2024/04/22

"AI is an empowerment tool to actualize the user's potential."

 

本日、「AIはユーザーの潜在的能力を現実化するツールである。AIはユーザーの力を拡充するだけであり、AIがユーザーに取って代わることはない」ということを再認識しました。


私は、これまで 1) 学生がAIなしで英文を書く、2) 学生にAIフィードバックを与える、3) 学生がフィードバックを基に自分なりに納得できる英文に改訂し、かつその改訂の根拠を書いたレポートを書く、4) 教師がレポートをチェックし時折指導を加えるというライティング授業を行ってきました。(【Ver.4.2に改訂】ChatGPT学術英語ライティング添削・改訂プロンプト -- 語法添削と3種類の改訂例を出力


今期、ある選択科目クラスで毎週のポートフォリオを書かせる際に、学生に適切にAIを使いこなしてもらおうと思いました。そこで特に上の 3) のレポート作成(特に根拠の提示)と 4) のチェックをせずに、学生さんにはただ、自分の英文とAIが改訂した英文の両方をポートフォリオに提示するように求めました。AIプロンプトは「【Ver. 1.1】英文の内容や情報を変えずに文体だけ学術英語的なものにするプロンプト」を使いました。


今、第2週目のポートフォリオをチェックしたところでしたが、 先日の翻訳家の方々とのセミナーで語り合ったことを痛感しました。それは、AIをもっとも有効に使いこなせる者はAIを利用しない生身の力が高い人であり、生身の力が乏しい人はAIを有効に活用できなかったり誤用したりしかねない、ということです。(「AI活用型英語ライティング授業を行う大学教師の実践と構想」 -- 日本語話者は外国語の学習と使用においてAIの使い方を間違ってはならない


少し敷衍するとこうなります。


「AIは、ユーザーが莫大な時間と細心の注意を注げば達成できる課題を一瞬でほぼ正確に完成させる。つまり、AIはユーザーの潜在的能力を現実化する道具である。留意すべきは、ユーザーが、自分の潜在的能力を超える課題をAIに課した場合、ユーザーはAIの出力についての判断ができないことである。そういったユーザーは、AI出力をそのまま使うことによって、自分の意図しない結果を享受しなければならない可能性がある。AIを活用するには、生身の力をつけるか、指導者のもとで注意深く使わなければならない。」


別にAIがしばしば間違った英語を出力するというのではありません。しかし、一回の改訂ではAIは微妙にニュアンスが異なる箇所をそのまま残す場合があります(これは学生さんが使っているChatGPTがGPT-3.5だからかもしれません。また英文に修正・改訂すべき箇所が多い場合、AIの修正・改訂が不十分になる場合もあります)。


もちろん改めてChatGPT (GPT-4) やClaude 3 (Opus) に当該箇所の用法について尋ねますと、的確にその不適切性を説明してくれます。しかし多くの英文を改訂する中で、このような箇所をそのままにする場合があります。


確かに人間教師も、時間に追われたら添削が雑になることはあります。指摘ミスは人間も行うでしょう。ですが、やはり、まだまだ生の英語力がついていない学生さんがライティングでAIを使う場合、指導者がその使用の結果を注意深く観察して必要な指導をする必要があります。また学生さんも現在のAIは大規模言語モデルであり、(莫大な)確率計算で文字列を生成しているだけだということを自覚しておく必要があります。


指導者なしにAIをライティングで使っても、学習者が学べるのは彼(女)が潜在的に知っていること(=ぼんやりと知っているだけでライティングの際には適用することができなかった知識)についてだけといえるでしょう。AIを活用するには生身での力が必要です。あるいはAIへの入力とAIからの出力を比べて学ぶべき点を確認してくれる指導者が必要です。


とはいえ、それは学習者はAIのように書けなければAIをライティングで使用してはならないということにはなりません。学習者は確かなリーディング力をもっていれば、AI出力を読み取ってそれが自分が求める表現かどうかを判断することができます。


つまり学習者は、自分が書きたい英文がどのようなものであるかをリーディング体験から潜在的に知っておけば、自分の表現と自分が願う表現(=AIによって提示され、自らのリーディング力でその妥当性を確かめた表現)を比較して、自分のライティング力を上げることができます。いわば自分のライティング力を限りなく自分のリーディング力に近づけるわけです。





私はこういった原則をAIについて最初に行った講演(2021年6月)で述べておりましたが、本日改めてこういった原則の重要性を再認識した次第です。



【約7,000字】 AIの発展を踏まえた上でのこれからの大学英語教育についての一考察

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/05/7000ai.html



もはやAIを使うべきか禁止すべきかを議論すべきではないと私は考えます。英語表現がよく言うように "AI is here to stay."だからです。問うべきは、AIの賢い使い方は何で、愚かな使い方は何かです。


そもそも、AIによって英語学習が不要になることも、英語教師が無用になることもないと考えます。むしろAIの普及に伴い、人間が行う学習も指導もより高度になるといえるでしょう。


今後も実践経験を重ねる中で、教育におけるAI活用について考え続け、いろいろと情報・意見の交換をしてゆきたいと思います。



【Ver. 1.1に改訂】Caring Conversation with an AI Counsellor: 英語でお悩み相談をするChatGPTプロンプト

  2024/11/27 :Ver. 1.1にして、ChatGPTが最後に対話の要約を自動的に提供するようにしました。最初はChatGPTが中途半端な要約しか提供しなかったので、要約についての指示を詳細にしました。また、ChatGPTが対話の途中で勝手にWeb検索をすることを禁じ...