2022/05/21

Thesis Statement (X is/does Y in Z) の3要素の説明とYとZの定め方


ライティングの指導(学部教養課程の英語ライティングと院生の修士論文・博士論文執筆)に関して、私はThesis Statementを優先的に考えて、それから所定のフォーマットに即してアウトラインを作成することを勧めています。


Thesis Statementは、X is/does Y in Zの型で書くように指導しています。Xが主題 (topic)、Yが主題に関する断定 (controlling idea) 、Zが断定の具体的根拠 (details) です。





このThesis Statementの3要素が揃っていないと、文章は散漫なものになります。よく見られるのはXは決まっているが、それについていろいろな事が語られているだけの文章です。そのような文章の多くは「この論文はXについて論ずる」といった言い方で始まります。そういった文章を読み終えた読者は「Xについて書かれていることはわかるが、著者はいったい何を言いたいのかわからない」と思ってしまいます。


そこでYも定めて X is/does Y で書くと、なるほど読者は著者の主張はわかります。しかしその根拠が述べられていないので読者としては納得することができません。著者の方でも、同じ主張を延々と繰り返すわけにもいかず、文章を書き足すことができません。


そこで根拠のZを加えます。通常はZ1, Z2, Z3など複数の根拠(理由や例示など)を示して、読者を設定します。


このように最初にX is/does Y in Zを定めておくと、後はその骨組みにしたがって文章を肉付けするだけです。Body paragraphはZの数だけ設けます。全体としてはIntroduction-Body Paragraph(s)-ConclusionというBeginning-Middle-Endの3部構成とします。そしてそれぞれの部にもBeginning-Middle-Endの3つの要素をもたせるという3x3構造が基本となります。





上の図ではbody paragraphを横に展開していますが、もちろん論文は一直線に進みます。下の図はその象徴的な表現です。






しかし肝心のX is/does Y in Zがなかなかまとまらないという学生さんは少なくありません。そういった学生さんは「XとYを決めたのだが、Zとして何を書いていいかわからない。そもそもきちんとしたZがあるのだろうか」と悩みます


その場合は、発想を変えてください。Zから先に考えるわけです。そもそもXという主題を決めたからには、Xについていろいろなことを知っていたり考えていたりしているはずです。まずはそれを徹底的に書き出してください。そうbrainstormingです。


しかしbrainstormingで書き出した項目についてすべて書こうなどとは思わないでください。そんなことをすれば、英語ライティングで特に重視されているUnity and Coherenceが崩れてしまいます。


関連記事:京都大学国際高等教育院英語教育部門ウェブサイト

学術ライティングの基本:Unity and Coherenceの原則を貫きながらParagraph Writingの形式で書く

https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english/consultation_jp_FAQ#frame-570


ですからbrainstormingという枚挙の後は、選択と排除を徹底的に行なってください。そしてその選択と排除において、「Xについてどんな主張ができるだろうか」ということを考えます。つまりXについて自分が立証可能なYが何であるかを発見するわけです。


このYの発見は、同時にZの発見でもあります。Yの断定はZの根拠に支えられているからです。X(主題)について思い起こしたさまざまの項目の中で、何かの主張(Y)の根拠(Z)となる項目はどれだろうということを徹底的に考えるわけです。その結果で、Xの概念把握ももっと精緻なものになるかもしれません。

この過程を順番に並べますと、(1) 主題 (X) の決定、(2) 根拠 (Z) の選択と排除、(3) 主張 (Y) の発見、(4) 主題の精緻化、となります。





この徹底的な思考は苦しいものですが、この苦しさを回避して適当なX is/does Y in Zを作り上げても、それを少し詳しく展開したアウトラインすらも完成できなくなります。枚挙と選択・排除の過程で徹底的に考え抜いてください。私の経験では枚挙だけで数時間、選択・排除ではその数倍の時間がかかることも珍しくはありません。


以上、X is/does Y in Zの形でThesis Statementをまとめる場合には、Zの候補を徹底的に書き出して、そこの選択・排除を重ねながらYとZを同時に発見するやり方を紹介しました。「抽象的な骨組みを定めてから具体的な事柄に入る」というのは大原則ですが、時にその逆に「具体的な事柄を徹底的に書き出して、そのリストの中から抽象的な骨組みを考える」というやり方も有効だということです。


ただし、「とにかく何か書いてゆけば、そのうち骨組みが見えてくるだろう」と思って文章を書くことだけは止めてください。ごく短い文章ならともかく、ある程度の長さをもった文章でしたら確実に失敗します。時間を浪費した挙げ句に単位や学位を失うのは皆さんですから、十分気をつけてください。



関連記事:

私家版:論文執筆のための5つの手順

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