2023/06/12

「AIの導入で英語授業はより人間的になった ― 実践速報に基づく考察」(JACET中部支部大会基調講演)の予行練習録画とスライドを公開

 


2023年6月10日(土)の16-17時に、JACET第38回(2023年度)中部支部大会(Zoom開催)で基調講演をさせていただきました。


「AIの導入で英語授業はより人間的になった ― 実践速報に基づく考察」

柳瀬陽介 (京都大学)


講演の概要は以下の通りでした。




事務局の皆様には、貴重な機会をいただいただけでなく、さまざまなサポートをしていただきました。ここに改めて厚く御礼申し上げます。


当日は講演に引き続き、シンポジウム「AI時代の英語教育」にも私はそのまま参加しましたが、ここでは講演での私の登壇部分だけの録画と投映したスライドを公開いたします。




講演で使ったスライドのPDF版はここからダウンロード




以下、主なQ&Aの概要を掲載しています。Qは私がまとめて書き換えたものです。またAも私が当日に答えたものに若干加筆しているものもあります。ゆえにこのQ&Aは当日のやり取りの忠実な再現ではありません。


Q1:AIの浸透により、ますます学びを高度化する層と学ぶ意欲を失う層の二極化が進行してしまうようにも思えますが、いかがでしょうか。

A1:現状ではその恐れが高いです。ですから、教育者は格差拡大を阻止するためのAI活用を前提に物事を考えるべきだと思います。


Q2:学生の課題の正確さには様々な語の意味を日本語を通さずに英語を通して理解できるかどうかも関わってくるのでしょうか。

A2:私の大学での授業を前提につくったこのプロンプトについてはその通りです。私は学生に「英語ループ」に入ってもらおうとしています。もちろんAIを使って、まだ英語を英語を通して理解するのが困難な学習者を支援することも可能です。しかし、私の現在の実践ではそういった学習者はとりあえず対象としていません。


Q3:やはりチャットGPTが考えたスピーチの表現や内容を自分のものにして、人間自身が考えたことを追加で言えるように準備しておくことも英検1級を受ける学生にとって重要になってくるのでしょうか。

A3:その通りです。だからChatGPTからのrevision提案を吟味し何度も音読したあとで、再度何も見ずにChatGPTにスピーチを吹き込む学習方法を提案しています。


Q4:英語の運用能力を語る際に、AIを抜きにしたものを能力とするのか、AIを含んだものを能力とするのか、という立場の違いについてどう思われますか。

A4:「能力」の定義は、唯一絶対のものを求めるべきでなく、それぞれの文脈で定義するべきだと私は考えています(さらには、複数の能力を互いに換算互換できるように一元的に数値化することは避けるべきだと考えていますが、その話は長くなるのでここではしません)。

 私は、自分の授業が終われば基本的に学生は自学自習者しながら英語を使用するということを前提としています。ですから、私は英語力をAI抜きの生身の力を基盤としながら適宜AIを駆使できる総合的な能力として定義しています(スライドのp.196-p.200をご参照ください)。

 ただし個人的には高校生にはAIを使わない生身の力だけを「英語力」として規定した方がよいと思っております。生身の英語力(特にリスニング力とリーディング力)がないとAIを使いこなせず、AIが生み出す英語に振り回されてしまうからです。

 ともあれ、「能力」の定義には絶対的なものを求めず、それぞれの文脈でもっとも合理的な定義を採択するべきだと考えています。


Q5:自分が教えている大学の学生は、DeepLやChatGPTを活用して自分の英語力を伸ばす方法を既に知っているように思えます。その活用を妨げているのが、「AIを使うと、きちんと評価できないから」といった教師の都合なのではないでしょうか。教育界は一方で「個別最適化」を謳いながら、他方で絶対評価にこだわっている。こういったことからすると教育自体が変わらなければならないのではないでしょうか。

A5:ご意見に賛同します。スライドのp.180で示したように、20世紀型教育は、Teacher Control, Standardization, Measurementを促進することこそ教育の改善であると考えてきました。この傾向は、新自由主義が台頭し教育を資本主義的生産体制の中の歯車として考えるようになってから強まったように思えます。また、英語教育研究の多くも、Teacher Control, Standardization, Measurementの強化という前提を無批判に受け入れ、自らその方向に進むことを研究の高度化と考えているように思えます。

 私もこのような教育のあり方が変わるべきだと考えています。たとえ教育の制度がなかなか変わらないにせよ、教師の考え方はまだ変われるはずです。教師は日々よく観察し、何がよい教育なのかを考えるべきです(下の記事もご参照いただけたら幸いです)。


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