2026/07/29

HAHA: Human-first, AI-second, Human-last Agency -- AI使用の原則を定め、AI時代の人間的主体性を育む

 

 

 

【この記事は、私がセメスター終了後に学生に提示した補助資料です】

 

あなたは、ゼミで提出するレポートの初稿を苦労して書き終えたとします。手元のフォルダーには、課題要項、初稿、引用した論文のPDF、読書中に作ったたくさんのメモがあります。推敲を始める前に、初稿のどの主張に十分な根拠があり、どの引用に確認が必要かを知りたいと考えています。

チャット型AI Claude Chat, ChatGPT, Gemini,など)に一つずつ質問することもできます。しかし、エージェント型AI Claude Cowork/Code, ChatGPT Work/Codexなど)には、一連の作業を依頼できます。例えば、AIが指定したファイルだけを読み、資料の一覧を作り、初稿の引用を原典のページと照合し、根拠が見つからない箇所を示し、その結果を一つの報告にまとめるといった複合的な作業です。その結果、あなたの初稿を書き換えず、あなたの初稿の問題点を明示するように指示することもできます。

これは、AIにレポート執筆を代行させることではありません。問いと主張を定めるのはあなたであり、どの根拠を採用し、文章をどのように推敲するかを決めるのもあなたです。AIには、複数の資料を扱う、時間のかかる確認作業を委任します。ここに、チャット型AIからエージェント型AIへ進む意味があります。

本ガイドでは、まず、あなたがAIを利用しながら人間としての主体性を保つHAHA原則を説明します。次に、チャット型AIとエージェント型AIの違い、そしてAI利用の5つの段階を見ます。そのうえで、AIとの継続的な関係を定めるグローバル指示、個々のチャットに使うプロンプト、複数の作業を委任するエージェント型AIのプロンプトを順に紹介します。最後に、AIの能力を活用しながら、利用者が最終的な判断を保つために必要なことを考えます。

このガイドの中心となる問いは、「AIにすべてをさせるにはどうすればよいか」ではありません。

私は何を決めるべきか。何をAIに委任できるか。そして、AIの成果をどのように確認し、判断するか。

 

1. HAHA原則を意識する

最初に、AIを利用するときの基本原則を明確にしておきましょう。HAHAは、Human-first, AI-second, Human-last Agencyを意味します。 Human-first, AI-second, Human-last は多くの人が唱える原則ですが、私はそれに Agency を付けて 略称をHAHAとして覚えやすくしました。

 

l  Human-first:まず人間が決める。 あなた自身が、問い、問題、主題、暫定的な解釈、アウトライン、発表計画など、知的な方向を定めます。

l  AI-second:次にAIの支援を使う。 AIは、与えられた資料の分析や比較、情報の探索、下書きへのフィードバック、承認された一連の操作など、範囲を限定した作業を支援します。

l  Human-last Agency:最後に人間が判断し、行動する。 あなた自身がAIの出力を点検し、根拠と品質を評価し、最終的な決定を行います。

 

最後の A は、Agency(主体性)を強調します。Agencyとは、「私」が決め、判断し、推敲し、行為し続ける能力と責任です。したがって、Human-lastは単なる最後の品質確認ではありません。AIの支援を受けた後に、意味のある人間の判断が戻ってくることを表します。HAHAAI支援を不可欠要素とする時代の新たな主体性です。

HAHAという語には、哄笑(高笑い)のイメージをもたせています。ニーチェの精神に照らして言えば、私たちは、AIの進展と普及により生じる困難な挑戦を高らかな笑いと共に受け止め、人間の尊厳を肯定するべきです。これからの人間は、まったく新しい世界に適応する必要があるのでしょう。HAHAという語には、人間がその挑戦に勇気をもって立ち向かい、人間的な目的・判断・尊厳を手放さないというイメージを込めています。

HAHAは、AIを広く利用することを禁じる原則ではありません。AIが高度になっても、人間が学ぶことをやめないための原則です。AIがどれほど速く作業しても、何を学ぶか、自分の主張は十分か、何を自分の作品として提出するかを決めるのは、あなたです。

冒頭のレポートの例に当てはめれば、問いを立て、主張を組み立て、初稿を書くのはHuman-firstの仕事です。複数の資料と初稿を照合する作業には、AI-secondの支援を利用できます。そして、その報告を読み、原典に戻り、主張や引用をどのように修正するかを決めるのがHuman-last Agencyです。

 


2. 全体的な変化:チャット型AIからエージェント型AI

通常のチャット型AIでは、あなたが一つの指示を出し、表示された回答を読み、次の行動を決めます。たとえば、レポートのある一文と一つの論文を提示し、「この一文は論文の内容を正確に要約していますか」と尋ねることができます。AIの回答を読んだ後、次に何を確認するかは、あなたが決めます。

エージェント型AIは、相互に関係する複数の作業を連続して進められます。この種のAIは、関連資料を読み、作業の手順を立て、利用可能なツールを使い、結果を整理し、指定された条件を満たしているかを確認して報告します。設定すれば、ワークスペース(フォルダー)を点検し、複数のファイルを扱い、新しい成果物を作成することもできます。

冒頭の例で言えば、エージェント型AIは、課題要項を確認し、指定されたPDFと初稿を読み、初稿内の引用箇所を探し、対応する原典とページを確認し、その結果を表にまとめるところまで、一つのまとまった作業として進めます。あなたは個々の照合を一回ずつ依頼するのではなく、照合の目的、対象、判断基準、完了条件をまとめて示します。

この違いに伴って、プロンプトの役割も広がります。チャット型AIへのプロンプトでは、主として「次の回答に何を求めるか」を伝えます。エージェント型AIへのプロンプトでは、それに加えて、「一連の作業によって何を達成するか」「どの資料と操作を認めるか」「どの状態を完了とするか」まで定めます。

エージェント型AIに明確な目標・文脈・制約・完了条件を与えることは、AIの活動を狭めるためだけではありません。AIが複数の作業を進める能力を、利用者の目的に結びつけ、成果を確認できるものにするためです。

 


3. Boris ChernyAI導入の5段階

Boris Cherny2026)は、Claude Codeの開発エンジニアの一人です。彼がソフトウェア・チームを説明するために示した枠組み(Steps of AI Adoption)は、非エンジニアの学生にも示唆を与えます。

次の表では、元のStep番号を保ちながら、その意味を大学生向けに翻案しています。これは全体の見通しを得るための表です。すべての学生が最上位の段階を目指すべきだという意味ではありません。

 

Step

元の名称

学生向けの意味

0

Gated

授業でAIが禁止されている、または課題がAIを使わない作業を求めているため、AIを実質的に使わない段階です。この選択が正しい場合もあります。

1

Assisted

一人の学習者が一つのAIチャットまたはエージェントを使い、重要な回答や変更のほとんどを点検する段階です。多くの授業課題は、この段階に属します。

2

Parallel

学習者が複数の限定されたAIタスクまたはエージェントを調整し、明確な基準に照らして出力を点検する段階です。

3

Supervised autonomy

AIが人間の監督のもとで、反復的なワークフローのより多くを完了する段階です。主に組織的な利用に関わり、通常の非エンジニア学生向け課題にはあまり当てはまりません。

4

AI-native

多数のエージェントが、高いレベルの意図をもとに作業する段階です。ここでは、AI利用が向かい得る広い方向を示すためにだけ紹介します。

 

Step 1からStep 2への変化は、単に「より多くのAIを使う」ことではありません。すべてのメッセージを利用者が確認する使い方から、作業後の成果を人間が容易に検証できるほど、目的、範囲、判断基準を明確に定義する使い方への変化です。

冒頭のレポートの確認を一つのエージェントに依頼し、その報告を学生が丁寧に点検するなら、それはStep 1として利用できます。資料探索、引用照合、参考文献確認などを複数の限定された作業に分け、それらを並行して進め、共通の基準で統合するなら、Step 2に近づきます。ですが大切なのはStepの高さではなく、その利用段階に応じて、学生が成果を理解し、点検し、判断できることです。

ここまで、AIを利用するときの人間の立場と、チャット型AIからエージェント型AIへの変化を見てきました。ここからは、その原則を実際の指示に反映する方法を考えます。AIへの指示には、複数の依頼に共通する「グローバル指示」と、今回の作業だけを定める「タスク・プロンプト」という二つの層があります。

 


4. グローバル指示とタスク・プロンプト:AIへの指示の二つの層

グローバル指示とは、利用するAIの設定画面から保存して、複数の依頼に継続して適用する好みや方針です。名称や設定場所は製品によって異なります。一方、タスク・プロンプトは、現在の特定の依頼だけに適用する指示です。

よいグローバル指示は、短く、さまざまな課題に共通して使えるものです。たとえば、使用言語、文体、説明の詳しさ、不確実性への対応、情報源の扱い、望ましいフィードバックの種類などを指定できます。

 

あなたは[日本語/英語]を使用し、[簡潔な/詳細な文体]で書いてください。

 

通常の依頼では、まず直接的な回答を示してください。専門用語や不慣れな用語は、平易に説明してください。

 

私の依頼が不明確な場合は、焦点を絞った質問をしてください。何らかの仮定をする場合は、その仮定を簡潔に示してください。事実、解釈、不確実性の区別が重要な場合は、その区別を明示してください。

 

最新の情報や情報源について私が求めた場合は、リンクまたは引用を示してください。確認できないことは、確認できないと明確に述べてください。

 

この例は、AIとどのような関係を築きたいかを示します。しかし、特定の授業課題だけに必要な資料、条件、出力形式などは、グローバル指示ではなく、その課題のタスク・プロンプトに書きます。

たとえば、「確認できないことは明確に述べてください」は、多くの依頼に共通する方針なので、グローバル指示に適しています。一方、「このフォルダーにあるレポート初稿と8本のPDFだけを読み、引用を原典と照合してください」は、冒頭のレポート確認にだけ必要な指示なので、タスク・プロンプトに書きます。

グローバル指示は、AIとの基本的な関係を定めます。タスク・プロンプトは、その関係を前提として、今回何を行うかを定めます。この二つを区別すると、グローバル指示を過度に長くせず、個々の作業に必要な情報を具体的に伝えられます。(グローバル指示とタスク・プロンプトの間には、フォルダーごとに設定できる指示ファイル (CLAUDE.mdAGENTS.md)がありますが、それについてはここでは割愛します)。

 


5. チャット型AIのプロンプト構造:有用な土台

授業で紹介した次のプロンプト構造は、現在でも有用な土台です。

 

# context

# role

# expectation

 

# context

# task

# final instruction

 

これらは、背景と依頼を分けるため、構造のない一文のプロンプトよりも意図を伝えやすくします。

ただし、細部が結果を左右する依頼では、次のように要素を増やし、何を求めているのかをさらに明示するとよいでしょう。(以下、説明のためにプロンプトは日本語で書いていますが、本来はプロンプトを英語で書き、AIからの回答もすべて英語にして、AIと英語の両方の使い方に同時に習熟すべきというのは、授業で何度も述べた通りです)。

 

# context

[回答を変える背景だけを示す。例:読み手、授業、提供資料、状況。]

 

# role

[任意:AIに求める視点や専門性を示す。]

 

# task

[AIにしてほしい具体的な作業を示す。]

 

# constraints

[使用できる情報源、除外する情報源、長さ、対象期間、判断基準などの境界を示す。]

 

# output format

[望む言語、文体、長さ、表、箇条書き、見出しなどを示す。]

 

# examples

[任意:望む形式が伝わりにくい場合は、短い例を一つか二つ示す。]

 

各要素の役割

      `# context` は、AIが依頼の背景を誤解することを防ぎます。読み手、授業、提供資料、すでに自分で決めたことなど、回答を実際に変える情報を書きます。

      `# role` は、文体や視点の選択に役立ちます。しかし、役割を指定するだけでは、明確なタスク、根拠、制約の代わりにはなりません。

      `# task` は、プロンプトの中心です。「説明する」「比較する」「特定する」「フィードバックする」「検証する」のような、具体的な動詞を使ってください。

      `# constraints` は、AIが作業するときの境界を示します。利用できる情報源、してはならないこと、確認できなかった情報の扱いなどを指定します。

      `# output format` は、回答の使いやすさを左右します。複数の対象を比較する場合は、洗練された文章より表のほうが役立つこともあります。

      `# examples` は、望む出力形式の曖昧さを減らします。ただし、常に必要な項目ではありません。


例:1,000語の英語エッセイへの助言

 

# context

私はアップロードしたエッセイを、大学1年生向けの英語授業課題のために書きました。このエッセイは、授業担当教員が読みます。授業担当教員は、推敲のためにAIを使うことを求めています。私は論旨をすでに決めていますからエッセイの論旨は変えないでください。私が望んでいることは、自分自身の「声」(voice)を保つことです。なお、授業の評価では、明確な立場、よくつながった段落、読みやすいアカデミック英語が重視されます。

 

# task

私の1,000語の英語エッセイについて、統一性(unity)、一貫性(coherence)、読みやすさ(readability)を確認してください。最も重要な問題を特定し、私のエッセイから短く引用して各問題を説明し、推敲のための助言をしてください。

 

# constraints

- 統一性については、各段落が私の述べた論旨を支えているかを確認してください。

- 一貫性については、段落の順序、トピックセンテンス、指示語、文と文のつながりを確認してください。

- 読みやすさについては、不必要に難しい、不明確な、または不自然な表現を特定してください。

- 助言の根拠として、私のエッセイから短い語句または文だけを引用してください。

- 私の代わりにエッセイを書いたり、私の論旨を変えたり、私自身の推敲なしで提出できる文章を作ったりしないでください。

- 問題が明らかな誤りではなく、文体上の選択である場合は、「任意」と表示してください。

 

# output format

「統一性」「一貫性」「読みやすさ」の三つの節を書いてください。各節では、「エッセイ内の位置」「観察」「読み手に影響する理由」「私のための推敲の問いまたは方略」の列をもつ表を使ってください。

 

この例では、学生が先に英文を書き、的を絞った助言をAIに求め、その結果を参考に自分で英文を推敲します。AIは文章のパターンを診断しますが、論旨を決め、最終的に推敲するのは学生です。これは、HAHA原則を保ったStep 1のチャット型AI利用です。

このようなチャット型AIのプロンプトでは、一回の回答に必要な背景、作業、制約、出力形式を明確にすることが中心になります。これに対して、複数の資料と操作を扱うエージェント型AIには、一連の作業の到達点と完了条件も必要になります。

 


6. エージェント型AIのプロンプト構造:委任のためのタスク説明

AIが計画を立て、複数の操作を進められる場合は、次のような構造が使えます。

 

# goal

[どのような結果が必要か、その結果がなぜ重要かを示す。]

 

# context

[必要な資料、読み手、状況、すでに決めたこと、ワークスペースの情報を示す。]

 

# constraints

- [してよいこと/してはならないこと、使用できる情報源、品質基準、権限、変更の限度を示す。]

 

# done when

[作業の完了を判断できる、具体的で観察可能な条件を示す。]

 

ここでは、独立した # task 見出しを置いていません。# goal に「どのような結果が必要か」と「なぜ必要か」の両方を書くためです。ただし、作業内容が複雑であれば、# task を加えてもかまいません。見出しの数より、AIにしてほしいことと、その範囲が明確であることのほうが重要です。

明確な目標、文脈、制約、完了条件が与えられると、エージェント型AIは途中の作業手順をある程度組み立てられる場合があります。利用者は、すべての細かな操作を一つずつ指示する代わりに、必要な成果と、その成果が満たすべき条件を定めます。重要な変更を含む場合には、実行前に計画を示すよう求め、利用者が確認してから進めることもできます。


各要素の役割

      `# goal` は、実行する作業だけでなく、必要な結果とその目的を示します。たとえば、「レポートを確認してください」ではなく、「初稿を自分で推敲するために、引用と根拠を原典まで追跡できる確認報告を作る」と書きます。

      `# context` は、関連ファイル、課題の条件、すでに学生が決めた問いと主張、現在の作業状態など、AIが推測すべきではない情報を与えます。

      `# constraints` は、作業の有効な範囲を定めます。読むことのできるファイル、変更してはならないもの、利用できる情報源、承認が必要な操作、判断を保留すべき場合などを示します。

      `# done when` は、作業完了の定義です。「初稿内のすべての引用が表に記録されている」「確認できない主張が明示されている」「元のファイルが変更されていない」のように、人間が後から確認できる条件を書きます。


例:レポート初稿の引用と根拠を原典まで確認する

 

# goal

私がゼミ・レポートの初稿を自分で推敲するために、初稿で使用している引用、言い換え、主要な事実的主張を、私が提供した資料まで追跡できる確認報告を作成してください。報告を読んだ後、どの主張を残し、どの資料を読み直し、文章をどのように推敲するかは、私が決めます。

 

# context

指定したフォルダーには、次のファイルがあります。

 

- 授業の課題要項

- 私が問いと主張を決めて書いたレポート初稿

- 初稿で引用または参照した8本の論文PDF

- 私が読書中に作成したメモ

 

初稿はまだ提出物ではなく、私が推敲するための作業中の文章です。私は、課題要項に従い、引用と参考文献を正確にし、自分の解釈と資料に書かれている内容を区別したいと考えています。

 

# constraints

- 指定したフォルダー内の、上に挙げたファイルだけを読んでください。ウェブ検索や外部資料は使わないでください。

- 最初に対象ファイルの一覧を示し、不足している、開けない、または判別できないファイルがあれば、その時点で報告してください。

- 初稿、PDF、メモを編集、改名、移動、削除しないでください。

- 初稿を書き直したり、新しい主張を追加したり、私に代わって結論を決めたりしないでください。

- 初稿内の直接引用、資料の言い換え、出典を必要とする主要な事実的主張を区別してください。

- 各項目について、初稿内の位置、対応する資料名、原典のページ、確認結果を示してください。

- 原典で確認できた内容、私の解釈と考えられる内容、提供資料だけでは確認できない内容を区別してください。

- 一致を確認できない場合は、推測で補わず、「確認できない」と明記し、その理由を示してください。

- 参考文献一覧にあるが本文で使われていない資料、本文で使われているが参考文献一覧にない資料があれば、区別して示してください。

- 新しいファイルを作る前に、確認報告をチャット内に示してください。

 

# done when

次の条件がすべて満たされていることを確認したら、作業を終了してください。

 

1. 対象にしたファイルと、確認できなかったファイルの一覧がある。

2. 初稿内の直接引用、言い換え、主要な事実的主張について、「初稿内の位置」「種類」「対応する資料」「原典のページ」「確認結果」「私が確認すべき点」の列をもつ表がある。

3. 提供資料だけでは根拠を確認できなかった箇所が、初稿内の位置とともに一覧になっている。

4. 本文中の引用と参考文献一覧の不一致が、種類別に示されている。

5. AIが判断できず、私自身が原典を読んで決める必要がある点が明示されている。

6. 元のファイルを一つも変更していないことが報告されている。

 

この依頼は、一つの質問に答えるだけではありません。AIは、対象ファイルを確認し、複数の資料を読み、初稿内の記述と原典を照合し、異なる種類の問題を分類し、指定された表を作り、完了条件を満たしたかを確認します。このように、関係する複数の操作を一つの目標に向けて進める点に、エージェント型AIの特徴があります。

それでも、レポート作成の主体性は学生のもとにあります。AIの報告は、学生が原典に戻り、根拠を検討し、主張を推敲するための地図です。報告そのものが学生の判断や最終的なレポートに代わるわけではありません。


プロンプト作成が難しいと感じたら

最初から四項目を完全に書く必要はありません。まず自分で、目的と守ってほしい境界を短く書き、それをもとにAIに質問させることができます。

 

次の依頼を、# goal# context# constraints# done when の構造をもつプロンプトに整理するのを手伝ってください。

 

ただし、作業の目的、私自身の考え、最終的な判断をあなたが代わりに決めてはいけません。不足している情報について、まず質問をしてください。私の回答後にプロンプト案を示し、どの部分に私の確認が必要かを明記してください。

 

[ここに自分の依頼を書く。音声吹き込みで、自分のニュアンスも含めて十分に説明した文章でもよい。]

 

AIにプロンプト作成を手伝わせる場合でも、出発点となる目的と、完成したプロンプトを採用する判断は、あなた自身のものです。

 


7. エージェント型AIの力を生かすための5つの理解

      見出しは、具体的な内容を整理するときに力を発揮します。 見出しは、AIと人間がタスクの構造を把握する助けになります。その中に、必要な資料、行為、基準を具体的に書くことで、プロンプトは実際の作業を導くものになります。

      AIの自律性が高まるほど、人間の判断はより重要になります。 AIが指示や承認を待たずに複数の作業を進められるからこそ、利用者が目的、権限、学術的誠実性の基準を定め、成果を評価する意味が大きくなります。

      AIの計画は、人間の検討を通して有用な計画になります。 エージェント型AIが作業計画を提案した場合、利用者は、その計画が目的に合っているか、扱う資料と変更範囲が適切か、成果を確認できるかを検討できます。必要なら、実行前に計画を修正させることもできます。

      観察可能な完了条件は、委任した作業を確認可能にします。 「いい感じに仕上げる」のではなく、必要な内容、情報源、ファイル形式、変更範囲、品質の確認方法を定めることで、AIにも人間にも作業の到達点が見えるようになります。

      AIの速さは、人間が根拠を吟味する時間を生み出せます。 短時間で整った成果が出ること自体は、情報源の正確さや解釈の妥当性を保証しません。しかし、資料整理や照合にかかる時間を短縮できれば、利用者は、根拠を読み、解釈を考え、授業規則との適合を確かめることに、より多くの時間を使えます。

これらの理解は、AIの能力を抑えるためのものではありません。AIに委任する作業を明確にし、その成果を人間の学習と判断へ確実に戻すためのものです。

 


8. より高い段階への招待

多くの大学生にとって、次に進むべき段階は、多数のAIエージェントを動かすことではありません。まずはStep 1で、自分が目的と成果を理解できる一つの作業をAIに委任し、その結果を丁寧に点検できるようになることが大切です。

冒頭の例で、エージェント型AIが引用と原典の照合を終えたとしましょう。学生はその報告を完成品として提出するのではありません。原典に戻り、AIが示したページを読み、報告の正確さを確かめます。そのうえで、自分の主張を支える根拠は十分か、引用は適切か、文章をどう推敲するかを判断します。AIが一連の作業を引き受けたからこそ、学生は、自分にしかできない読解と判断に、より深く取り組むことができます。

AIに許可する作業範囲を限定でき、完了条件を明確にできる作業については、Step 2へ進むこともできるでしょう。そのときには、次の問いが、自分の立場を確かめる助けになります。

 

l   私は、作業の重要な方向性を自分で決めているか。

l   私は、作業のどの部分を安全かつ有用そして倫理的にAIへ委任できるか理解しているか。

l   私は、どの資料を参照すべきか、また参照してはいけないかを指示できているか。

l   私は、何を確認できれば「done when」と言えるかを定義できているか。

l   私は、AIの出力について最終判断できるだけ、この作業を理解しているか。

 

エージェント型AIが広げるのは、AIが実行できる作業の範囲だけではありません。私たちが資料を結びつけ、根拠を確かめ、自分の考えを深める可能性も広げます。AIの能力が高まるほど、私たちは、自分が何を目指し、何を根拠とし、どこで判断するのかを、いっそう明確にできます。

最初から最も高い段階を目指す必要はありません。まず、自分で目的を理解し、成果を判断できる仕事から始めればよいのです。人間が方向を定め、AIの力を生かし、最後に人間が判断して行動する。その循環を重ねることが、AIとともに学びながら、私たち自身の新しい主体性を育てる道になるでしょう。HAHA!

 


参考文献

      Boris Cherny (2026). Steps of AI Adoption. この5段階の枠組みはソフトウェア・チームのために書かれたものです。本ガイドにおける学生向けの意味づけは、明示的な翻案です。

      UNESCO (2023). Guidance for generative AI in education and research.

      OpenAI (n.d.). Model guidance.

      Google AI for Developers (n.d.). Prompt design strategies.

      Anthropic (n.d.). Prompting best practices.

 

追記:この文書は、HAHA原則に基づいてAIを利用し、最終的に私自身が判断して作成したものです。

HAHA: Human-first, AI-second, Human-last Agency -- AI使用の原則を定め、AI時代の人間的主体性を育む

      【この記事は、私がセメスター終了後に学生に提示した補助資料です】   あなたは、ゼミで提出するレポートの初稿を苦労して書き終えたとします。手元のフォルダーには、課題要項、初稿、引用した論文の PDF 、読書中に作ったたくさんのメモがあります。推...