実にジリ貧になるのは目に見えている(というかもう既になっている)中で、必要不可欠な、もしくは少し遅しすぎるくらいの動きなんだと思います。

私自身も、日本語への翻訳の重要性を認めます。それは国家レベルではとても重要なことです。しかし、多くの科学者やビジネスパーソンあるいは政治家・行政官が、英語をマルチモーダルに使いこなせなければ、日本の国力が危ういとも思っています。この論点については、下の発表では、AIを使って、日本語人の日本語力と英語力をいわば「共進化」させる道筋を描きました。

第15回産業日本語研究会・シンポジウム(テーマ:生成AIの普及で日本語のコミュニケーションがどうかわるのか)の予行演習動画と使用したスライドの公開


先日(2025年5月12日)、東京都は都立学校(小中高)の14万人に生成AIを使わせる方針を発表しました。これだけの大量の若い人たちが、学習にAIを頻繁に使い始めれば、学校教育の姿は変わらざるをえないでしょう。英語においては特にライティングとスピーキング指導の変革は必至です。

そんな大変動の中で、長期的な視野をもって賢明な教育方針を打ち立てることが今の教育関係者の課題だと思います。

2025/05/14

「英学2.0を支援する英語教育研究」の発表予行演習動画とスライド

 

2025年3月15日に「英語コーパス学会ESP研究会」で、「英学2.0を支援する英語教育研究--英語とAIの相乗効果的覇権の時代における考察」という講演をしました。ここではその予行演習動画と当日に配布したスライド資料を公開します。





この講演では日本の近代史を簡単に振り返りながら、AI時代の英語教育について考察しています。近代史からの考察は、第55回中国地区英語教育学会・島根研究大会・特別講演(2024年6月22日)と第60回片平会夏期研究会・特別講演(2024年8月24日)でも行いました(いずれもブログでは未公開)。本日公開する資料はこれら2つの講演資料と重なる部分を多く含んでいます。

本講演の要旨は以下の通りです。
  • 19世紀後半の帝国主義的拡張期に、日本は西洋学問・技術を導入する手段として「英学」を採択し、近代国家としての基盤を形成した。
  • その後、英学は「英語教育」へと名実ともに移行した。
  • だが、21世紀の新帝国主義・新自由主義・AIと英語の相乗効果的覇権を受けて、英語を通じての知的活動(「英学2.0」)の重要性が高まっている。
  • 本講演では、これらの背景をふまえて英語教育研究のあり方について考察する。

近代史を振り返ったと言ったものの、私は歴史については理解が浅いので識者からのご批判を歓迎します。



追記
信頼おける英語教育学史叙述については以下の論文をご参照ください。

江利川春雄 (2022)
「日本における英語教育学と英語教育研究組織の発展史」
『中部地区英語教育学会紀要』51 巻 p. 258-263

2025/05/08

柳瀬陽介 (2025) 「実践者論文の意義と原則 ―RCTに基づく科学論文との対比から― 」『KELESジャーナル』第10号 pp. 29-32

 

この度、以下の論文を『KELESジャーナル』に掲載していただきました。同誌が一般公開されましたので、ここでもお知らせいたします。


実践者論文の意義と原則

―RCTに基づく科学論文との対比から―

柳瀬 陽介

『KELESジャーナル』

2025 年 10 巻 p. 29-32

https://doi.org/10.18989/keles.10.0_29


これは、2024年11月3日の第61回KELESセミナー(「現場教師の実践知を生かすために学会ができること―改めて問い直す実践研究―」)での発表に基づくものです。私は指定討論者として、藤田卓郎先生(福井工業高等専門学校)と吉田達弘先生(兵庫教育大学)と討論しました。

そのシンポジウムの様子は、関西英語教育学会ニューズレター(2025年1月)に丁寧に報告されています(報告者の先生方に感謝します)。

少なくとも登壇者としてはシンポジウム開催の意義を感じましたので、『KELESジャーナル』にも文章を掲載させてくださいとお願いしました。ご承諾くださった学会の皆様、ジャーナル編集に多大な労力を割いていただいた編集委員会の皆様に厚く御礼を申し上げます。


同誌にはたくさんの興味深い論考が掲載されています。私が恣意的に選ぶとしたら、以下のような観点でこれらの記事を連続して読んでみると面白いかもしれません。


■ 時代背景を理解するために

グローバル人材育成策を問い直し、協同と共生の英語教育へ

江利川 春雄   https://doi.org/10.18989/keles.10.0_4


■ 多くの教師が素朴に願っていることを言語化するために

外国語(英語)教育と人格の形成

加賀田 哲也    https://doi.org/10.18989/keles.10.0_37


■ 英語圏・日本語圏での英語教育の実践研究の実績を知るために 

教師の実践研究を支える協働の可能性

藤田 卓郎  https://doi.org/10.18989/keles.10.0_21


■ 英語教育の実践研究がさらに一歩進むために 

KELESはPractitioner Researchをどう位置づける?

~紀要編集の経験から~

吉田 達弘   https://doi.org/10.18989/keles.10.0_25


■ 実践研究の特徴と規範を理解するために 

実践者論文の意義と原則

―RCTに基づく科学論文との対比から―

柳瀬 陽介 https://doi.org/10.18989/keles.10.0_29



ご興味があればぜひ同誌をお読みください。

2024/10/02

実践報告:E3新科目「アクティブリスニング」始動期実践からの省察 --自由な学び合いと多様な競い合いを活かした実践にむけて--


このたび(といっても数ヶ月前ですが)、『京都大学国際高等教育院紀要』第7号に、私の実践報告を掲載していただきました。学生のリスニング力を伸ばすために新設された選択授業(E3科目)の実践報告です。原本は日本語版ですが、それを英語翻訳した2次出版としての英語版も掲載されています。



柳瀬陽介 (2024) 

「E3新科目「アクティブリスニング」始動期実践からの省察 --自由な学び合いと多様な競い合いを活かした実践にむけて--」

Reflection on the Early Implementation of the New E3 Course, Active Listening: Fostering Mutual Learning and Diverse Competition among Learners

『京都大学国際高等教育院紀要』第7号、23-69ページ

http://doi.org/10.14989/ILAS_7_23



この実践はリスニング指導についてのものですが、実践の基本的な考え方は下で述べた『学び合い』です。



柳瀬陽介 (2020)

「大学必修英語科目での『学び合い』の試み --「対話を根幹とした自学自習」を目指して--」

『京都大学国際高等教育院紀要』第3号、23-45ページ

http://doi.org/10.14989/ILAS_3_23



『学び合い』については、私は広島大学在籍時代に、現在は追手門学院大手前中・高等学校にお勤めの福島哲也先生から学びました。福島先生の授業は本当に衝撃的でした。以来、少しずつ私なりに消化できるところだけ消化して授業を組み立てています。ですから、今の私の授業スタイルは厳密な意味での『学び合い』とはほとんど違ったものになっています。ですが、私なりに理解した精神は大切にしているつもりです。


福島哲也先生(数学)の『学び合い』あるいは「教えない授業」

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/11/blog-post.html

「治療者の倫理性こそが、治療の有効性を担保する」、あるいは「教師の倫理性こそが、指導の有効性を担保する」

http://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/11/blog-post_7.html

西川純 (2016) 『学び合い』の手引き ルーツ&考え方編』(明治図書) その他三冊

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2019/03/2016.html

木村泰子(2015)『「みんなの学校」が教えてくれたこと 学び合いと育ち合いを見届けた3290日』小学館、他3冊の木村先生の著作

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2019/03/201532903.html


実は昨日、前期の授業の匿名授業アンケートが担当教師に開示されました。私の評価はそれなりに肯定的なものでしたが、数件の自由記述で、私の教師としての姿勢のぶれに気付かされました。そんな実践を重ねたり、ビースタの教育学について少し学んだりすると、上の記事のタイトルにした「教師の倫理性こそが、指導の有効性を担保する」という主張は決して絵空事ではないと思わされます。駄弁を弄することなく教師倫理を「示す」毎日を送らねばと思うと、反省ばかりです。


ガート・ビースタ(著)、 亘理陽一、神吉宇一、川村 拓也、 南浦涼介(訳) (2024) 『よい教育研究とはなにか--流行と正統への批判的考察』 明石書店

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/08/2024.html

ガート・ビースタ(著)、田中智志・小玉重夫(監訳) (2021)『教育の美しい危うさ』東京大学出版会 /Gert Biesta (2013) The Beautiful Risk of Education. Routledge

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/08/2021-gert-biesta-2013-beautiful-risk-of.html 


2024/09/02

「言語使用におけるリスクと責任--身体的で歴史的な実践知」のスライドと予行演習動画の公開

 

8/30(金)の19:30-21:30にSomatics and SEL研究会主催の公開オンライン研究会で50分の講演をしました。その後の約1時間はすべて質疑応答に使うという贅沢な会でした。事務局と参加者の皆様に改めて感謝いたします。

私の講演タイトルは「言語使用におけるリスクと責任--身体的で歴史的な実践知」でした。一般の方々はしばしば「外国語なんて、現地で暮らせばだれでも身につけることができるよ」と言います。それを聞いた言語教育関係者は、自分の存在意義を疑われたと怖れて動揺しながら「そうはいっても、教室と現地は違いますから」と言います。その弁明は正しいのですが、言語教育関係者の多くが行うことは、教室の学習ひいては評価の体系化であり「科学化」です。

しかし「言語学習についての安直な学問化・科学化と在野の知恵について」の記事 (https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/05/blog-post.html) でも触れたように、私は過剰な体系化や浅薄な「科学化」の方向性には賛成しません。それよりも、上の一般人の述懐の含意を丁寧に考えてゆくべきだと私は考えます。


今回の講演では、上の「現地で暮らす」こと、つまり現実世界で言語を使うことの重要な側面として、使用する言語のリスクと責任を取ることを取り上げて考察しました。その考察から、安直な科学化を施した研究が謙虚さを失った結果をかなり批判しました。この批判は、下の考察からの流れに基づいています。



「英語教育実践支援のためのエビデンスとナラティブ : EBMとNBMからの考察」 (https://doi.org/10.18983/casele.40.0_11)


「英語教育実践支援研究に客観性と再現性を求めることについて」 (https://doi.org/10.18983/casele.47.0_83) 


「柳瀬陽介「教育実践を科学的に再現可能な操作と認識することは,実践と科学の両方を損なう」(シンポジウム:外国語教育研究の再現可能性2021)(https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/09/2021_11.html)



今回の講演のスライドはここからダウンロードすることができます。(https://app.box.com/s/jvyka8gsznljxo0vbourf9murfhje2o7)。講演の予行演習動画は下から見ることができます。ご興味のある方は御覧ください。






質疑応答の中で特に私にとって勉強になったのは、「実践者の報告の中にも硬直したことば遣いで、相互理解を拒むものもあるのではないか」と「PPPのような機械的な言語操作練習にも一定の意義があるのではないか」というものです。これら2つはもっともなご指摘で、私の説明不足を補ってもらうものでした。

実践者の中にも頑なな態度で、他の実践者から学ぼうとしない人がいるというのは、残念ながら事実だと思います。そういった方は時折「◯◯さえすればよいのだ!」とご自身の実践を過剰に一般化した主張をされます。もしそういった方の実践にみるべきところがあれば、周りの人たちはその方の教条化した表現を、他の人にもわかるように具体的に言い換えて、その方の実践の価値と限界を明確にすることができるでしょう。私たちは言語教師なのですから、研究を語る際も、できるだけ丁寧にことばを使うべきです。

後者の指摘の、機械的な言語操作練習にも一定の効用があるというのも、まったくその通りです。この点は講演でもっと強調しておくべきでした。楽器の演奏やスポーツのパフォーマンスと同様、自由に "play" するためにはある程度の定型的な練習は不可欠です。

しかし、多くの授業が機械的な練習だけで終わっています。何のために機械的な繰り返しを行うのかをはっきりさせていません。ですから、一部の授業は、機械的な練習を過剰に行いそれを厳密に評価することばかりに力を注いでいます。まさに手段が目的になってしまっています。

そうではなくて、自由に、そして自分のために言語を使うために、機械的な作業を必要最小限に留めるべきと私は考えます。そして定型的作業設定に比べてはるかに困難な自由度の高い課題を適切に設定することが、そしてその課題達成のための学習者の意欲を高めることが、言語教師として大切ではないでしょうか。


ともあれ、講演の最後の方で私は「リスクと責任を取っている実践者(現場教師)の声に真剣に耳を傾けよ--たとえその意見が、学会で「正統」だとされている合理化主義者 (rationalizer) の知的枠組みに収まらなくても--」と主張しました。私としては、せっかくの学会という組織が、もっと実践者の日々の葛藤を丁寧に拾い上げることを願っています。


2024/07/24

【Ver. 2.7に改訂】英語での解説を聞いて単語を当てるテスト問題("Jeopardy!"形式) とその解説資料を作成するChatGPTプロンプト

2024/08/02:Ver. 1.1にして、出力に反意語を含めるようにしました。

2024/10/05:Ver. 1.2にして、類義語を独立項目として出力するようにしました。

2024/10/08: Ver. 1.3では、説明の中では問われている単語を "this word" と呼ぶようにChatGPTに指示しました。また、単語の定義を、COBUILDのようにその語をどのような場合に使うかの説明を中心にして行うようにしました。この改訂で学生さんが単語を推測しやすいようにしました。

2024/10/09: Ver 1.4の改訂で以下のような出力が出るようにしました。(1) 複数の品詞で使われる語については、品詞ごとに説明をする。 (2) 定義について説明する前に、その品詞における類義語を提示して、学習者がその語を推測しやすくする。また、プロンプト記述は、指示の順番と階層性を明らかにして、ChatGPTがプロンプト作成者の意図をより忠実に反映するようにしました。しかし「推測させる語を述べてはならない」と何度も指示しているにもかかわらず、ChatGPTがその語を説明の中で使ってしまうことはたまにあります。ですからAI利用の常として、AIからの出力は常に人間がチェックする必要があります。 (下にありますように、プロンプトはVer. 2に改訂しましたが、記録のためにVer. 1.4の出力例とプロンプトはこの記事の末尾に残しておきます)。

2024/10/09 追記:Ver. 2に改訂しました。Ver. 1.4についてのブログ記述を書き終えてトイレにいったら、ふと「そうか、ベテラン教師に語についてのストーリーを語ってもらった方がわかりやすいだろう」と思いつきました。私たちは定義といった包括的で正確な説明法からよりも、ストーリーで理解することを好むからです。
プロンプトに "story" という語を入れたら、はたせるかな出力が大きく変わりましたのでVer. 2としました。添削・改訂プロンプトを書いたときは "plain English" で大きくAIの挙動が変わりましたが、今回は "story" が一種のマジックワードになったようです。この変化は大きかったので、Ver.番号を2にしました。
もちろん "story" をプロンプトに入れた後も、ChatGPTの出力を見ながらプロンプトの言葉遣いを細かく調整しました。ですがこのあたりの調整は、人に対して伝わる文章を書く時と一緒で、わかりやすく (clear)、誤解されず (correct)、具体的で (concrete)、簡潔 (concise) な表現 --3Cs + Concreteで4Cs -- を目指しただけのことです。

また、このVer. 2では私の勤務校のニーズにより合わせるために、大学を中心とした学術英語としての使用を強く志向しました。もしこのプロンプトを他の状況でご利用くださる場合は、適宜、プロンプトの用語を書き換えてください。他のプロンプト同様、私のプロンプトは、商用目的以外でしたら、どなたでもご自由に利用してくださって結構です。

2024/10/10:Ver. 2.1 では、storyの前に語の意味や語が使われる場面や注意すべき点についての説明が来るようにしました。Storyは頭に入りやすいのですが、そのことが語の特定に必ずしもつながるとは限らないからです。このstoryに関するプロンプトは短いのですが、なかなか思うような出力が出ず、5回程度書き直しました。最終的にはChatGPTが出力で使っていることばをヒントにしてプロンプトを修正しました。

2024/10/24:Ver. 2.2の主な改訂ポイントは以下の4つです。 (1) 最後に語源解説を入れるようにしました。(2) Storyの項目の記述を具体的にするために、プロンプトにはあえて "story" という用語を使わずに、"describe a moment in a particular situation when your students want to use the target word" と指示しました。(3) Synonymsは列挙するだけでなく、当該語との違いを簡単に説明するようにしました。(4) Synonymsの説明がやや長くなるので、それより前に意味の説明を行うようにしました。なお、説明部分に当該語を直接使わないようにする指示は強化したのですが、時折、当該語が出力に含まれています。これについては人力で取り除き書き換えるしかありません。また、語源については毎回、ONLINE ETYMOLOGY DICTIONARY (https://www.etymonline.com/) で確認していますが、今のところChatGPTが間違った語源情報を出したことはありません。

2024/10/25:Ver. 2.3で、Word FamilyをInflectionとWord Familyに分けました。最初はInflectionとDerivationという用語で分けたのですが、それですと掲載される語が少なくなるのでWord Familyという用語は残しました。

2024/10/31: Ver.2.4ではアメリカ英語とイギリス英語それぞれのIPAの発音記号表示を加えました。品詞が複数ある場合は、それぞれの発音記号を示すように指示しています。

2024/12/03 (Ver. 2.5):  語の説明出力がぶつ切りの形になってきたので、narrative styleで説明するように指示しました。ChatGPTの内部機構は少しずつ変化しているようなので、時にこのような調整が必要です。

2024/12/06 (Ver. 2.6): 授業内テストでは音声で提示する説明の冒頭に単語の最初の文字と品詞を告げることを止めました。学生さんがそれらの情報だけで単語を正しく推定し、残りの音声説明を聞くことをやや蔑ろにすることを防ぐためです。また、説明は項目ごとに区切らず、一連の自然な流れで語り続けるようにしました。最初は "em" や "uh" などのfillerを入れるように指示したのですが、現在私が利用しているTTS (text-to-speech) の「音読」ではきわめて不自然な音声になるので、filler挿入を止めました。

2025/01/16 (Ver. 2.7) :スペリングや発音の点で紛らわしい語の情報も含めるようにしました。

 

 



■ このプロンプトの狙い


前の記事(柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51)にも書きましたが、私は英単語とその日本語訳を一対一で対応させて暗記する対連合学習には批判的です。そういった単語小テストは、教師が管理するには便利ですし、丸暗記を好む学習者でしたらそれなりに達成感を味わえます。ですが、そうやって覚えた単語はなかなか実際には使えないことは多くの人が感じている通りです。

それを克服する方法の1つが上の記事で紹介したプロンプトですが、そのプロンプトを使った学習は時間がかかることが短所になります(「短所は長所」で、逆に言いますと、時間をかけて深い学習をすることこそが長所なのですが)。

そこで比較的短時間で単語テストを行うために作ったのが今回ご紹介するプロンプトです。今回もChatGPTの利用を前提としています。このプロンプトでは、単語力以上に多くの日本人英語学習者が必要としているリスニング力も同時に鍛えることを目指しています。学習者は、英語の文章を聞いて、その文章で説明されている英単語が何であるかを当てます。もちろん学習者が聞く文章の中には当該の英単語は使われていません("Jeopardy!" 形式と言えば。ご存知の方にはすぐにわかっていただけるでしょう)。ただし、教師は、学習者に予め単語集の範囲を指定しておいた方がいいでしょう。さもないと単語の推測と同定は難しくなるでしょう。

英単語の説明は英語で行われますから、必然的にこのプロンプトはある程度の英語力をもった学習者のためのものです。英語力がある学習者にとっても難しいように思えるかもしれませんが、テストを受けることで単語をさらに深くそして広く学べる教育的なテストといえるのではないかと私は考えています。

このプロンプトは指定された英単語を解説する英文(および例文・コロケーション・派生語・反意語)を生み出します。教師はその英文を文字-音声変換アプリを使って、学習者にその音声を聞かせて説明されている単語が何であるかを当てさせます(例文・コロケーション・派生語には、当該単語(の一部)が出てきますから、音声提示の際には使わず、後で見せて解説します)。

このプロンプトを使った単語テストでは、学習者は聞こえてくるたくさんの英単語が織りなす意味のネットワーク関係の中から、予習範囲の1つの単語を思い起こすわけです。学習者は、テストの音声を聞きながら、説明されている単語が英語という言語の中で他の単語とどのような関係にあるかを総合的に学びます。その学びの中で、学習者は説明されている単語が何であるかを当てるわけです。

この英語のリスニングと思考の連動は、一字一句正確に聞き取るヒアリングとは大いに異なります。仮に細部がわからないとしても何となく聞いて考えるうちに、「あぁ、あの単語のことかなぁ」と学習者は単語を想起します。私は細部を大切にするヒアリング訓練の価値を痛感していますが、同時に、そればかりだと「木を見て森を見ず」の不十分なリスニングしかできないようになることも警戒しています。このリスニング版単語テストを通じて、学習者には考えながら聞く・考えるために聞く術を身につけてほしいとも願っています。

テストが終了したら、教師は読み上げられた英文、および当該単語の例文・コロケーション・派生語を示した資料を学習者に提示しさらに詳しく解説します。私は単語テストを実施して採点をするだけの営みは、「指導」や「教育」ではなく「管理」に過ぎないと思っています。

このChatGPTプロンプトを使うと、学習者にたくさんの英語を聞かせて、その英語を通じて考えさせる英語解説が瞬時にできます。またその解説を補う例文・コロケーション・派生語も自動的に入手できます。このプロンプトは、できるだけAIの力を使って、語彙の学習と指導を高度化するものです。

抽象的な説明が続きましたので、下では、学習者が経験することを疑似体験することにしましょう。



■ 学習者が行うこと


L1(予習):学習者は、単語集の指定された範囲について授業前に予習をしておく。

L2(テスト受験):学習者は、教室でのテストで次のような音声を聞き、その音声が指定された範囲のどの単語についての説明かを推測し、解答欄に書く。

注1:通常のテストは5つの音声を流すが、この記事では簡潔に例示するため1つだけにしている。

注2:筆者の所属校ではLMS (Learning Managemment System)を使っているので、学生はスマホで解答する。システムはそれを自動採点して点数と正解を学生に伝えると共に教師用の成績簿に点数を自動記録する。

L3(テスト後の学習): 学習者には、次のような教材が視覚的に提示される。教師は説明部分の音声をもう一度流した上で、当該単語についての解説を加える。(注:下のサンプルはVer. 2.7の出力です)。



Word 1: Individual

Pronunciation

  • American English: /ˌɪn.dɪˈvɪdʒ.u.əl/ (noun, adjective)
  • British English: /ˌɪn.dɪˈvɪdʒ.u.əl/ (noun, adjective)

Explanation

This word can function as both a noun and an adjective, but it is more commonly used as a noun. When used as a noun, it can refer to a single person considered separately from a group. For example, synonyms might include "person" or "human being." However, this word is more formal or specific than "person," and it emphasizes separateness.

As an adjective, it describes something related to a single person or thing rather than a group. Synonyms for the adjective use might include "unique" or "distinctive." Unlike these synonyms, this word does not always carry a sense of rarity or being special; it can simply mean "separate" or "specific."

Imagine you're introducing yourself to a group of people at an event. You want to convey that you see each person as distinct, with their own characteristics, and you're looking forward to getting to know each one on their own terms. This is the context where you'd use this word.

This word means someone or something that is separate from others in a group or category. Learners should note that this word can sound quite formal, so it may not always fit casual conversations.

The initial letter of this word is "I." What is this word?

Example Sentences

  1. Every individual in the class is responsible for completing their own project.
  2. As an individual, she values her privacy above all else.
  3. The organization focuses on helping individuals achieve their personal goals.
  4. He has a very individual style that sets him apart from others.
  5. Each individual's opinion matters in the decision-making process.

Collocation

  1. responsible for something
  2. rights of the individual
  3. individual differences
  4. individual choice
  5. individual attention

Inflection

  1. Plural: individuals

Word Family

  1. Individually (adverb)
  2. Individuality (noun)
  3. Individualism (noun)
  4. Individualist (noun, adjective)
  5. Individualistic (adjective)

Synonyms

  1. Person (noun) /ˈpɜːr.sən/
  2. Human being (noun) /ˈhjuː.mən ˈbiː.ɪŋ/
  3. Unique (adjective) /juːˈniːk/
  4. Distinctive (adjective) /dɪˈstɪŋk.tɪv/

Antonyms

  1. Group (noun) /ɡruːp/
  2. Collective (adjective) /kəˈlɛk.tɪv/

Confusing Words

  1. Indivisible (adjective) /ˌɪn.dɪˈvɪz.ə.bəl/ - Cannot be divided or separated.

Etymology

The word comes from Late Latin individuum, meaning "an indivisible entity." It is derived from Latin in- (not) and dividere (to divide). Over time, it came to describe a person as a separate, distinct entity. The adjective usage followed later, emphasizing uniqueness or separateness.



■ 教師が行うこと


T1(テストする語の決定): 学習者に指定した範囲の中から問題に使う語を選ぶ。語の説明の録音は40-60秒程度ということを考えて、適切な数の語を選ぶ。

T2(ChatGPTの利用): 下のChatGPT用プロンプトに選んだ語を入れた上で、それをChatGPTに入力する。ChatGPTからの出力はとりあえずすべてワープロにコピーしておく。



# Goal

- You're a college instructor who teaches academic English to international students who struggle with English as a second language. You will carry out the following tasks for each target word in the word bank below "=====" until you finish doing the tasks with the last target word.

-Do not open canvas.


# Task 1: Pronunciation

Provide the International Phonetic Alphabet of the target word for each part of speech in American and British English, followed by the part of speech and the variety of English in parentheses.


# Task 2: Oral Explanation in a Narrative Style

- General Instructions of Task 2: Your role is to talk about the target word without explicitly mentioning it and its related word. You talk about the following items in a natural narrative style without breaking your story item by item. Your narrative must sound natural as if a real teacher is talking to their students. Please note that you can never mention the exact target word or any words that would make it too easy to guess in your story. Say "this word" when you need to mention the target word.

- First, you state the part(s) of speech in which the word can function. When there are multiple parts of speech, emphasize a more frequently used part of speech.

- Next, uou mention the target word's synonyms in each part of speech. You also briefly explain how the target word (keep saying "this word" in this explanation) differs from these synonyms without explicitly mentioning the target word or its related word.

- You describe a moment in a particular situation when your students would want to use the target word without explicitly saying the target word or its related word. Never use the target word or its related wordin the description or its related word. 

- You explain what the target word means without explicitly saying the target word or its related word.

- You also explain what language learners should keep in mind when using this word. However, you can never use the target word in this advice.

- Finally, you must state the initial letter of this word before saying "What is this word?".

# Task 3: Example sentences

Produce five example sentences that use the target word. In this task 3, you can write the target word using complete spelling in example sentences. Your five example sentences must represent typical uses of the target word. The example sentences are numbered from 1. to 5. for each selected word.


# Task 4: Collocation

Provide the most frequent combinations of words with the target word. Show actual word examples rather than grammatical categories. If a subject or object is necessary when representing collocation, show "something" or "somebody" in the position of a subject or object. 


# Task 5: Inflection

Provide the target word's inflection forms along with their labels. The label includes (past tense), (past participle), (present participle), and (third-person singular) for a verb, (plural) for a noun, and (comparative) and (superlative) for an adjective.


# Task 6: Word Family

Provide other words in the word family to which the target word belongs, excluding the inflection forms that you provided above. 


# Task 7: Synonyms

If any, show synonyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word. Show their pronunciations, too.


# Task 8: Antonyms

If any, show the antonyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word. Show their pronunciations, too.


# Task 9: Confusing words

If any, show the words that are confusing with the target word in spelling or pronunciation. Show their parts of speech, pronunciations, and definitions.


# Task 10: Etymology

Provide useful information about the etymology of the target word so that students can understand its meaning and related words better.


# Iteration

Keep doing Tasks from  1 to 9 until you reach the last target word in the Word Bank.


# Output format: produce the following four items for each target word.

- Word with a number (e.g., Word 1) <The target word>

- Pronunciation <The output of Task 1>

- Explanation <The output of Task 2 in a natural spoken style>

- Example sentences <The output of Task 3: Add a number to each sentence>

- Collocation <The output of Task 4: Add a number to each collocation>

- Inflection <The output of Task 5: Add a number to each word>

- Word Familiy <The output of Task 6: Add a number to each word>

- Synonyms <The output of Task 7: Add a number to each word>

- Antonyms <The output of Task 8: Add a number to each word>

- Confusing words <<The output of Task 9: Add a number to each word>

- Etymology <The output of Task 10>


# Word Bank

=====

ここにテストする単語を入れる。複数入れる場合は、カンマや改行などで区切る。

===== 



T3(ChatGPT出力の確認): ワープロ上で、ChatGPTが出力した説明などに不適切な箇所がないか確認する。もしあれば修正する。ChatGPTの説明が気に入らなければ、同じプロンプトを再度入力すると少し異なった出力が得られるので、その方法で適切な出力を入手する。

T4(音声ファイルの作成): ChatGPTの説明部分だけを、文字-音声変換アプリに入れて英語音声のMP3ファイルを作成する。

注3:MP3ファイルの冒頭からいきなり音声がスタートすると何かと使いにくいので、もし「音読さん」などのアプリを使う場合は、音読用英文を下の真ん中の空白部分に入れた上でそれをアプリに入力する。下の例だと、ファイルが作動して2秒後に音声が流れ始める。数字を変えれば秒数も変えられる。

<speak><break time="2s"/>   </speak>

T5(テストの実施):T3のワープロファイルとT4の音声ファイルを保存したラップトップを教室にもっていき、単語テストを行う。



■ 語彙学習だけを行う90分授業の可能性


このプロンプトと前の記事のプロンプトを使って、次のような90分授業ができないかと今私は夢想しています。


(1) リスニングを通じての語彙テスト(30分):上のテストを行う。10問出すとしたら音声提示と回答で10分、解説で20分ぐらいかかる。

(2) ChatGPTとの対話を通じての深い語彙学習(45分):学習者がそれぞれに指定範囲の中から使えるようになりたい単語を選び、ChatGPTと対話しながら学ぶ。学びはレポートにまとめる。

(3) 学びの共有(15分):学習者はペアやグループで (2) で学んだことを共有する。教師はその学びを適宜クラス全体でも共有する。

教師の教室外課題: (2) のレポートのチェックと次のテストの作成。

学習者の教室外課題:次のテスト範囲の単語の予習。

期末テスト:(1)の形式のテストを50問程度と、学習者が(2)の学びの過程で学んだ10語程度の英単語を使った例文を書かせる。



こういった実践を重ねてゆけば、教師は単語集のすべての語に対して、解説ファイルと音声ファイルを作成することができるでしょう。他の同僚と共同作業で行えばその作成はもっと早くできるでしょう。そうやって完成した解説ファイル集と音声ファイル集を学内限定で共有すれば、教師はいつでも楽にテストを作成できます。


AIを使って日本の英語教育を高度化したいと私は強く願っています。



追記

問題を視覚提示する従来型の単語テスト(定義・類義語・例文・連語つき)を作成するChatGPTプロンプトは下にあります。2024年度前期の私の授業は、最初にはこのプロンプトで作成するテストを使っていましたが、途中からこの記事で紹介したリスニング型のテストを使うようにしました。今回ご紹介したプロンプトはその過程で何度も改訂したものです。


英単語テスト生成プロンプト (Ver. 1.3.1 ) :

英単語群の単語の定義・類義語・例文・連語を提示したテスト問題を自動的に作成します。

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/04/blog-post.html



*****


Ver 1.4の出力例


Word 1: function

Explanation

  • The first letter of this word is F.
  • This word is primarily used as a noun and also as a verb.

As a noun:

  • Synonyms of this word include "purpose," "role," or "duty."
  • This word refers to the way something works or the specific job it performs. For example, when you think about an item or system, you might consider what it is designed to do or the specific role it plays in a larger process. You might use this word when talking about how a machine operates, how an organization runs, or even the purpose of a body part in biology.
  • This word often appears in technical, academic, or scientific contexts, where you're explaining or discussing how things work. Be careful when using this word because it often refers to specific, practical aspects of a system or object.

As a verb:

  • Synonyms of this word in verb form include "operate," "work," or "perform."
  • This word refers to the act of something doing what it is designed or expected to do. For instance, when a device or machine is working properly, it is said to be performing its job. You might use this word in a sentence when discussing whether something is doing what it was intended to do.
  • As a verb, this word is frequently used in more formal or technical contexts, especially when talking about machines, systems, or even organizations.

To conclude: the first letter of this word is F, and it can be used as a noun and a verb. What is this word?


Example sentences

  1. The function of this device is to monitor air quality in the room.
  2. Every team member has a specific function in this project.
  3. This program isn't working properly; it doesn't function as intended.
  4. In biology class, we learned about the function of the liver in the human body.
  5. The computer stopped functioning after the power outage.

Collocation

  1. Main function
  2. Specific function
  3. Perform a function
  4. Serve a function
  5. Function properly

Word family

  1. Functional (adjective)
  2. Functionality (noun)
  3. Malfunction (noun/verb)

Synonyms

  1. Purpose (noun)
  2. Role (noun)
  3. Operate (verb)
  4. Work (verb)
  5. Duty (noun)

Antonyms

  1. Malfunction (verb/noun)
  2. Fail (verb)




Ver 1.4のプロンプト

# Goal

-You're an experienced high school teacher who teaches academic English. You will carry out the following four tasks for each target word in the word bank below "=====" until you finish doing the tasks with the last target word.


# Task 1: Explanation

-General Instruction of Task 1:Your primary task is to produce a spoken passage to let your students guess the target word without saying it or its related word forms in the passage. You orally explain the target word without saying it or its related word forms in natural spoken English. Never use the target word or its related word forms in your speech. Don't replace the word with underscores (__) , asterisks (***) or any other substitute symbols. Keep referring to the target as "this word" throughout your explanation. You do the following subtasks indicated by "##" or "###" in the indicated order.

## Task 1-1: State the initial letter of the word.

## Task 1-2: State the target word's part(s) of speech. If the word functions in multiple parts of speech, you have to state the more frequently used part of speech first, followed by other parts of speech.

## Task 1-3: If the word functions in multiple parts of speech, start explaining the word in the following points in the most frequently used part of speech.

### Task 1-3-1: List the target word's synonymns.

### Task 1-3-2: Define the target word without saying the word or its related word forms. Describe a situation in which one is most likely to use the target word by reffering to the target word as "this word," without saying it or its related word forms. If the word has multiple meanings, you must provide as many definitions as necessary. 

### Task 1-3-3: Give additional information, such as the genre or connotation associated with the word without saying the word or its related word forms. Furthermore, give advice on how to use or understand the target word correctly without using the word or its related word forms.

## Task 1-4: Repeat the Task 1-3 and its subtasks in another part of speech of the target word, if any.

## Task 1-5: Conclude your speech by restating the initial letter of the word and the part(s) of speech for this word and saying "What is this word?".

-Reminder for ChatGPT: Please remember that your passage is a spoken explanation in plain English. Don't forget that you can never say the target word or its related word forms in your speech. 


# Task 2: Example sentences

Produce five example sentences that uses the target word. In this Task 2, you can write the target word in full spelling in example sentences. Your five example sentences must represent typical use of the target word. The example sentences are numbered from 1. to 5. for each selected word.


# Task 3: Collocation

Provide most frequent combinations of words with the target word. Show actual word examples rather than grammatical categories.If a subject or object is necessary when representing collocation, show "something" or "somebody" in the position of a subject or object. 


# Task 4: Word family

If any, show other words in the word family to which the target word belongs. Nevertheless, don't include the present participle or present participle of the target word in the list. If there are no particular words in the word family, show "n/a." Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Task 5: Synonyms

If any, show synonyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Task 6: Antonyms

If any, show antoyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Iteration

Keep doing Task 1, Task 2, Task 3, Task 4, Task 5, and Task 6 until you reach the last target word in the Word Bank.


# Output format: produce the following four items for each target word.

-Word with a number (e.g., Word 1) <The target word>

-Explanation <The output of Task 1>

-Example sentences <The output of Task 2: Add a number to each sentence>

-Collocation <The output of Task 3: Add a number to each collocation>

-Word family <The output of Task 4: Add a number to each word>

-Synonyms <The output of Task 5: Add a number to each word>

-Antonyms <The output of Task 6: Add a number to each word>

# Word Bank

=====

ここにテストする単語を入れる。複数入れる場合は、カンマや改行などで区切る。

===== 

2024/07/23

柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51


KELESジャーナルに掲載していただいた拙稿が、少し前にJ-STAGEでも公開されました。


柳瀬陽介 (2024) 

「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習

―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」

KELESジャーナル9号 pp.45-51

https://doi.org/10.18989/keles.9.0_45


この実践報告は、2023年10月1日に関西英語教育学会のKELESセミナーで発表させていただいた報告に基づいています。そのセミナーのスライドや予行演習動画は、こちらから閲覧することができます。


「AI活用の決定要因としての教育観と学習観

―英語学習者が「語彙学習では間違うことが必要」と自覚するまで―」

スライドと解説動画の公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ai.html


このJ-STAGE公開を可能にしてくださったすべての方々、特に関西英語教育学会の事務局の皆様に改めて深く感謝いたします。論文執筆者としては、多くの方々に読んでいただくことが何よりの喜びです。不特定多数の読者が無料で多くの論文を読むことができる文化装置を維持するために多くの時間を割いてくださっている皆様には感謝のことばしかありません。



この実践は、個人的にはとても好きで思い出深いものです。詳しくは上から論文をダウンロードしていただきたいのですが、私としては学生から次のような感想を聞けた時には本当に嬉しく感じました。


  • 「他の様々な語に触れ、文章を考えるので、とても頭を使っている」
  • 「自分で例文を作るときに具体的な状況を提示することを意識した。どんな状況でその単語を使うかによってニュアンスは微妙に変わってくるから、より実践での単語選びに近づけるためには具体的な状況設定が不可欠だ」
  • 「たとえ意図は伝わったとしても、ニュアンスの部分が外れていれば、小さな誤解が生じたり、印象が悪くなったりする恐れがあるので、細かな意味まで、丁寧に学習するようにしたい」
  • 「自分が今まで覚えていた単語の意味やニュアンスがChatGPTと会話する中で少しずれていることに気づいた。単語帳とにらめっこするだけでは本当の意味で単語を使えるようにはなれないのだとわかった」
  • 「自分が選んだ単語や構造の不適切さを指摘されたときは、そのわけをわかるまで尋ねる方が良いと感じた。そうしないと、やはり癖が出て、適さない場面で再び使うことになるだろうからである」
  • 「ChatGPTにすべてを任せるのではなく、尋ねる前に自分でしっかり推敲したり、冠詞、単語の吟味をしたりしてその上でAIを頼るというプロセスを踏まないと自分で間違いに気づけなくなるうえに勉強にもならないので、これからは丁寧に作文をしていきたい」
  • 「長い文を作ることでミスが増えるが、その分、得られるフィードバックが大きいので、これからもミスを恐れずに具体的で分量の多い例文を作っていきたい」
  • 「このように自分の英作文のボロを効率よく出すためには、やはりなるべく長く具体的な英文を作ることが一番だ」



この実践で使ったプロンプトは、下の記事で公開しています。


【Ver. 3.1.3に改訂】 学術英語語彙の使い方を学ぶためのChatGPTプロンプト

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ver-3-chatgpt.html


このプロンプトの利用も改編も自由です。私はAIを使ってできるだけ教育格差を解消し、やる気のある学習者を支援したく思っています。また、その学習者の姿を見て他の学習者が意欲を喚起されることを望んでいます。日本の公教育に携わる者の間で、AIに関する知見を共有する文化が普及しますように。



2024/04/16

柳瀬陽介 (2023) 「「英語力」をこれ以上商品化・貨幣化するためにAIを使ってはならない─技術主導の問いから人間主導の問いへ─」『早稲田日本語教育学』第35号 pp.57-72

 

この度、『早稲田日本語教育学』の第35号に、拙論「「英語力」をこれ以上商品化・貨幣化するためにAIを使ってはならない─技術主導の問いから人間主導の問いへ─」を掲載していただきました。同号は「人工知能知能時代の日本語教育」をテーマにしたのですが、それに伴い、日本語教育と英語教育という違いを乗り越えて執筆のお誘いをくださり拙論を掲載してくださった編集部の皆様に心から感謝申し上げます。


■ 論文単体をダウンロード

早稲田大学リポジトリ 『早稲田日本語教育学』 第35号 【特集】人工知能時代の日本語教育--テクノロジーとの強制を目指して-- pp.57-72.

https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2000817


■ 第35号全体をダウンロード

『早稲田日本語教育学』第35号 【特集】人工知能時代の日本語教育--テクノロジーとの共生を目指して-- pp.57-72.

https://waseda.app.box.com/s/z3rrc0wycuv9zewspmgo4iftjaw9i1rp


■ 『早稲田日本語教育学』について

『早稲田日本語教育学』

https://www.waseda.jp/fire/gsjal/research/journal_publication/



この論考は、2023年8月9日にLET全国大会で講演した内容の主要部分を基にしております。


LET62基調講演「AIによる英語教育の商品化と格差の拡大を防ぐ

― テクノロジーは人権尊重のために ―」投映スライドと解説動画の公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/08/let62ai.html


主要部分の議論は、「近代社会の歪みをこれ以上悪化させるためにAIを使ってはならない」という原則の下に、資本主義・新自由主義的な英語教育の管理をAIで加速させることを防ぐべきというものでした。

ですが実は、私がこの発表前日にこの学会に参加した際には、この講演は非常なる不評に終わるのではないかと本気で心配していました(会場外のベンチで、今更ながらに発表スライドを見直して「どうしよう」と悩んだことを今でも覚えています)。会場の三分の一からはブーイングをもらい、もう一つの三分の一からは冷たい視線を浴び、残り三分の一からは「何を言っているのかわからない」といった無理解をもらうのではないかと私は思っていました。大規模標準テスト(いわゆる資格試験)についてかなり批判的な論考をしているからです。

ですが講演は私がびっくりするぐらい好評でした(もちろん無言のうちに不満を覚えていた方もいらっしゃるでしょうが)。多くの方から「よく言ってくれた」といったコメントをもらいました。中には数カ月後に偶然会った際に「夏の講演はすばらしかった」とお声をかけてくださった方もいました。

英語教育において今や大規模標準テストは非常に重要な位置を占めています。大規模標準テストの扱い方を誤ると、英語教育が大きく歪んでしまうと私は考えています。その歪みをAIでさらに拡大させてはいけないというのが私の主張です。

以下は要旨です。


要旨

新技術が台頭する時、人々は熱狂的に「技術に何ができるか」と技術主導の問いを尋ねる。しかしより重要なのは、「人間は技術に何をさせるか、あるいはさせるべきでないか」という人間主導の問いである。本稿は「近代社会の歪みをこれ以上悪化させるためにAIを使ってはならない」という原則の下に、資本主義・新自由主義的な英語教育の管理をAIで加速させることを防ぐべきと主張する。具体的には、AIを使って、これ以上「英語力」を商品さらには貨幣として扱い、学習者と教師を疎外することをやめなければならない、と説く。多くの英語教育関係者は、本来はさまざまな要因から創発している英語使用を、「あるに違いない」と想定する観念である「英語力」から生じるものと信じ込んでいる。さらにはその「英語力」を大規模標準テストで実体化したと思い込み、そのスコアを英語力の証左と見なす。そのスコアはやがて貨幣のように英語教育の価値を示すものとされる。AIを使ってこの近代の信仰システムを増長させてはならない。

 

論考はやや抽象的ですが、できるだけわかりやすく書いたつもりです。もしよかったらご一読ください。



2024/03/26

「英語教育の希望としての田尻実践」のスライドと準備録画の公開、および若干の感想


3/23(土)の「人を育てる英語教育:田尻悟郎の授業は大学生の人生にどう影響を与えているのか FINAL!」は、会場がほぼ満員で終始いい雰囲気の中で終わりました。激しい雨の中お越しいただいた皆様、煩瑣な裏方作業を引き受けてくださいました凡人社の皆様に厚く御礼申し上げます。


下は私が当日使った講演スライドとその講演の予行演習録画です。


スライド (PDF) はここからダウンロード



私の講演の要点は、田尻先生の実践の凄さは英語教師としての初心を貫き通したことであるというものです。その初心は子どもに教える喜びでしたが、それが教室秩序の構築(そしてその挫折)を経て、「楽しいから学ぶ」授業への発想転換に至ります。そこから田尻先生は、「楽しく力がつく」授業、さらには「苦しいけど課題が達成できたらこの上なく嬉しい」授業へと発展させました。それは同時に「一人ひとりが自律し自由なのだが、喜んで互いに助け合う」授業でもありました。田尻先生の初心は貫かれ、そして大きく発展したのです。

現在の田尻先生の授業を可能にしたのは、華々しい留学経験でも高尚な大学院での研究でもありません。「人が人として生きるために大切なことを英語教育で実現する」ということを願い続け、日々授業を工夫し、挑戦(そして時折の失敗とそこからの学び)を怠らなかったからです。

田尻先生の実践が英語教育の希望である理由はここにあります。初心を貫き、日々、英語教師としてそして人として大切な努力を怠らなかったら、やがて教師自身が驚くようないい授業が到来します。教師の努力は必要条件ですが、到来する授業は、教師個人の意思を超えたすばらしいものとなります。

田尻先生の講演の後の質疑応答では「なぜ田尻先生はいつまでもそんなに元気なのですか?」という質問が出ました。私が出しゃばって答えるなら、それは「授業から喜びをもらっている」からです。

そのように教師に(そして学習者に)喜びを与える授業とは、柄谷行人の交換様式の用語を借りるなら、個人的な恩恵関係(交換様式A)、服従と保護の支配関係(交換様式B)、商品購入のような等価交換関係(交換様式C)のいずれも越えた交換様式Dに基づく授業です。ご興味があれば上のスライドと録画をご覧ください。

私自身30年以上、田尻先生を追っかけてきてそこから学んだことは計り知れないほど大きなものです。田尻先生を知らなかったら、私の研究も教育実践も迷走に迷走を重ねて悲惨なものになっていたでしょう--今以上にw。改めて田尻先生に感謝します。また田尻実践の良さを私とは違った角度から照射してくれた久保野先生、そして科研運営の地道な仕事を続けてくれた横溝先生にも感謝します。

この横溝先生が主催する通称「田尻科研」の成果は、単行本として出版することを計画しています。田尻実践をきっかけに、英語教育界が、初心を貫き発展させるという地味だけど大切なことの価値に目覚めてくれればと思っています。





関連する論文や出版物など

柳瀬陽介 (2005) 「アレント『人間の条件』による田尻悟郎・公立中学校スピーチ実践の分析」『中国地区英語教育学会研究紀要』35 巻 p. 167-176 https://doi.org/10.18983/casele.35.0_167

横溝紳一郎(編) (2010) 『生徒の心に火をつける: 英語教師田尻悟郎の挑戦』教育出版

田尻悟郎のWebsite Workshop https://sc.benesse-gtec.com/tajiri/

2024/03/08

第15回産業日本語研究会・シンポジウム(テーマ:生成AIの普及で日本語のコミュニケーションがどうかわるのか)の予行演習動画と使用したスライドの公開

 

2024年2月20日(火)に第15回産業日本語研究会・シンポジウムの招待講演でお話をさせていただきました。シンポジウムのテーマが「生成AIの普及で日本語のコミュニケーションがどうかわるのか」でしたので、歴史・地政学的観点から思い切って大きな問題意識でお話をしました。結論は「文化越境的」な日本語で文章執筆することと、その文章をAIを使って英語翻訳をすることをもっと進めようということです。


「文化越境的」な日本語は、産業日本語研究会が推奨する「特許ライティングマニュアル」につながると私は考えます。日本語で最初に執筆し、それを英語に翻訳する先人としては村上春樹と柄谷行人を挙げました。私としては、これからの日本は、日本語での表現力を世界の進展に合わせて拡充すると共に、英語での表現力を格段に上げる必要があると考えています。


過去150年ぐらいで、日本語話者は(主に)英語で書かれた思考を日本語で表現できるぐらいに日本語を成熟させることに成功しました。これからはAIを活用しつつ、日本語での思想を英語で表現する英語力をつけることが日本の知的課題であると私は考えます。


私が使ったスライドはここからダウンロードすることができます。


シンポジウム発表に先立って行った予行演習の動画も公開しますので、ご興味があればご覧ください。





追記
シンポジウムの全登壇者の資料はここからダウンロードすることができます。

2024/02/16

「AIの言語生成と人間の言語使用の違い:AI時代の言語教育のための考察」(2024年2月10日 言語系学会連合公開シンポジウム)の発表予行練習動画

 

先日(2024年2月10日土曜日)に言語系学会連合 (https://uals.net/) の2023年度公開オンラインシンポジウム(テーマ:言語教育における生成系AIの活用)で発表させていただきました。

私の発表タイトルは、「AIの言語生成と人間の言語使用の違い:AI時代の言語教育のための考察」でした。

「人間をできの悪いAIのように訓練する外国語教育は不要」という基本的な考えの上に立って、外国語教師はAIの言語生成と人間の言語使用の違い理解した上で人間らしい外国語教育を展開しなければならないと主張しました。違いを理解するためには、書きことばの普及やソフィストの台頭を前に、語りことばの重要性を説くソクラテスを参照することにしました。

下は発表の予行練習録画です。ご興味がある方はご覧ください。



発表で使ったスライドはここでダウンロードできます。


2023/10/02

「AI活用の決定要因としての教育観と学習観―英語学習者が「語彙学習では間違うことが必要」と自覚するまで―」スライドと解説動画の公開

 

2023/10/01(日)に関西英語教育学会のKELESセミナーで講演させていただきました。タイトルは「AI活用の決定要因としての教育観と学習観―英語学習者が「語彙学習では間違うことが必要」と自覚するまで―」です。


ここではスライド(PDF版)と解説動画を公開します。


スライドはここからダウンロード。

https://app.box.com/s/205sjb1ibg73ly8lc3c44gsazwty7ce9



解説動画 Part 1:はじめに~プロンプトの作成(約19分)



解説動画 Part 2:ChatGPTとの対話的語彙学習(約16分)

https://youtu.be/UIJQ3BdA71Y


解説動画 Part 3:学生の声(約13分)

https://youtu.be/SfjqOCTWxfU


解説動画 Part 4:ウィトゲンシュタインの言語使用論(約26分)

https://youtu.be/w4A6GA6Kfps


講演の質疑応答は盛り上がりましたが、その中でも学部3年生と学部1年生の発言が印象的でした。二人共、AI使用について非常に否定的な先生に対してどのように接したらよいか迷っていました。私の答えは基本的に、「そういった先生との付き合いは単位獲得のための最小限のものにとどめ、授業外で自分でどんどんAIを使って英語を勉強してください。学びの主人公はあなたであって先生ではありません」というものでした(笑)。

年長者は年少者よりも概して知識が多いですが、大変革の時代には年長者の既存知識がかえって時代への適応の邪魔になることがあります。若い皆さんは、どんどん自分で未来を切り開くべきだと私は考えます。

2023/08/30

「田尻悟郎氏の授業における教室秩序の成立」:シンポジウム発表のスライドと解説動画を公開します。

 


この記事では、8/26(土)に開催されたシンポジウム(「人を育てる英語教育:田尻悟郎の授業は大学生の人生にどう影響を与えているのか」第二弾)の私の発表で使ったスライドと解説動画を公開します。ただ当日、私はコロナの後遺症でとても出張できるような状態だったので、物理的にもリモートでもシンポジウムには参加せず、解説動画だけを提供しました。


動画を作成したときもコロナ後遺症で、日頃の3割程度の体力と集中力しかありませんでした。ただそれが怪我の功名となったようで、私が敬愛する先生によれば、話すスピードがちょうどよかったそうです。

私はいつもは早口でしゃべりたおし、即興の脱線小話もよく入れます。しかしこの録画ではそんな余裕はとてもありませんでした。ですがそのおかげで、「何か面白い話が展開していることはわかるのだが、私にはその詳細がわからない」といった聴衆層を減らすことができたようです。ともあれ、録画上映が終わった時に、会場から自然発生的に拍手が起こったそうですから、それなりの内容は伝わったのではないかと思います。


このスライドと解説動画が前提としているのは、田尻悟郎先生の授業です。その授業をごく簡単に説明しますと、英語の語順や発音の仕方などについての一般的な教授をした後は、語順表を指さしながら所定の英文を暗証する課題を複数提示するものです。単位獲得のための遂行課題一覧は出されますが、それぞれの課題をいつまでにやるかどうかはすべて個々の学生に委ねられています。

学生の反応はまちまちで、すぐに課題に取り掛かる者、まごつく者、やや冷笑的に周りを見物する者などさまざまです。学生が教室のどこに座るかなどもすべて自由です。一人で黙々と練習する者、グループで助け合う者、練習もあまりできず孤立する個人・集団などいろいろな学生模様が観察されます。それが最後には、課題達成する者、それらの人に助言を求める者、TAに助けを求める者、まわりの人をさりげなく支援する者など、教室全体が学びに対して積極的な文化を作り出します。


田尻先生の授業について詳しく語ればきりがありませんが、下のスライドと解説動画は、このような授業を分析したものです。なぜ上のような設定の授業で、学習者の英語語順の身体化・自律的学習の継続・社会的協働の自発・自己肯定感の獲得といった、通常授業では達成困難なことが成就する教室秩序が成立するのだろうかというのが分析を導いた問いです。ご興味があれば御覧ください。



スライド(PDF版)のダウンロードはここをクリック



2023/08/07

LET62基調講演「AIによる英語教育の商品化と格差の拡大を防ぐ― テクノロジーは人権尊重のために ―」投映スライドと解説動画の公開

 

■ AI利用についての長期的指針を提示します

2023年8月9日(水)の10時から11時まで、外国語教育メディア学会 (LET) の第62回全国大会で基調講演をさせていただきます。会場は早稲田大学戸山キャンパスです。

この大会のテーマは、「外国語教育と「技術革新」:変わるもの、変わらないもの」です。基調講演の依頼を受けたのは、2022年12月でChatGPTが登場したばかりの時でした。まだGPT-4がどのようなものとなるかもよくわかっていない時期にお話を受けたので、最新の具体的情報を提示するような基調講演をするお約束はできませんでした。

ここ数ヶ月でChatGPTを使いこなす英語教師は随分増えました。この対応の速さは2020年のコロナ騒ぎの中のICT活用を思い起こさせます。そういった文脈では、ChatGPTの具体的な使いこなしなどを発表すれば受けはいいのかと思います。しかし私の具体的な実践については、すでに以下で行いました。


「AIの導入で英語授業はより人間的になった ― 実践速報に基づく考察」

(JACET中部支部大会基調講演)の録画とスライドを公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/06/ai-jacet.html


こういった事情で、今回はAI利用の長期的な指針について論じることにしました。具体的には、私たち英語教育関係者が当たり前に使いすぎて批判的に考えることが困難になっている「英語力」という観念について多くお話をします。AIを使って「英語力」という観念を暴走させてはいけないというのが主なメッセージとなります。



■ スライド

下は、当日に投影する予定のスライド表紙です。ダウンロードはこちらからできます。




■ 解説動画(2023/08/09追加)

学会基調講演は、皆様からの反応を見る限り、なんとか成功しました。講演の内容は結構ラディカルなものなので、否定的な反応を得るのではないかと実は危惧していました。それだけに予想外の好評に驚きました(もちろん表に現れない反発もあったでしょうが・・・)。

ともあれ、講演に向けてさまざまなサポートをしてくださった学会事務局の皆様に改めて感謝します。下の動画は、予行演習のビデオです。ご興味があればどうぞ御覧ください。




■ 要項原稿

以下は、6月に提出した「要項集」の原稿です。ただし当日は、時間の関係で「情動的価値(非交換価値・非商品価値)」という用語は出しません。


 新しいテクノロジーが登場すると、人間はとかく「テクノロジーに何ができるか」と技術主導の思考に陥る。だがテクノロジーは「善悪無記」であり、人間社会に益も害ももたらしうる。大規模言語モデルの人工知能(以下、AI)の台頭に際して問うべきなのは、「人間はAIに何をさせ、何をさせるべきでないか」という人間主導の問いである。

 本発表では、人間はAIを近代社会の歪みを悪化させる方向に使ってはならず、人間社会が掲げる理想の実現のために使うべき、という大原則をまず確認する。その上で、第一に英語教師は、AIを公教育における英語教育(以下、英語教育)のさらなる商品化のために用いて社会的格差を拡大再生産してはならないと主張する(「商品」についてはマルクスに即して説明する)。第二に英語教師は、人権―すなわち自由と(尊厳と権利における)平等―の尊重を毎日の授業で実践するためにAIを活用するべきと主張する。

 第一の主張は、大規模標準テストという商品を英語教育にこれ以上に組み込むためにAIを使うべきではないという立論につながる。大規模標準テストは「英語力」という抽象的観念を数値化するが、近年はその数値を他のテストの得点と換算(交換)可能な形にして「英語力」の商品化を助長する傾向にある。その結果、多くの英語教育関係者は、授業料や税金という貨幣支出に対して得られる商品価値の高低で英語教育を査定する。同時に「英語力」の抽象的性質は、学びから個性を奪い、学習者が学習の進行と共に自分らしさを抑圧する学びの疎外を進行させかねない。英語教育の商品化は、教育に剰余資金(資本)を大量に投入する家庭の子どもとそうでない家庭の子どもの間の格差を拡大させるだろう。

 第二の主張は、学習者を管理して測定する教育から、学習者の自律を認め尊厳と権利における平等を尊重した上で学習者の協働の自由を称賛する教育への移行につながる。そういった教育では、学習者が心身で実感する学習の喜びという情動的価値(非交換価値・非商品価値)を授業の基準とする理想を失わない。発表者はAIを活用した授業でこういった教育の片鱗を実現できた。AIは一人ひとりの人間らしい生き方を促進する社会づくりのために利用されるべきである。 



■ 感謝のことば

最後にこの登壇に向けて、事務局の皆様からは本当に手厚いサポートを受けました。心から感謝します。そのご厚遇に応えるべく、当日はできるだけよい講演と質疑応答をしようと思っております。



2023/06/22

「『英語ユーザーへのインタビュー』の経験から」 笹島茂・宮原万寿子・末森咲・守谷亮編 (2023)『英語授業をよくする質的研究のすすめ』(ひつじ書房)所収 (pp.92-97)


この度、縁をいただいて、笹島茂・宮原万寿子・末森咲・守谷亮編(敬称略)の『英語授業をよくする質的研究のすすめ』(ひつじ書房 2023年)に次の論考を掲載していただきました。


「英語ユーザーへのインタビュー」の経験から

pp.92-97


この論考は、私が下のインタビュープロジェクトを遂行する中で考えた質的研究と量的研究の根本的な発想の違いについて短くまとめたものです。


京都大学自律的英語ユーザーへのインタビュー

https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english/interviews_jp


論考の背後には、ウィトゲンシュタイン哲学やホワイトの歴史学の考え方があります。キーワードは、「多様性」「家族的類似性」「歴史的叙述」「相互作用し合う主体」です。


関連記事

ウィトゲンシュタイン『哲学的探究』の89-133節の個人的解釈

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/03/89-133.html

ヘイドン・ホワイト著、上村忠男監訳 (2017) 『実用的な過去』岩波書店 Hayden White (2014) The Practical Past. Evanston, Illinois: Northwestern University Press.

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/03/2017-hayden-white-2014-practical-past.html


なお、この論考をさらに展開した立論は先日、日本英文学会のシンポジウムで発表しました。


「英語ユーザーへのインタビュープロジェクトの実践から」

(日本英文学会第95回大会シンポジウム)の解説動画とスライド

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/05/95.html



以上、自分の宣伝ばかりが続きましたが、この『英語授業をよくする質的研究のすすめ』は、初学者でもわかりやすく読めるように編まれた本です。


笹島茂・宮原万寿子・末森咲・守屋亮編

『英語授業をよくする質的研究のすすめ』

ひつじ書房ホームページでの解説:

https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1188-5.htm



Part I 「質的研究の背景と英語教育」 (pp.2-33) は、質的研究についての素朴な15の疑問を見開き2ページで手短に解説しています。

Part II「質的研究リサーチ方法」(pp.34-86) も見開き2ページの構成を引き継ぎ、25の観点から質的研究の方法について解説します。これだけ多くの観点があるのは質的研究の方法が「多様で複雑」であり、「単に手法だけを真似してもうまく行かないことが多い」からです。質的研究では「リサーチ方法の基本をもとに、自分自身で考える必要」があります。 (p.34) 

とはいえ質的研究の方法は秘教的なものではありません。「質的研究のリサーチ方法は、人類が始まってからずっと営んできた学習の中にすでに多くのヒントがあります」とも著者は述べます。(p. 35) --私はしばしば一般書のルポルタージュを読んでいて、むしろ研究者はこのような叙述にもっと学ぶべきではないかと思ってしまいます。最近では北尾トロ (2023) 『人生上等! 未来なら変えられる』の内容だけでなく叙述スタイルも面白く読みました--

Part III「質的研究の実践例」(pp. 88-148)では拙稿も含めると7つの実践例が報告されています。個人的には末森咲先生や守屋亨先生といった若い世代の報告に共感しました。末森先生は、「博士論文に取りくんでいた期間は、最初から最後まで先が見えず、何一つ確信が持てない状態でした。目的地は決まっているけど、そこまでの道のりが全く記されていない、白紙の地図だけが手元にあるような感じでした」 (p. 109) と述懐します。守屋先生は、「周囲に自分の研究の話をしてもどこか話が噛み合わずに何度も首をひねられ、自分は研究に向かないのではないかと、己の未熟さと不甲斐なさに涙したこともあります」 (p. 114) と吐露します(言うまでもありませんが、もちろんお二方とも後日きちんと自分なりの質的研究を打ち立て、周りにも評価されています)

この本には資料として、英語論文例と用語集が付け加えられていますが、特に前者は有用です。

英語教育(あるいは日本語教育)でこれから質的研究を始めようとしている人、または始めたものの迷い続けている人には、この本はよいガイドになるかと思います。



追記

JACET言語教師認知研究会(質的研究コンソーシアム)では、「英語授業をよくする質的研究のすすめ(仮)」というテーマでシンポジウム(ハイブリッド形式開催)を計画しているそうです。現時点での予定は以下の通りですが、正確な情報は近日中にJACET言語教師認知研究会が行うだろうアナウンスで確認してください。

日時:9月30日(土) 14:00-17:00 

会場:青山学院大学青山キャンパス総研ビル8階第11会議室



関連記事

北出慶子・嶋津百代・三代純平 (2021) 『ナラティブでひらく言語教育』

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2022/03/2021_24.html

「人が他人の心を知ることができるのか」という難問、および再帰性 (reflexivity) と省察 (reflection) の違い

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2022/03/reflexivity-reflection.html

八木真奈美・中山亜紀子・中井好男 (2021) 『質的研究を考えよう』(ひつじ書房)、および意味概念と物語概念のまとめ

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2022/03/2021.html






2023/06/12

「AIの導入で英語授業はより人間的になった ― 実践速報に基づく考察」(JACET中部支部大会基調講演)の予行練習録画とスライドを公開

 


2023年6月10日(土)の16-17時に、JACET第38回(2023年度)中部支部大会(Zoom開催)で基調講演をさせていただきました。


「AIの導入で英語授業はより人間的になった ― 実践速報に基づく考察」

柳瀬陽介 (京都大学)


講演の概要は以下の通りでした。




事務局の皆様には、貴重な機会をいただいただけでなく、さまざまなサポートをしていただきました。ここに改めて厚く御礼申し上げます。


当日は講演に引き続き、シンポジウム「AI時代の英語教育」にも私はそのまま参加しましたが、ここでは講演での私の登壇部分だけの録画と投映したスライドを公開いたします。




講演で使ったスライドのPDF版はここからダウンロード




以下、主なQ&Aの概要を掲載しています。Qは私がまとめて書き換えたものです。またAも私が当日に答えたものに若干加筆しているものもあります。ゆえにこのQ&Aは当日のやり取りの忠実な再現ではありません。


Q1:AIの浸透により、ますます学びを高度化する層と学ぶ意欲を失う層の二極化が進行してしまうようにも思えますが、いかがでしょうか。

A1:現状ではその恐れが高いです。ですから、教育者は格差拡大を阻止するためのAI活用を前提に物事を考えるべきだと思います。


Q2:学生の課題の正確さには様々な語の意味を日本語を通さずに英語を通して理解できるかどうかも関わってくるのでしょうか。

A2:私の大学での授業を前提につくったこのプロンプトについてはその通りです。私は学生に「英語ループ」に入ってもらおうとしています。もちろんAIを使って、まだ英語を英語を通して理解するのが困難な学習者を支援することも可能です。しかし、私の現在の実践ではそういった学習者はとりあえず対象としていません。


Q3:やはりチャットGPTが考えたスピーチの表現や内容を自分のものにして、人間自身が考えたことを追加で言えるように準備しておくことも英検1級を受ける学生にとって重要になってくるのでしょうか。

A3:その通りです。だからChatGPTからのrevision提案を吟味し何度も音読したあとで、再度何も見ずにChatGPTにスピーチを吹き込む学習方法を提案しています。


Q4:英語の運用能力を語る際に、AIを抜きにしたものを能力とするのか、AIを含んだものを能力とするのか、という立場の違いについてどう思われますか。

A4:「能力」の定義は、唯一絶対のものを求めるべきでなく、それぞれの文脈で定義するべきだと私は考えています(さらには、複数の能力を互いに換算互換できるように一元的に数値化することは避けるべきだと考えていますが、その話は長くなるのでここではしません)。

 私は、自分の授業が終われば基本的に学生は自学自習者しながら英語を使用するということを前提としています。ですから、私は英語力をAI抜きの生身の力を基盤としながら適宜AIを駆使できる総合的な能力として定義しています(スライドのp.196-p.200をご参照ください)。

 ただし個人的には高校生にはAIを使わない生身の力だけを「英語力」として規定した方がよいと思っております。生身の英語力(特にリスニング力とリーディング力)がないとAIを使いこなせず、AIが生み出す英語に振り回されてしまうからです。

 ともあれ、「能力」の定義には絶対的なものを求めず、それぞれの文脈でもっとも合理的な定義を採択するべきだと考えています。


Q5:自分が教えている大学の学生は、DeepLやChatGPTを活用して自分の英語力を伸ばす方法を既に知っているように思えます。その活用を妨げているのが、「AIを使うと、きちんと評価できないから」といった教師の都合なのではないでしょうか。教育界は一方で「個別最適化」を謳いながら、他方で絶対評価にこだわっている。こういったことからすると教育自体が変わらなければならないのではないでしょうか。

A5:ご意見に賛同します。スライドのp.180で示したように、20世紀型教育は、Teacher Control, Standardization, Measurementを促進することこそ教育の改善であると考えてきました。この傾向は、新自由主義が台頭し教育を資本主義的生産体制の中の歯車として考えるようになってから強まったように思えます。また、英語教育研究の多くも、Teacher Control, Standardization, Measurementの強化という前提を無批判に受け入れ、自らその方向に進むことを研究の高度化と考えているように思えます。

 私もこのような教育のあり方が変わるべきだと考えています。たとえ教育の制度がなかなか変わらないにせよ、教師の考え方はまだ変われるはずです。教師は日々よく観察し、何がよい教育なのかを考えるべきです(下の記事もご参照いただけたら幸いです)。


関連記事

柳瀬陽介 (2022) 「人間を育てる英語教育とは何か--英語教師に必要な哲学」『新英語教育』2022年3月号 pp.7-9

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/03/2022-20223pp7-9.html


2023/05/20

「英語ユーザーへのインタビュープロジェクトの実践から」(日本英文学会第95回大会シンポジウム)の解説動画とスライド

 

2023年5月22日(日)10:00-13:00の日本英文学会第95回大会シンポジウム第12部門(12階1201教室)は、「英語教育物語を紡ぐ:ナラティブが照らす学びと教えの当事者たち」です。司会・講師は坂本南美先生、その他の講師は、和田あずさ先生、原口治先生、斎藤兆史先生と私です。

私の発表題目は「英語ユーザーへのインタビュープロジェクトの実践から」です。

私が使うスライド(PDF版)はここからダウンロードすることができます。

この記事の一番下には、そのスライドを使った解説動画を掲載しています。動画は私が本日(=発表の前日)に予行練習として録画したものです。当日の20分という時間制限を無視して、とりあえず言いたいことを述べ約46分の動画となりました。ご興味のある方は御覧ください。

この下(動画の上)に掲載しているのは、当日の印刷配布資料の内容(=発表の骨子)です。



***


英語ユーザーへのインタビュープロジェクトの実践から


1. はじめに

- 京都大学自律的ユーザーへのインタビュー (https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english/interviews_jp)


2. 本発表の前提知識

2.1 規範様式と物語様式

- 1つの命題が真であることを論理的-科学的に論証することが規範となった近代

2.2 ウィトゲンシュタイン (W) の前期と後期

- 前期:極限まで論理的で科学的な言語のあり方を構想(同時にその限界を示唆)

- 後期:言語は特定の生活形式を共有する言語ゲームにおいて理解・考察されるべき

2.3 教授法比較実験研究・インタビュー質的研究・インタビュー全文公開実践の違い

- 量的研究と質的研究は共に研究者という単独の支配的な認識主体に基づく

- インタビュー全文公開実践は、複数の認識主体を働かせる探究的実践


3. W哲学からの認識論的考察

- 量的研究と前期W哲学の共通点:観察される世界には属しない認識主体

- 質的研究と前期W哲学の共通点:認識主体がたとえ自らを観察・記述したとしても、それが支配的な認識主体であることは変わらない

- インタビュー全文公開実践と後期W哲学の共通点:話し手・聞き手・読み手という複数の認識主体

- 後期W哲学は前期W哲学の堕落ではない:実践世界の事態は、家族的類似性で連綿とつながる

- 実践的記述は論理学を規範とするべきではない:観察・記述の対象は相互独立していない

- 言語の意味は、普遍的な論理空間における位置ではなく、それぞれの言語ゲーム実践において定まる

- 後期W哲学は、前期W哲学の特殊性を明らかにした

- 多文脈的で流動的な意味世界に普遍的な認識主体を求めない

- 意味世界を見るために「普遍的な真理の認識」という眼鏡を外す


4. 探究的実践についての発展的考察

- 探究的実践 (Exploratory Practice) はすべての当事者の行為主体性と権力拡充を尊重

- 探究的実践者は、超越的で特権的な観察・記述者とならず、実践共同体の中に留まる

- インタビュー全文公開は、結末を予測できない世界における「行為」である

 

5. おわりに

- 実践を思考する英語教育関係者は、研究という特権的な営みをどう定義すべきか





2023/03/31

柳瀬陽介 (2020) 「逆境を活かす新生力( 創造的レジリエンス) は授業 で培える ― 身体表現 からの 偶発的 コミュニケーション―」

 

この「逆境を活かす新生力( 創造的レジリエンス) は授業 で培える」 (pp. 185-204) という論考は、以前に行った「授業というコミュニケーションの計画性と偶発性」という発表に基づくものです。 

ただし紙幅の都合で、「意味の可能性の充実」「参加者の主体性の発展」「社会的信頼の構築」の3つの論点は割愛しています。


この論考の基本論点の1つは下の表でまとめることができます。




今のAIのインパクトを例にすれば、以下の4つの対応が考えられます。


(1) 英語教師がAIの発展を受けて気落ちしてしまう(脆弱性)

(2) 学習者にAIの使用禁止を感情的に厳命する(頑強性)

(3) 一度は気落ちしながらも「私はこれまで通りの授業をするだけだ」とやる気を取り戻す(回復力:復元的レジリエンス)

(4) AIに衝撃を受けながらも、AI使用を取り込んだ新しい英語教育の形を作り出す(新生力:創造的レジリエンス)。


もちろん私は、新生力=創造的レジリエンスが大切だと考えています。そして、創造的レジリエンスは学校の授業でも培えると思っています。ただしそのためには、教師が学習者の身体が示すサインを的確に読み取り、コミュニケーションの偶発性を大切にするべきだと考えています。逆に言うなら、一方向の一斉授業ばかりやっていれば創造的レジリエンスなどは育つわけもないというわけです。


この論考は、村田和代先生が編集した『レジリエンスから考えるこれからのコミュニケーション教育』(ひつじ書房)に掲載されています。編者の村田先生とひつじ書房の皆様には大変お世話になりました。


ひつじ書房のウェブページが紹介していますように、この本には多くの興味深い論考が掲載されています。ぜひご一読いただけたら幸いです。



付記:この論考にはAIについての論点は含まれていません。上の例はあくまでも今の時点で、この論考の趣旨を明確にするために挿入したものです。

研究機関所属でも大学院卒でもない公立中学校教師が、AIを活用して、約5ヶ月で国際誌に論文を6本掲載・採択

  AIが個人の力を飛躍的に向上させるという話をよく聞きます。最近では、海城中学高等学校の高校1年生の 走出慧太さん の論文がSpringerのAI&SOCIETYに掲載されたとのニュースが記憶に新しいところです。 海城中学高等学校ウェブサイト: https://www.kaij...