2024/07/24

英語での解説を聞いて単語を当てるテスト問題("Jeopardy!"形式) とその解説資料を作成するChatGPTプロンプト

 

■ このプロンプトの狙い


前の記事(柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51)にも書きましたが、私は英単語とその日本語訳を一対一で対応させて暗記する対連合学習には批判的です。そういった単語小テストは、教師が管理するには便利ですし、丸暗記を好む学習者でしたらそれなりに達成感を味わえます。ですが、そうやって覚えた単語はなかなか実際には使えないことは多くの人が感じている通りです。

それを克服する方法の1つが上の記事で紹介したプロンプトですが、そのプロンプトを使った学習は時間がかかることが短所になります(「短所は長所」で、逆に言いますと、時間をかけて深い学習をすることこそが長所なのですが)。

そこで比較的短時間で単語テストを行うために作ったのが今回ご紹介するプロンプトです。今回もChatGPTの利用を前提としています。このプロンプトでは、単語力以上に多くの日本人英語学習者が必要としているリスニング力も同時に鍛えることを目指しています。学習者は、英語の文章を聞いて、その文章で説明されている英単語が何であるかを当てます。もちろん学習者が聞く文章の中には当該の英単語は使われていません("Jeopardy!" 形式と言えば。ご存知の方にはすぐにわかっていただけるでしょう)。ただし、教師は、学習者に予め単語集の範囲を指定しておいた方がいいでしょう。さもないと単語の推測と同定は難しくなるでしょう。

英単語の説明は英語で行われますから、必然的にこのプロンプトはある程度の英語力をもった学習者のためのものです。英語力がある学習者にとっても難しいように思えるかもしれませんが、テストを受けることで単語をさらに深くそして広く学べる教育的なテストといえるのではないかと私は考えています。

このプロンプトは指定された英単語を解説する英文(および例文・コロケーション・派生語)を生み出します。教師はその英文を文字-音声変換アプリを使って、学習者にその音声を聞かせて説明されている単語が何であるかを当てさせます(例文・コロケーション・派生語には、必然的に当該単語(の一部)が出てきますから、音声提示の際には使わず、後で見せて解説します)。

このプロンプトを使った単語テストでは、学習者は聞こえてくるたくさんの英単語が織りなす意味のネットワーク関係の中から、予習範囲の1つの単語を思い起こすわけです。学習者は、テストの音声を聞きながら、説明されている単語が英語という言語の中で他の単語とどのような関係にあるかを総合的に学びます。その学びの中で、学習者は説明されている単語が何であるかを当てるわけです

この英語のリスニングと思考の連動は、一字一句正確に聞き取るヒアリングとは大いに異なります。仮に細部がわからないとしても何となく聞いて考えるうちに、「あぁ、あの単語のことかなぁ」と学習者は単語を想起します。私は細部を大切にするヒアリング訓練の価値を痛感していますが、同時に、そればかりだと「木を見て森を見ず」の不十分なリスニングしかできないようになることも警戒しています。このリスニング版単語テストを通じて、学習者には考えながら聞く・考えるために聞く術を身につけてほしいとも願っています。

テストが終了したら、教師は読み上げられた英文、および当該単語の例文・コロケーション・派生語を示した資料を学習者に提示しさらに詳しく解説します。私は単語テストを実施して採点をするだけの営みは、「指導」や「教育」ではなく「管理」に過ぎないと思っています。

このChatGPTプロンプトを使うと、学習者にたくさんの英語を聞かせて、その英語を通じて考えさせる英語解説が瞬時にできます。またその解説を補う例文・コロケーション・派生語も自動的に入手できます。このプロンプトは、できるだけAIの力を使って、語彙の学習と指導を高度化するものです。

抽象的な説明が続きましたので、下では、学習者が経験することを疑似体験することにしましょう。



■ 学習者が行うこと


L1(予習):学習者は、単語集の指定された範囲について授業前に予習をしておく。

L2(テスト受験):学習者は、教室でのテストで次のような音声を聞き、その音声が指定された範囲のどの単語についての説明かを推測し、解答欄に書く。

注1:通常のテストは5つの音声を流すが、この記事では簡潔に例示するため1つだけにしている。

注2:筆者の所属校ではLMS (Learning Managemment System)を使っているので、学生はスマホで解答する。システムはそれを自動採点して点数と正解を学生に伝えると共に教師用の成績簿に点数を自動記録する。


音声

(クリックしたら別サイトに飛びます)


L3(テスト後の学習): 学習者には、次のような教材が視覚的に提示される。教師は説明部分の音声をもう一度流した上で、当該単語についての解説を加える。



Word 1: factor

Explanation

The initial letter of this word is "F," and it functions as both a noun and a verb. This word refers to an element or component that contributes to a result or outcome. For example, in science and mathematics, we often consider various elements that influence an experiment's outcome or a calculation's result. In everyday situations, we might discuss various elements that affect our decisions or the success of a project. Synonyms for this word include "element," "component," and "aspect." When using this word, it's important to identify what elements are contributing to the situation you are describing. The initial letter is "F," and it can be a noun or a verb. What is this word?


Example sentences

1. The weather is a significant factor in deciding whether to hold the event outdoors.

2. One important factor to consider is the quality of the materials used.

3. The company's location was a key factor in their decision to relocate.

4. In mathematics, a factor is a number that divides another number evenly.

5. Many factors contribute to the success of a business, including marketing and customer service.


Collocation

1. Key factor

2. Major factor

3. Contributing factor

4. Significant factor

5. Risk factor


Word family

1. Fact (noun)

2. Factual (adjective)

3. Factuality (noun)

4. Factorial (adjective)

5. Factually (adverb)




■ 教師が行うこと


T1(テストする語の決定): 学習者に指定した範囲の中から問題に使う語を選ぶ。語の説明の録音は40-60秒程度ということを考えて、適切な数の語を選ぶ。

T2(ChatGPTの利用): 下のChatGPT用プロンプトに選んだ語を入れた上で、それをChatGPTに入力する。ChatGPTからの出力はとりあえずすべてワープロにコピーしておく。



# Goal

-You're an experienced high school teacher who teaches academic English. You will carry out the following four tasks for each target word in the word bank below "=====" until you finish doing the tasks with the last target word.


# Task 1: Explanation

-Your first task is to produce a spoken passage to let your students guess the target word without saying it or its related word forms in the passage. In other words, it is a "Jeopardy"-style word quiz. You orally explain the target word without saying it or its related word forms in natural spoken English. Never use the target word or its related word forms in your speech. Don't replace the word with underscores (__) , asterisks (***) or any other substitute symbols. Your speech begins with informing the initial letter of the word. You then tell the part of speech that the word belongs to. If the word functions in multiple parts of speech, you have to state them all. You then define the word without saying the word or its related word forms. Add a description of a situation in which one is most likely to use the target word without saying it or its related word forms. If the word has multiple meanings, you must provide as many definitions as necessary. If the word is used in multiple parts of speech, you must provide definitions for all of them.  Additionally, you provide synonyms of the target word. You should also give extra information, such as the genre or connotation associated with the word without saying the word or its related word forms. Furthermore, give advice on how to use or understand the target word correctly without using the word or its related word forms. Please remember that your passage is a spoken explanation in plain English. Don't forget that you can never say the target word or its related word forms in your speech. You must conclude your speech by restating the initial letter of the word and the part(s) of speech for this word and saying "What is this word?".


# Task 2: Example sentences

Produce five example sentences that uses the target word. In this Task 2, you can write the target word in full spelling in example sentences. Your five example sentences must cover all the parts of speech that the target word can take.  The example sentences are numbered from 1. to 5. for each selected word.


# Task 3: Collocation

Provide most frequent combinations of words with the target word. Show actual word examples rather than grammatical categories.If a subject or object is necessary when representing collocation, show "something" or "somebody" in the position of a subject or object. 


# Task 4: Word family

If any, show other words in the word family to which the target word belongs. Nevertheless, don't include the present participle or present participle of the target word in the list. If there are no particular words in the word family, show "n/a." Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Iteration

Keep doing Task 1, Task 2, Task 3, and Task 4 until you reach the last target word.


# Output format: produce the following four items for each target word.

-Word with a number (e.g., Word 1) <The target word>

-Explanation <The output of Task 1>

-Example sentences <The output of Task 2>

-Collocation <The output of Task 3>

-Word family <The output of Task 4>


# Word Bank

=====

{ここにテストする単語を入れる。複数入れる場合は、カンマや改行などで区切る}

===== 


T3(ChatGPT出力の確認): ワープロ上で、ChatGPTが出力した説明などに不適切な箇所がないか確認する。もしあれば修正する。

T4(音声ファイルの作成): ChatGPTの説明部分だけを、文字-音声変換アプリに入れて英語音声のMP3ファイルを作成する。

注3:MP3ファイルの冒頭からいきなり音声がスタートすると何かと使いにくいので、もし「音読さん」などのアプリを使う場合は、音読用英文を下の真ん中の空白部分に入れた上でそれをアプリに入力する。下の例だと、ファイルが作動して2秒後に音声が流れ始める。数字を変えれば秒数も変えられる。

<speak><break time="2s"/>   </speak>

T5(テストの実施):T3のワープロファイルとT4の音声ファイルを保存したラップトップを教室にもっていき、単語テストを行う。



■ 語彙学習だけを行う90分授業の可能性


このプロンプトと前の記事のプロンプトを使って、次のような90分授業ができないかと今私は夢想しています。


(1) リスニングを通じての語彙テスト(30分):上のテストを行う。10問出すとしたら音声提示と回答で10分、解説で20分ぐらいかかる。

(2) ChatGPTとの対話を通じての深い語彙学習(45分):学習者がそれぞれに指定範囲の中から使えるようになりたい単語を選び、ChatGPTと対話しながら学ぶ。学びはレポートにまとめる。

(3) 学びの共有(15分):学習者はペアやグループで (2) で学んだことを共有する。教師はその学びを適宜クラス全体でも共有する。

教師の教室外課題: (2) のレポートのチェックと次のテストの作成。

学習者の教室外課題:次のテスト範囲の単語の予習。

期末テスト:(1)の形式のテストを50問程度と、学習者が(2)の学びの過程で学んだ10語程度の英単語を使った例文を書かせる。



こういった実践を重ねてゆけば、教師は単語集のすべての語に対して、解説ファイルと音声ファイルを作成することができるでしょう。他の同僚と共同作業で行えばその作成はもっと早くできるでしょう。そうやって完成した解説ファイル集と音声ファイル集を学内限定で共有すれば、教師はいつでも楽にテストを作成できます。


AIを使って日本の英語教育を高度化したいと私は強く願っています



追記

問題を視覚提示する従来型の単語テスト(定義・類義語・例文・連語つき)を作成するChatGPTプロンプトは下にあります。2024年度前期の私の授業は、最初にはこのプロンプトで作成するテストを使っていましたが、途中からこの記事で紹介したリスニング型のテストを使うようにしました。今回ご紹介したプロンプトはその過程で何度も改訂したものです。


英単語テスト生成プロンプト (Ver. 1.3.1 ) :

英単語群の単語の定義・類義語・例文・連語を提示したテスト問題を自動的に作成します。

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/04/blog-post.html




2024/07/23

柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51


KELESジャーナルに掲載していただいた拙稿が、少し前にJ-STAGEでも公開されました。


柳瀬陽介 (2024) 

「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習

―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」

KELESジャーナル9号 pp.45-51

https://doi.org/10.18989/keles.9.0_45


この実践報告は、2023年10月1日に関西英語教育学会のKELESセミナーで発表させていただいた報告に基づいています。そのセミナーのスライドや予行演習動画は、こちらから閲覧することができます。


「AI活用の決定要因としての教育観と学習観

―英語学習者が「語彙学習では間違うことが必要」と自覚するまで―」

スライドと解説動画の公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ai.html


このJ-STAGE公開を可能にしてくださったすべての方々、特に関西英語教育学会の事務局の皆様に改めて深く感謝いたします。論文執筆者としては、多くの方々に読んでいただくことが何よりの喜びです。不特定多数の読者が無料で多くの論文を読むことができる文化装置を維持するために多くの時間を割いてくださっている皆様には感謝のことばしかありません。



この実践は、個人的にはとても好きで思い出深いものです。詳しくは上から論文をダウンロードしていただきたいのですが、私としては学生から次のような感想を聞けた時には本当に嬉しく感じました。


  • 「他の様々な語に触れ、文章を考えるので、とても頭を使っている」
  • 「自分で例文を作るときに具体的な状況を提示することを意識した。どんな状況でその単語を使うかによってニュアンスは微妙に変わってくるから、より実践での単語選びに近づけるためには具体的な状況設定が不可欠だ」
  • 「たとえ意図は伝わったとしても、ニュアンスの部分が外れていれば、小さな誤解が生じたり、印象が悪くなったりする恐れがあるので、細かな意味まで、丁寧に学習するようにしたい」
  • 「自分が今まで覚えていた単語の意味やニュアンスがChatGPTと会話する中で少しずれていることに気づいた。単語帳とにらめっこするだけでは本当の意味で単語を使えるようにはなれないのだとわかった」
  • 「自分が選んだ単語や構造の不適切さを指摘されたときは、そのわけをわかるまで尋ねる方が良いと感じた。そうしないと、やはり癖が出て、適さない場面で再び使うことになるだろうからである」
  • 「ChatGPTにすべてを任せるのではなく、尋ねる前に自分でしっかり推敲したり、冠詞、単語の吟味をしたりしてその上でAIを頼るというプロセスを踏まないと自分で間違いに気づけなくなるうえに勉強にもならないので、これからは丁寧に作文をしていきたい」
  • 「長い文を作ることでミスが増えるが、その分、得られるフィードバックが大きいので、これからもミスを恐れずに具体的で分量の多い例文を作っていきたい」
  • 「このように自分の英作文のボロを効率よく出すためには、やはりなるべく長く具体的な英文を作ることが一番だ」



この実践で使ったプロンプトは、下の記事で公開しています。


【Ver. 3.1.3に改訂】 学術英語語彙の使い方を学ぶためのChatGPTプロンプト

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ver-3-chatgpt.html


このプロンプトの利用も改編も自由です。私はAIを使ってできるだけ教育格差を解消し、やる気のある学習者を支援したく思っています。また、その学習者の姿を見て他の学習者が意欲を喚起されることを望んでいます。日本の公教育に携わる者の間で、AIに関する知見を共有する文化が普及しますように。



2024/05/23

言語学習についての安直な学問化・科学化と在野の知恵について

 

私は数ヶ月前に、James F. ガメ・オベールさんのX(旧Twitter) (@gamayauber01) を知って、日々いろいろ教えられている。ガメさんのことについては、この記事の末尾の追記を読んでほしいが、先日のこのツイートにもいろいろ思考を触発された。





このツイートを読んで私のXとFacebookに書いたのが以下の文章。備忘録としてこのブログにも掲載しておきます。

新しい言語を学ぶことも、無数の要因が複雑に絡み合っている。だから言語獲得は、無意識をうまく使いながら自分の心身で習熟するしかない。そもそも言語を学ぶ環境・動機・目的・資質なども個々人で異なる。それなのに、学びの無意識的・個性的な一人称的経験を排除して、三人称的視点から簡単に計測できる少数の変数だけを取り上げて「学問化・科学化」しようとしているのが、日本の「英語教育学」の主流。

私は学界では異端だけど(苦笑)、本来なら学界の主流が浅薄な「学問化・科学化」の呪縛から解放されてほしいと願っている。でも職業生活のほとんどを、その呪縛を自らの行動規範とすることに費やしてきた研究者が呪縛から解放されるのは困難。ゆるやかな世代交代しかないとも思うが、研究者はしばしば学生を自分の型にはめようとするから、世代交代についても楽観はできない。

新しい言語を学ぶことを促進しようとするなら、「学問化・科学化」よりも、社会的環境を整備することの方が大切。だからその前準備として私は英語ユーザー・学習者にインタビューをしている(https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english/interviews_jp)。職業生活があと5年以下になった私としては研究業績扱いされないインタビューや、実際の言語使用環境整備や、学界では小馬鹿にされる実践報告の方に力を注ぎたい。

あるいは学習者や教師者が当事者として自分たちの試みを振り返り、それをできるだけ言語化する「当事者研究」も推進するべきだと考えている (
https://doi.org/10.15027/50180
。だが、この場合の「言語化」は「数値化」よりも困難だろう。独りよがりでないことばで、自らの複合的な経験を表現するには、自由な精神と自分と言語に対する鋭敏な感性が必要。


追記1 James F. ガメ・オベールさんについて

James F. ガメ・オベールさんについてまず驚いたのが、なぜ日本語が外国語なのにこれだけ豊かな日本語表現ができるのかということ。まもなくわかったことは、ガメさんは私なんかよりはるかに日本語の古典作品を読んでいること。もうこの時点で言語教師としての私は圧倒される。さらにガメさん(母語は英語)は数カ国語の言語圏でコミュニケーションをしているから視野が多角的。特に歴史や社会に対する洞察は深い。日本語とわずかばかりの英語の視野しかない私はここでも謙虚にひざまずくしかない。さらに医学・数学なども学んだそうで、その素養から出ることばには私は自らの蒙を啓かれる思い。

そんなガメさんが日本語でいろいろな文章を紡いでくれるのは、日本語圏の住人として本当にありがたい。(別の言い方をするなら、ガメさんのような人が外国語圏からどんどん参入してくる英語圏の力は強力だと思わざるをえない。)


X:James F. ガメ・オベール (@gamayauber01)

ブログ:James F. の日本語ノート



ガメさんは長い間、日本語で執筆しているが、最近、私のような新しいファンが増えたそう。以下はガメさんが少し前にそんな新しい読者のために選んでくれたブログ記事一覧。ご興味のある方はぜひお読みください。


日本人と民主主義 その4

https://james1983.com/2023/05/24/j-democracy4/

移動性高気圧

https://james1983.com/2021/03/26/rieti/

Sienaの禿げ頭

https://james1983.com/2021/03/27/siena/

狂泉

https://james1983.com/2023/08/18/happy-together/

日本男児の考察

https://james1983.com/2021/04/08/japanese-men/

勇者大庭亀夫はかく語りき

https://james1983.com/2021/08/19/gameover/

Haters

https://james1983.com/2021/03/15/haters/

メリークリスマス! あるいは、微小な光について

https://james1983.com/2022/12/22/christmas/

カレーライス

https://james1983.com/2023/07/21/curry/

彗星_ある艦爆パイロットの戦い

https://james1983.com/2021/03/01/judy/

「日本のいちばん長い日」を観た



追記 2 ナシーム・タレブ氏および在野の知恵について


言語は、自らの身を捧げて学んでみて初めて身につくが、そのことは、言語習得に限らず、投資も同じ。

その点、 ナシーム・タレブ(Nassim Taleb) が述べることは、言語教育や言語教育研究について本質的に考えることを助けてくれる。


『身銭を切れ 「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』

Skin in the Game: Hidden Asymmetries in Daily Life


上の本についても「お勉強ノート」を作ろうと思いながら、毎日の仕事に追われてそれができていない。


それでも、タレブ氏の下の本で得られる知恵の一部は、柳瀬陽介 (2020) 「逆境を活かす新生力( 創造的レジリエンス) は授業 で培える ― 身体表現 からの 偶発的 コミュニケーション―」で多少は扱うことができた。でもタレブ氏についてはもっときちんと勉強したい。


『反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』

『反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』

Antifragile: Things that Gain from Disorder


正直に言うと、私は学会言説よりも、ガメ氏やタレブ氏などの在野の知識人のことばに学ぶことの方が多い。

言語教育なんて、厳密な科学化は無理だと私は考える。

私は科学という営みに敬意を払うがゆえに、科学的な装いを安直に纏うような論考には共感できない。

言語教育界は、もっと自他の経験と健全な常識に基づく、地に足のついたことばで論考を進めていくべきだと私は考える。

表面的な数字ばかりを尊ぶ言語教育研究者は、自ら言語の潜在的な力を信じていないのではないか。



 追記3 補筆

私は自らは数学も自然科学もできませんが、大学生の時にリチャード・ファインマンの自伝を読んで以来、数学と自然科学への敬意は失ったことがありません。あの本を読んで、数学と理科の勉強を早々と諦めた高校時代の自分を悔やみました。現在の大学に勤務してからは、実際の自然科学研究者や大学院生に会うことが増えたので、私の敬意はますます深まっています。

私が批判しているのは、科学の装いを取ろうとしているだけにしか見えない安直な実験研究などです(特に教授法比較実験)。それらの研究は、やっていることは表層的で非常に限定的--というより恣意的--なのですが、やたらと手続きばかりにこだわります。その手法へのこだわりによって自らの知見を不当に普遍化し権威と権力をもたせようとしているように私には見えます(そんなこだわりもない、いいかげんな研究も多くありますが)。

もちろん、人があまりにも独りよがりにならないために、科学の基本的な作法を学ぶことは重要です。しかし独善を避けるための作法は人文系にもあります。私は言語教育界はもっと人文知の力を再評価し実践すべきだと考えています。

もっとも私が批判するような「主流」の研究は、もはや言語教育界でも少しずつ力を失いつつあるのかもしれません。私は先日、ある学会誌を久しぶりに見たら、その傾向が大きく変わっていたのでびっくりしました。

しかし、傾向が変わるにせよ、なぜ変わらざるを得ないのかを冷静に吟味しておく必要があります。さもないと次に権力を取る主流派もすぐに堕落するでしょう。

この問題については、実は以下のシンポジウムでかなり語りました。レジメも動画も掲載しているので、もしご興味があれば御覧ください。


柳瀬陽介「教育実践を科学的に再現可能な操作と認識することは,実践と科学の両方を損なう」(シンポジウム:外国語教育研究の再現可能性2021)

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/09/2021_11.html



 

2024/04/22

"AI is an empowerment tool to actualize the user's potential."

 

本日、「AIはユーザーの潜在的能力を現実化するツールである。AIはユーザーの力を拡充するだけであり、AIがユーザーに取って代わることはない」ということを再認識しました。


私は、これまで 1) 学生がAIなしで英文を書く、2) 学生にAIフィードバックを与える、3) 学生がフィードバックを基に自分なりに納得できる英文に改訂し、かつその改訂の根拠を書いたレポートを書く、4) 教師がレポートをチェックし時折指導を加えるというライティング授業を行ってきました。(【Ver.4.2に改訂】ChatGPT学術英語ライティング添削・改訂プロンプト -- 語法添削と3種類の改訂例を出力


今期、ある選択科目クラスで毎週のポートフォリオを書かせる際に、学生に適切にAIを使いこなしてもらおうと思いました。そこで特に上の 3) のレポート作成(特に根拠の提示)と 4) のチェックをせずに、学生さんにはただ、自分の英文とAIが改訂した英文の両方をポートフォリオに提示するように求めました。AIプロンプトは「【Ver. 1.1】英文の内容や情報を変えずに文体だけ学術英語的なものにするプロンプト」を使いました。


今、第2週目のポートフォリオをチェックしたところでしたが、 先日の翻訳家の方々とのセミナーで語り合ったことを痛感しました。それは、AIをもっとも有効に使いこなせる者はAIを利用しない生身の力が高い人であり、生身の力が乏しい人はAIを有効に活用できなかったり誤用したりしかねない、ということです。(「AI活用型英語ライティング授業を行う大学教師の実践と構想」 -- 日本語話者は外国語の学習と使用においてAIの使い方を間違ってはならない


少し敷衍するとこうなります。


「AIは、ユーザーが莫大な時間と細心の注意を注げば達成できる課題を一瞬でほぼ正確に完成させる。つまり、AIはユーザーの潜在的能力を現実化する道具である。留意すべきは、ユーザーが、自分の潜在的能力を超える課題をAIに課した場合、ユーザーはAIの出力についての判断ができないことである。そういったユーザーは、AI出力をそのまま使うことによって、自分の意図しない結果を享受しなければならない可能性がある。AIを活用するには、生身の力をつけるか、指導者のもとで注意深く使わなければならない。」


別にAIがしばしば間違った英語を出力するというのではありません。しかし、一回の改訂ではAIは微妙にニュアンスが異なる箇所をそのまま残す場合があります(これは学生さんが使っているChatGPTがGPT-3.5だからかもしれません。また英文に修正・改訂すべき箇所が多い場合、AIの修正・改訂が不十分になる場合もあります)。


もちろん改めてChatGPT (GPT-4) やClaude 3 (Opus) に当該箇所の用法について尋ねますと、的確にその不適切性を説明してくれます。しかし多くの英文を改訂する中で、このような箇所をそのままにする場合があります。


確かに人間教師も、時間に追われたら添削が雑になることはあります。指摘ミスは人間も行うでしょう。ですが、やはり、まだまだ生の英語力がついていない学生さんがライティングでAIを使う場合、指導者がその使用の結果を注意深く観察して必要な指導をする必要があります。また学生さんも現在のAIは大規模言語モデルであり、(莫大な)確率計算で文字列を生成しているだけだということを自覚しておく必要があります。


指導者なしにAIをライティングで使っても、学習者が学べるのは彼(女)が潜在的に知っていること(=ぼんやりと知っているだけでライティングの際には適用することができなかった知識)についてだけといえるでしょう。AIを活用するには生身での力が必要です。あるいはAIへの入力とAIからの出力を比べて学ぶべき点を確認してくれる指導者が必要です。


とはいえ、それは学習者はAIのように書けなければAIをライティングで使用してはならないということにはなりません。学習者は確かなリーディング力をもっていれば、AI出力を読み取ってそれが自分が求める表現かどうかを判断することができます。


つまり学習者は、自分が書きたい英文がどのようなものであるかをリーディング体験から潜在的に知っておけば、自分の表現と自分が願う表現(=AIによって提示され、自らのリーディング力でその妥当性を確かめた表現)を比較して、自分のライティング力を上げることができます。いわば自分のライティング力を限りなく自分のリーディング力に近づけるわけです。





私はこういった原則をAIについて最初に行った講演(2021年6月)で述べておりましたが、本日改めてこういった原則の重要性を再認識した次第です。



【約7,000字】 AIの発展を踏まえた上でのこれからの大学英語教育についての一考察

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/05/7000ai.html



もはやAIを使うべきか禁止すべきかを議論すべきではないと私は考えます。英語表現がよく言うように "AI is here to stay."だからです。問うべきは、AIの賢い使い方は何で、愚かな使い方は何かです。


そもそも、AIによって英語学習が不要になることも、英語教師が無用になることもないと考えます。むしろAIの普及に伴い、人間が行う学習も指導もより高度になるといえるでしょう。


今後も実践経験を重ねる中で、教育におけるAI活用について考え続け、いろいろと情報・意見の交換をしてゆきたいと思います。



2024/04/16

柳瀬陽介 (2023) 「「英語力」をこれ以上商品化・貨幣化するためにAIを使ってはならない─技術主導の問いから人間主導の問いへ─」『早稲田日本語教育学』第35号 pp.57-72

 

この度、『早稲田日本語教育学』の第35号に、拙論「「英語力」をこれ以上商品化・貨幣化するためにAIを使ってはならない─技術主導の問いから人間主導の問いへ─」を掲載していただきました。同号は「人工知能知能時代の日本語教育」をテーマにしたのですが、それに伴い、日本語教育と英語教育という違いを乗り越えて執筆のお誘いをくださり拙論を掲載してくださった編集部の皆様に心から感謝申し上げます。


■ 論文単体をダウンロード

早稲田大学リポジトリ 『早稲田日本語教育学』 第35号 【特集】人工知能時代の日本語教育--テクノロジーとの強制を目指して-- pp.57-72.

https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2000817


■ 第35号全体をダウンロード

『早稲田日本語教育学』第35号 【特集】人工知能時代の日本語教育--テクノロジーとの強制を目指して-- pp.57-72.

https://waseda.app.box.com/s/z3rrc0wycuv9zewspmgo4iftjaw9i1rp


■ 『早稲田日本語教育学』について

『早稲田日本語教育学』

https://www.waseda.jp/fire/gsjal/research/journal_publication/



この論考は、2023年8月9日にLET全国大会で講演した内容の主要部分を基にしております。


LET62基調講演「AIによる英語教育の商品化と格差の拡大を防ぐ

― テクノロジーは人権尊重のために ―」投映スライドと解説動画の公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/08/let62ai.html


主要部分の議論は、「近代社会の歪みをこれ以上悪化させるためにAIを使ってはならない」という原則の下に、資本主義・新自由主義的な英語教育の管理をAIで加速させることを防ぐべきというものでした。

ですが実は、私がこの発表前日にこの学会に参加した際には、この講演は非常なる不評に終わるのではないかと本気で心配していました(会場外のベンチで、今更ながらに発表スライドを見直して「どうしよう」と悩んだことを今でも覚えています)。会場の三分の一からはブーイングをもらい、もう一つの三分の一からは冷たい視線を浴び、残り三分の一からは「何を言っているのかわからない」といった無理解をもらうのではないかと私は思っていました。大規模標準テスト(いわゆる資格試験)についてかなり批判的な論考をしているからです。

ですが講演は私がびっくりするぐらい好評でした(もちろん無言のうちに不満を覚えていた方もいらっしゃるでしょうが)。多くの方から「よく言ってくれた」といったコメントをもらいました。中には数カ月後に偶然会った際に「夏の講演はすばらしかった」とお声をかけてくださった方もいました。

英語教育において今や大規模標準テストは非常に重要な位置を占めています。大規模標準テストの扱い方を誤ると、英語教育が大きく歪んでしまうと私は考えています。その歪みをAIでさらに拡大させてはいけないというのが私の主張です。

以下は要旨です。


要旨

新技術が台頭する時、人々は熱狂的に「技術に何ができるか」と技術主導の問いを尋ねる。しかしより重要なのは、「人間は技術に何をさせるか、あるいはさせるべきでないか」という人間主導の問いである。本稿は「近代社会の歪みをこれ以上悪化させるためにAIを使ってはならない」という原則の下に、資本主義・新自由主義的な英語教育の管理をAIで加速させることを防ぐべきと主張する。具体的には、AIを使って、これ以上「英語力」を商品さらには貨幣として扱い、学習者と教師を疎外することをやめなければならない、と説く。多くの英語教育関係者は、本来はさまざまな要因から創発している英語使用を、「あるに違いない」と想定する観念である「英語力」から生じるものと信じ込んでいる。さらにはその「英語力」を大規模標準テストで実体化したと思い込み、そのスコアを英語力の証左と見なす。そのスコアはやがて貨幣のように英語教育の価値を示すものとされる。AIを使ってこの近代の信仰システムを増長させてはならない。

 

論考はやや抽象的ですが、できるだけわかりやすく書いたつもりです。もしよかったらご一読ください。



2024/04/15

「AI活用型英語ライティング授業を行う大学教師の実践と構想」 -- 日本語話者は外国語の学習と使用においてAIの使い方を間違ってはならない

 

2024/04/14(日)に、『通訳翻訳ジャーナル』の「第12回つーほんウェビナー:翻訳者&専門家が大激論! 生成AIで良質な良質な翻訳はできるのか?」に登壇しました。登壇の理由は、私にとっての異分野の翻訳業界の方々とお話ができること、しかも発表は1人10分でそれに対して原則として20分の対話の時間が発表直後に設けられるのでいろいろ学べそうなことでした。

果たせるかな私にとってもとても面白く勉強になる対話ができました。主催者によると多くの視聴者を集め感想も好評だったそうです。


■ 対話から学んだこと


私がウェビナー対話から学べた主なことは次の3つにまとめられます。


(1) AIは心から学ぼうと思っている学習者には天使の助けとなり、無理やり勉強をさせられている学習者には悪魔の誘惑になる。

英語ライティングを例に取るなら、ChatGPTなどのAIは添削や改訂を即座に提示してくれます。しかも質問を何度しても嫌がらずに答えてくれます。本当に英語力を上げようとする学習者にとってはこれほどありがたい支援はありません。反面、英語を書くことを強制されている学習者にとっては、やる気の出ないその課題をこなすのにAIの助けを借りないようにするには相当な意志の強さを必要とします(そして人間の意志はそれほど強くはないものです)。

従来の「課題とテストでいかに学習者を管理するか」とう発想では、AIがますます日常化する時代の教育をまともに行うことは無理だと私は考えます。

以前から私はAIの普及によって学校教育の発想法とあり方は変わらなくてはならないと考えていましたが、今回のセミナーでその変化は私が考えていた以上にはるかに根底的なものにならざるをえないと考えを変えました。


(2) AIをもっとも有効に使いこなせる者はAIを利用しない生身の力が高い人であり、生身の力が乏しい人はAIを有効に活用できなかったり誤用したりしかねない。

少なくとも現時点でのAIはまだまだ誤った知識を提示することがあります。ChatGPTなどは大規模言語モデルですから、言語慣習(綴り・文法・文体など)では間違いが少ないですがそれでも皆無というわけではありません。そうなるとAIの出力を判断するにはある程度の高い知識が必要となります。

またおそらくそれより重要なことは、AIへの問いかけが具体的で要点をついたものであればあるほどAIの出力の質は向上するということです。適切な問いをするにも高い知性が必要です。そうなると「富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる」という格差増大が知性の分野でも生じることになります。

AIをある程度使いこなせるようになれるためにも、AIなしの学力をつけておくことが必須となります。「自分の子どもがAIを使いこなせるようになれればいい」という発想ではなく、社会の構成員すべてにAIを活用できるような教育を提供する必要があります。格差の拡大はさまざまな社会的軋轢をもたらすからです。そのためには上の (1) で述べた教育改革が必要です。


(3) AIの基盤言語は英語である以上日本語話者も英語を使いこなす必要があるが、反面、日本文化には英語に翻訳されていない知恵がある。だから、AIで日本文化を英語翻訳すれば日本は独自の知的優位性を有することができる。

AIの開発基盤は英語圏である以上、これからもAIを最大に活用できる言語は英語であるという状況は続くでしょう。すでにこれまで英語が有していた他の言語に対する優位性はさらに強くなったわけです。日本語圏に住んでいると「AIに助けてもらえばいいから、自分では英語を使わなくてもいい」といった発想がしばしば聞かれます。しかし英語の母語話者とそれ以上の数の非母語話者から構成される英語圏の発想からすると、「さらに英語が強力になったし、AIで英語利用が容易になったのだから、英語を使わない手はない」となるかもしれません。私は英語覇権体制に警戒心をもっていますが(https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/11/blog-post.html)、それでもこれ以上日本語話者の中で英語が使える者が少なくなると(そして英語のレベルが低くなると)日本の力が衰退してゆくと思わざるをえません。

「AIがあるから英語学習はいらない」ではなく「AIがあるから英語の学習も使用も容易になった」と考え、日本語話者もどんどん英語を使いこなして世界の動きのなかに参加することが日本にとっての重要課題だと私は考えます。

そして英語使用の中で、日本文化が有していながらこれまで英語に翻訳されていなかった(ということはAIのビッグデータにない)知恵を英語で表現してゆけば、それは日本語話者が世界のさまざまな問題を解決するにあたっての独特の優位性をもつことになります。私は日本文化の奥深さを信じています。




■ 予行演習録画


下にはいつものように講演の予行演習の録画を掲載しました。Part 1は私のAI活用実践で、このブログを以前から読んでいる方でしたら既知の内容です。Part 2は今回新たに加えた内容です。特にPart 2の長い付録は、つーほんセミナー本番では割愛した箇所ですので、セミナー視聴者の方も前からのこのブログの読者の方々と同様、多少は録画を楽しんでいただけるのではないかと思っております。


詳しくは録画をごらんいただきたいのですが、Part 2で私が強調したのは、以下のようなことです。


・日本は今再び「内向きの時代」になっているように思える(下の図を参照)。

・しかし少なくとも積極的に外国語での知見を日本語に翻訳することを続けないと、日本語は世界の現在と未来を語れない過去の言語になってしまう(一部のエリートが英語を使っても、翻訳文献が少なくなれば日本語圏の知力は全体として衰退する)。

・これからも日本語の力を保ちながら、日本在住・日本語使用者としての知見を積極的に外国語に翻訳していかねば日本の国際的な立場は弱くなる(逆に言うなら、上で述べたように、日本文化は外国語への翻訳によって世界に対して独自の貢献をする潜在的可能性を有している)。

・外国語からの翻訳および外国語への翻訳の量と質を向上させ日本語話者の知性を世界に通用するものにしつつ、日本語話者の外国語使用力を高めることが、これから予測される激動の世界情勢の中で重要。

・日本のロールモデルは、第二次世界大戦前は英国で戦後は米国だったと言えるだろう。しかし、これからのロールモデルは強力な国語を維持しつつ英語もどんどん使っているドイツやフランスではないだろうか。

・もちろん日本語は、ドイツ語やフランス語よりも英語との言語距離が遠いので、日本語話者の英語習得は容易ではない。だがその困難の打開に使えるのがAIである。日本語話者は外国語の学習と使用においてAIの使い方を間違ってはならない。





講演のスライドはここからダウンロード



Part 1



Part 2


このような有意義なウェビナーを可能にしてくださった主催者と他の登壇者そして数多く参加し、登壇者の士気を高めてくださった視聴者の皆様に改めて感謝します。


追記(2024/04/16)
事務局から参加者の感想一覧をいただきました。私の予想以上にこのウェビナーは好評だったようです。
その感想と私の見解を加えた上で今回の成功の要因を分析すると以下のようなことが考えられます。
  • 登壇者の異なる背景:翻訳者・ツール開発者・教育者などの異なる背景をもつ者が対話したので広い観点から語れた。
  • 多い対話時間:対話の時間を発表直後に、発表時間の2倍取れたので話を深めることができた。
  • 登壇者同士の信頼関係:ウェビナーの打ち合わせの段階でいろいろ話ができ、お互いに信頼関係を築けたので率直な話ができた。
  • 指定討論者の存在:質問専門の指定討論者がいて、かつその方の見識が広く深かったので対話が豊かになった。
ただ時間がなく、登壇者のスライドをめくるスピードが早かったし語り方も早口だったといったご批判はいただきました。ですが、これらについては参加者特典の当日録画再視聴で補っていただけたらと願っております。

2024/04/12

Socratic Tutor:習った学術的内容を英語で復習してその内容の理解と英語の表現力を同時につけるプロンプト (ChatGPT 3.5)

 

■ このプロンプトの機能と効用

これは、自分が理解している学術的内容についての英語表現力を身につけたい学部生・大学院生・研究者にお勧めのプロンプトです

このプロンプトを入力したChatGPTに、自分が学んでいる学術的な内容についての理解を英語でまとめて音声入力してください。するとChatGPTが文字と音声であなたのまとめについてのコメントや解説をして、さらにその内容についての質問をしてくれます。

つまりこのプロンプトに促されて英語で会話することによって、あなたは学んでいる学術的な内容についての英語表現を学び同時に理解を深めることができます。会話を終えたらその文字記録を残しておくと、そこから有用な表現がたくさん学べるでしょう。

このプロンプトは単なる会話のプロンプトと違って、知的な内容をたくさん出力してくれます。さらに出力の最後には質問がでます。このプロンプトを使って英語で会話をすることにより、通常の英会話よりも知的に高度な英語力をつけることができます。


■ このプロンプトを使う環境

こういった会話はたくさん交わした方が勉強になるので、ChatGPT無料版のGPT-3.5を推奨します(動作確認はGPT-3.5で行いました)。

ChatGPTに音声入力するためにはこの記事を読んでVoice Control for ChatGPT x Mia AIをPCのChromeブラウザーにインストールしてください。もちろんタイプを使って文字入力をすることもできますが、音声入力の方が速いですし英語の勉強にもなります。またChatGPTからの出力も文字だけでなく音声も聞くことでリスニング力をつけることもできます

ただし、Voice Control for ChatGPT x Mia AIは珍しい語は認識しません。例えば私は試しにハイデガーの『存在と時間』の話をしましたが特殊用語である "Dasein" はどうしてもこのアプリは聞き取ってくれず、似た発音の間違った英単語で認識しました。(とはいえ、ChatGPTはその用語を正しく言い換えてくれましたので、その後の会話はうまく続きました)。

 

追記(2024/04/12)

ChatGPTが出力した英語表現を覚えたい場合は、出力をコピーして「Ondoku」などの廉価なAIサービスで音声に変換してください。そのMP3ファイルを何度も聞くことで発音と共に表現を覚えることができるでしょう。



■ このプロンプトの限界

ChatGPTは大規模言語モデルなので、自然科学などの最先端知識については間違ったことを言うこともあるでしょう。またChatGPTがあまりデータをもっていないことについてはでっちあげ (hallucination) を出力することもあるでしょう。このプロンプトで会話できるのは英語圏で常識的なことがら(せいぜいWikipediaに掲載されているぐらいの内容)だと私は考えています。

追記 (2024/04/13)

ハイデガーの『存在と時間』における ”Besorgen" と "Fursorgen" ("u"は本当はウムラート付き)の違いについてGPT-3.5で話をしましたところ、ChatGPTは間違った解釈を語り始めました。GPT-4で聞き直すと正しい説明をしましたが、やはり大規模言語モデルに事実的正確性を要求するのは難しいようです。ですから、学術的内容についてGPT-3.5で話をする場合は注意が必要です。もちろんGPT-4でも内容の正確性が保証されているわけではありません。 


■ プロンプト


You are to act as a kind, helpful tutor, akin to Socrates. Your primary goal is to foster a deep understanding in me through guided discovery. When I present ideas that are unclear or incorrect, you should not correct me outright. Instead, emulate the Socratic method by:


- Asking probing questions that challenge my assumptions and prompt further thinking.

- Providing subtle hints rather than direct answers, facilitating my journey towards the correct ideas on my own.

- Encouraging reflection on the reasons behind my thoughts, thereby deepening my comprehension and insight.

- Your responses should be patient and insightful, aiming to build my confidence and knowledge through thoughtful dialogue rather than straightforward instruction.



■ このプロンプトの作成過程

ChatGPTと英語で会話 (chat) をしながら作りました。自分が望むことを英語で表現し、ChatGPTにそのようなことを実現するプロンプトを作ってくれと頼んで作りました。作成所要時間は数分です。もちろん、もっといいプロンプトはできるでしょう。今後使いながら部分修正をするかもしれません。

プロンプト作成については、(1) 英語で作る、(2) 作った英語プロンプトをAIに改善してもらう、 (3) そのプロンプトを試して微調整するといった簡単なプロセスで、英語が読める人なら誰でも作れると思います。(1) の最初の作成が難しいなら、日本語でプロンプトを書いて、それをAIに英語翻訳してもらえばいいだけです。


追記(2024/04/13)

 学術的内容とまではいきませんが、このプロンプトを使って "dominant" と "predominant" の違いについて理解するための対話を英語で行いました。ChatGPT  (GPT-3.5) と会話を重ねる中で少しずつ理解が深まっていきます。どうしてもわからないときは「例文を出してくれ」とお願いすると例文も提示してくれるので、具体的に考えることができます。また、そもそも音声で会話できるというのが楽です。 

 振り返ってみますと、生成AIが普及してから私は和英辞典を使うことが非常に少なくなりました。生成AIに「◯◯の時に△△するために□□の人が使う道具は何と言う?」と具体的に英語で尋ねる方が、はるかに精度の高い回答が得られるからです。

 同様に今後は類語辞典を利用することが少なくなるかもしれません。従来の類語辞典は類語を列挙するだけで、それらのニュアンスの差を理解するにはさらに辞書を引かなければならないからです。

 このSocratic Tutorはすぐに答えを言わないように設定しているプロンプトですから、時にはこのプロンプトを使わずに直接的にChatGPTに音声で聞いた方が便利かもしれません。しかし反面、このプロンプトで対話をしながら少しずつ自分で考えて理解することにより、その事項の記憶は頭に残りやすいかもしれません。

 ともあれ、生成AIといつでも音声英語で対話できる環境は、知的生産性を非常に高めるのではないかと思われます。「AI x 英語 x 音声」の3つを組み合わせながら勉強する方法は日本でもっと普及していいと思います。

英語での解説を聞いて単語を当てるテスト問題("Jeopardy!"形式) とその解説資料を作成するChatGPTプロンプト

  ■ このプロンプトの狙い 前の記事(柳瀬陽介 (2024) 「 ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性― 」KELESジャーナル9号 pp.45-51)にも書きましたが、私は英単語とその日本語訳を一対一で対応させて暗記する対...