「京都大学自律的英語ユーザーへのインタビュー」を重ねていてわかったことの1つは、スピーキングは学習者にとって非常に重要な象徴的な意義をもっているということです。"I can speak English"という表現は、しばしば"I can use English"を意味します。それだけに学習者にとって「英語をしゃべれた/しゃべれなかった」という経験はとても痛切です。
インタビューからは、しゃべれなかった学習者がその体験を発奮材料にして英語の学習に励むというエピソードが多く聞かれました。スピーキングは英語学習全般を駆動する要素であるとすら言えそうです。
それほど大切なスピーキングですが、私は恥ずかしながらその指導技術をあまりもっていません。その理由(というか言い訳)の1つは、私が日頃はスピーキングの授業をもっていないことです(そもそも私の所属校の英語必修科目にはスピーキングを指導する科目がありません)。
しかし今年の前期に、諸般の授業で4月第2週から急に他人が担当するはずだったTest-Takingという4技能統合系の授業を教えた時には、必要に駆られたはずなのに十分なスピーキングの指導ができなかったことは素直に反省しなければなりません。この授業経験から得た知恵は「英語学習相談FAQ」にまとめましたが、やはりスピーキングに関する知見は他の領域の知見に比べて少ないものでした。
本書『英語リテリング&ショート・プレゼンテーション指導ガイドブック』は、福山市立福山中・高等学校の上山晋平先生が、10年以上にわたるこれまでの試行錯誤から学んだ結晶をまとめたものです。記述がとても具体的ですので、大学という校種を異にする私のような教師にもとても示唆的です。かといって単なるノウハウ集でもなく、本書の芯には、STEP1: Reproduction, STEP2: Retelling, STEP3: Short Presentationという筋道が通っています。
上に「スピーキングの授業がないから、自分にはスピーキングの指導技術がない」と言い訳した私ですが、そもそもスピーキングの指導も、その他のライティング・リスニング・リーディングの指導の延長でできるはずです。例えばライティングの授業でも、学生が書いた英文を口頭での表現能力開発に活かすこともできるはずです。もちろんリスニングやリーディングの指導でも同様です。
「いや、スピーキングの指導をする時間などありませんから」などとできない言い訳をすることは本当に容易です。しかし、学習者の未来のためという教育の本分から、少しでも授業改善したいと思わされました。(私たちは、できない言い訳を朗々と語る能力を頭の良さと思い込む悪癖をそろそろ捨てるべきでしょう)。
小中高で日々忙しく働きながら、このように実践書を出版する先生方には本当に頭が下がります。大学というより研究志向の高い校種で働きながら、十分に実践的な研究をできていない自分としては、このような書籍の出版を発奮材料として日々を充実させねばと思います。
追記
上山晋平先生が以前にご出版されていた『高校教師のための学級経営 365日のパーフェクトガイド』が好評のため、この度改訂版が出ました。ICT、Z世代、非認知能力、探究、就職支援などの項目を追加し、要望の多かった資料のダウンロード化も実現したそうです。
私は先日、勤務校の「教養教育実践研究会」で日頃の授業の実践報告をしました。
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上山晋平 (2015) 『高校教師のための学級経営 365日のパーフェクトガイド』明治図書
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2015/03/2015-365.html