【最近始めたこの「時事」カテゴリーの記事は、学生さん向けの文章をこのブログに転載しているものです。】
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なぜ私たちは主張をするのでしょう?それはその主張を他人に認めてもらうためです(もしあなたが自己満足のために主張をしているのではないとしたら)。そして「他人」には私たちの主張と反対の主張をもっている人も含まれます。それならば、自分が書く主張文で、そういった異論をもつ人を敵にしてしまうことは意味のないことです(もしあなたが敵対や「炎上」で注目を浴びることを喜びとしているのではないとしたら)。
現代アメリカでもっとも一般読者に影響をもつ哲学者の一人であるDaniel Dennettも、異論をもつ人に語りかける場合の4原則を以下のように示し、まずは異論をもつ相手に対しての理解と敬意を払うことを求めています。
1 You should attempt to re-express your target’s position so clearly, vividly, and fairly that your target says, “Thanks, I wish I’d thought of putting it that way.”
2 You should list any points of agreement (especially if they are not matters of general or widespread agreement).
3 You should mention anything you have learned from your target.
4 Only then are you permitted to say so much as a word of rebuttal or criticism.
https://www.themarginalian.org/2014/03/28/daniel-dennett-rapoport-rules-criticism/
先日のThe New York Timesに掲載された論説も、まずは異論(=自分が否定したい見解)を示し、それに一定の理があることを示すという構成を取っています。現代アメリカについて悲観的になるのはもっともだということをさまざまな観点から具体的に示します。
しかしIntroductionの最後の部分で、その論説はタイトルで示唆されていた自説--アメリカについて楽観的でありうるかもしれないということ--に移ります。
冒頭部分で具体的に異論についての理解を示していたからこそ、以下の結論部分は読者にとって説得力をもつのかもしれません。
Just as dictatorships advertise their strengths but hide their weaknesses -- both to others and to themselves -- democracies do the opposite: We obsess over our weaknesses even as we forget our formidable strengths. It is the source of our pessimism. But it is also, paradoxically, our deepest strength: In refusing to look away from our flaws, we not only acknowledge them but also begin fixing them.
We rethink. We adapt. In bending, we find new ways to grow.
We have a demonstrated record of defanging right-wing demagogues, debunking left-wing ideologues, promoting racial justice, reversing crime waves, revitalizing the political center and reinvigorating the American ideal. Our problems may be hard, but they are neither insoluble nor new.
Those without our freedoms will not be so fortunate.
Can We Still Be Optimistic About America?
https://www.nytimes.com/2022/05/10/opinion/can-we-still-be-optimistic-about-america.html
私の授業ではArgumentative Essayのパターンとして、以下の3つのパターンを示しています。
(1) 自説だけを主張し異論については一切言及しない。
(2) 最後のbody paragraphで異論を簡単に述べた後すぐに反論する。
(3) Introductionの部分で異論を示した上でThesis Statementで自説を述べる。
上のNYTエッセイは (3) に相当します。皆さんは自分の主張文が具体的には誰に向けられたものなのか、そしてその読者層にどのような変化をもたらすことを目的とするのかよく考え、どのパターンで書くかを決めてください。ただ、どのパターンを選ぶにせよ、目的は人々の間にある溝を広く深くするためではなく、溝に橋を架けるためであることは忘れないでください。
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