2022/11/26

「起承転結」、ABT、Context-Problem-Solution

 

 【この「時事」カテゴリーの記事は、学生さんへの課題リマインダーに掲載した文章をこのブログに転載しているものです。】


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先日、私のTwitterのタイムラインに "How to write a contemporary scientific article" という論文がわかりやすいという情報が入ってきました。この論文は、Open Accessのようで、誰でもPDF版で読むことができます。


How to write a contemporary scientific article

https://arxiv.org/abs/2203.09405


このようなタイトルをもつ論文ですから、Abstractも極めて読みやすいものです。


Today scientists are drowned in information and have no time for reading all publications even in a specific area. The information is sifted and only a small fraction of articles is being read. Under circumstances, scientific articles have to be properly adjusted to pass through the superficial sifting. Here I present written down instructions that I used to give to my students with almost serious advises on how to write (and how not to write) a contemporary scientific article. I argue that it should tell a story and should answer on the three main questions: Why, What and So what?


しかし上を読むだけでは必ずしも自分で読みやすい文章を書けるようにはなりません。原理・原則を理解しておくことが重要です。

ですから、ここでは起承転結の4段階(And-But-Therefore: ABTの接続詞でも説明できる)、およびContext-Problem-Solutionの3段階で区分けしてみます。


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---Context---

【起】

Today scientists are drowned in information and have no time for reading all publications even in a specific area. 

<And>

【承】

The information is sifted and only a small fraction of articles is being read. 

<But>

【転】

---Problem---

Under circumstances, scientific articles have to be properly adjusted to pass through the superficial sifting. 

<Therefore>

【結】

---Solution---

Here I present written down instructions that I used to give to my students with almost serious advises on how to write (and how not to write) a contemporary scientific article. I argue that it should tell a story and should answer on the three main questions: Why, What and So what?


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「起承転結」、"ABT"、"Context-Problem-Solution"のどれも覚えやすいフレーズですから、文章を書くときの1つの参照枠とすることをお勧めします。

ただし、話の概要がすでに読者に伝わっており、読者の読む意欲も高まっている時点で開始されるbody paragraphsなどでは、もっと単純な「topic statement-supporting sentences-topic restatement」の構造の方が好まれますので、「起承転結・ABT・Context-Problem-Solution」と 「topic statement-supporting sentences-topic restatement」のパターンはうまく使い分けてください。


追記

同じくTwitterで知った次の論文も読みやすいものです(ただし一部の箇所には、医学研究の用語が出ています)。本文は誰でもウェブ上で読むことができます。


Writing a scientific article: A step-by-step guide for beginners

https://doi.org/10.1016/j.eurger.2015.08.005



関連記事

私家版:論文執筆のための5つの手順

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2022/04/5.html

Thesis Statement (X is/does Y in Z) の3要素の説明とYとZの定め方

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2022/05/thesis-statement-x-isdoes-y-in-z-3yz.html

主張文の中に反論をどのように組み込むか

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2022/05/blog-post_23.html

2022/11/11

多様性と大規模民主主義政体の両立という「偉大なる実験」

 

 【この「時事」カテゴリーの記事は、学生さんへの課題リマインダーに掲載した文章をこのブログに転載しているものです。】


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It Can Happen Here: 8 Great Books to Read About the Decline of Democracy

By Richard Stengel

https://www.nytimes.com/2022/11/02/books/review/books-on-democracy-under-threat.html


この記事は、民主主義の危機について書かれた良書8冊を紹介するものです。今や民主主義の危機は、世界各地で感じられています。


その中でも次の本を紹介する記事のなかには、下のような記述がありました。多様性と大規模な民主主義政体は両立するのかという問い掛けになっています。

The Great Experiment: Why Diverse Democracies Fall Apart and How They Can Endure by Yascha Mounk


Progressive politicians like to say that diversity is our strength, but Mounk’s book explores an uncomfortable truth: There is little precedent for the success of a large, diverse democracy. Throughout history, democracies from Athens to Rome to Geneva were ethnically homogeneous and relatively small.


「多様性」ということばが無条件に肯定されていた時代はほぼ終わりましたが、それでも多様性の重要性は否定できません。多様性が根絶した社会や共同体がどのようなものになるかについて詳しい説明は必要ないと思います。また、そもそもこれだけ人や物や情報の流れが増したグローバル社会で、多様性を否定することは現実的に不可能でしょう。


人間社会はどう多様性と折り合いをつけるかというのがこれからの課題です。しかし上の引用にあるように、これまでの民主主義政体の成功例は、比較的同質で小規模な社会でのものがほとんdでした。現代人はまさに「偉大なる実験」を行っているのでしょう。


英語を学ぶということは、日本語共同体の文化とは異なる文化に接するということです。私たちは英語という言語について学ぶだけでなく、自らの文化とは異なる文化との付き合い方、あるいは自分の文化の変え方についても学ばねばなりません。


2022/11/03

"Food, sleep, love" は足りているのか・・・

  

 【この「時事」カテゴリーの記事は、学生さんへの課題リマインダーに掲載した文章をこのブログに転載しているものです。】


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Susan Napier

Hayao Miyazaki’s ‘Shuna’s Journey,’ Finally Translated Into English

https://www.nytimes.com/2022/11/02/books/review/hayao-miyazaki-shunas-journey.html



私の人生の師匠は、家の2匹のネコです。ネコを見ていると、生きる上でで大切なことは、"Food, sleep, love"であることがよくわかります。それらが満たされていれば、幸せというものでしょう。

しかし現代人はこれら3つをしばしば満たしていません。食事はファストフードばかり、睡眠は量的にも質的にも貧困、愛情はSNSの「いいね」で感じるような人は少なくないのではないでしょうか。

The New York Timesは、1983年に日本で出版された宮崎駿の漫画『シュナの旅』の英語翻訳版がようやく出版されたことを伝える記事を掲載しました。

宮崎駿は漫画家になりたいという希望をもっていたものの、親に反対され、大学では経済学を学びました。一方で在学中にも児童文学を読み漁り、やがては漫画・アニメの道に進みます。

しかし経済学の勉強は無駄にはならなかったようです。この『シュナの旅』は冒険物語ですが、秘剣や財宝を求める旅を描いたものではありません。主人公が求めたのは種子でした。

『シュナの旅』の世界では人身売買が横行しています。穀物の種子を求めるためです。しかしその種子は蒔かれても芽を吹くことがないものでした。(私はこの漫画を持っているはずなのですが、今手元になく、ストーリーをきちんと確認できません。ここの記述はNYTの簡単な記事に基づくものであることをお断りしておきます)。

この物語設定の背後には、宮崎駿経済学の知識があったのではないかとNYTの記事は推測しています。


Perhaps inspired by his study of economics, Miyazaki limns a society based on a ruthless and barren form of exchange, where human beings are bartered for seeds that cannot be sown but only consumed.

...

Shuna’s story is an uplifting one, and children will appreciate its adventure, mystery and above all the immersive world that the book draws us into. At the same time, its depiction of the barter system offers a tutorial in economics, while its emphasis on the need for living seed is a lesson in sustainability. 


人々が、何世代にもわたって植え続けることができる種子をもっていない状況は、なんだか現在を暗示しているようです。蒔いた種が生み出した穀物を食料としながら、その一部を次の年に蒔くというのは太古からの慣習ですが、それが今、開発された新品種の権利保護という商業的動機で制限されています(「種苗法」)。この他にも、種子をめぐる権利上の争いは世界規模でなされているとも聞きます。

もっとも私はこういった問題についてほとんど知識をもっていませんので、ここで小児的正義を訴えたり、逆に妙に大人顔をしてわかったふりをすることは控えなければなりません。

ただ、人類はこれほどに科学技術を資本主義社会で発展させたにもかかわらず、私の師匠が教える"Food, sleep, love"に不安のない社会を作り上げていないことが気になります。

人間の知性はこれから人間と社会と地球をどう変えてゆくのでしょうか。科学者こそ文学、ひいては児童文学、さらには漫画を読んでほしいと私は思っています--逆に言うと、漫画ばかり読んでいる者は科学を勉強しろということですが(自虐的笑い)--。


上山晋平 (2022) 『英語リテリング&ショート・プレゼンテーション指導ガイドブック』明治図書

 

京都大学自律的英語ユーザーへのインタビュー」を重ねていてわかったことの1つは、スピーキングは学習者にとって非常に重要な象徴的な意義をもっているということです。"I can speak English"という表現は、しばしば"I can use English"を意味します。それだけに学習者にとって「英語をしゃべれた/しゃべれなかった」という経験はとても痛切です。

インタビューからは、しゃべれなかった学習者がその体験を発奮材料にして英語の学習に励むというエピソードが多く聞かれました。スピーキングは英語学習全般を駆動する要素であるとすら言えそうです。

それほど大切なスピーキングですが、私は恥ずかしながらその指導技術をあまりもっていません。その理由(というか言い訳)の1つは、私が日頃はスピーキングの授業をもっていないことです(そもそも私の所属校の英語必修科目にはスピーキングを指導する科目がありません)。

しかし今年の前期に、諸般の授業で4月第2週から急に他人が担当するはずだったTest-Takingという4技能統合系の授業を教えた時には、必要に駆られたはずなのに十分なスピーキングの指導ができなかったことは素直に反省しなければなりません。この授業経験から得た知恵は「英語学習相談FAQ」にまとめましたが、やはりスピーキングに関する知見は他の領域の知見に比べて少ないものでした。


本書『英語リテリング&ショート・プレゼンテーション指導ガイドブック』は、福山市立福山中・高等学校の上山晋平先生が、10年以上にわたるこれまでの試行錯誤から学んだ結晶をまとめたものです。記述がとても具体的ですので、大学という校種を異にする私のような教師にもとても示唆的です。かといって単なるノウハウ集でもなく、本書の芯には、STEP1: Reproduction, STEP2: Retelling, STEP3: Short Presentationという筋道が通っています。



上に「スピーキングの授業がないから、自分にはスピーキングの指導技術がない」と言い訳した私ですが、そもそもスピーキングの指導も、その他のライティング・リスニング・リーディングの指導の延長でできるはずです。例えばライティングの授業でも、学生が書いた英文を口頭での表現能力開発に活かすこともできるはずです。もちろんリスニングやリーディングの指導でも同様です。

「いや、スピーキングの指導をする時間などありませんから」などとできない言い訳をすることは本当に容易です。しかし、学習者の未来のためという教育の本分から、少しでも授業改善したいと思わされました。(私たちは、できない言い訳を朗々と語る能力を頭の良さと思い込む悪癖をそろそろ捨てるべきでしょう)。


小中高で日々忙しく働きながら、このように実践書を出版する先生方には本当に頭が下がります。大学というより研究志向の高い校種で働きながら、十分に実践的な研究をできていない自分としては、このような書籍の出版を発奮材料として日々を充実させねばと思います。



追記

上山晋平先生が以前にご出版されていた『高校教師のための学級経営 365日のパーフェクトガイド』が好評のため、この度改訂版が出ました。ICT、Z世代、非認知能力、探究、就職支援などの項目を追加し、要望の多かった資料のダウンロード化も実現したそうです。




 

私は先日、勤務校の「教養教育実践研究会」で日頃の授業の実践報告をしました。

人格的コミュニケーションとしての授業:スライドと解説動画


ですが、この度この改訂版をざっと読み返しても、授業者としての自分は穴だらけであることを痛感させられました。教育学部出身の大学教員としての私は、大学教員はもっと小中高教員の実践--とくに苦しい状況をくぐり抜けてきた教員の実践--から学ぶべきだと思っています。

関連記事
上山晋平 (2015) 『高校教師のための学級経営 365日のパーフェクトガイド』明治図書
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2015/03/2015-365.html



"AI is an empowerment tool to actualize the user's potential."

  本日、「 AIはユーザーの潜在的能力を現実化するツールである。AIはユーザーの力を拡充するだけであり、AIがユーザーに取って代わることはない 」ということを再認識しました。 私は、これまで 1) 学生がAIなしで英文を書く、2) 学生にAIフィードバックを与える、3) 学生が...