『情報の科学と技術』(73巻6号)は、「科学研究分野・学術コミュニケーションにおける言語問題」を特集しています。私は、「AI を活用して英語論文を作成する日本語話者にとっての課題とその対策」という記事を掲載させていただきました。(https://doi.org/10.18919/jkg.73.6_219)
この記事で、私は大学でAI を活用した学術英語ライティングを教える教師として、英語論文執筆を常習化していない日本人研究者のために、DeepL やChatGPT といったAI を活用する方法を示しました。活用法の中核は、AI が不得手とすることを、できるだけ人間が効果的に行うことです。別の言い方をしますと、少々のAI の進展では克服し難い、日本語母語話者が英語という外国語で考え書くという難題を克服するために注意すべき点をまとめたと言えます。たとえば「ストーリー展開の基本」としては、次の図を掲載しました (p. 221)。
この図は、下の関連記事で説明していることをさらにまとめたものです。
関連記事
「起承転結」、ABT、Context-Problem-Solution
https://yanase-yosuke.blogspot.com/2022/11/abtcontext-problem-solution.html
ちなみにこの関連記事の基になっているアイデア (Why-What-So What) は以下の記事から得ました。短くとても有益なのでぜひご一読をお勧めします。
How to write a contemporary scientific article
https://arxiv.org/abs/2203.09405
なお、この『情報の科学と技術』73巻6号には田地野彰先生も寄稿されています(「学術研究における「英語の壁」―大学英語教育研究の視点からの考察―」)。(https://doi.org/10.18919/jkg.73.6_206)
以下、敬称略で私が個人的に面白いと思った記事を簡単に紹介します。
「科学における言語の障壁」(天野達也)は、(1) 英語が第一言語でない研究者に対する言語の障壁、(2) 科学的知見の応用に対する言語の障壁、(3) 科学的知見の集約に対する言語の障壁、についてまとめています。(1) は具体的データが豊富で、(2) と (3) は英語がどんどん影響力を増すことの影の部分を描いています。(https://doi.org/10.18919/jkg.73.6_200) 私も上の自分の記事の末尾で、非英語母語話者が、すべて英語の流儀に染まっていくことへの懸念を書きましたので、特に共感した次第です。
「「厚み」ある研究広報のすすめ」(今羽右左 デイヴィッド 甫・清水 智樹)は、研究成果を広い層に伝えることについてまとめています。(https://doi.org/10.18919/jkg.73.6_225) この記事の図1は、京都大学Research Acceleration Unitのプログラム(https://ashbi.kyoto-u.ac.jp/ja/acceleration/research-acceleration-programs/)の「研究ストーリーをつくる」と「大きな研究ストーリー(研究ビジョン)を構築する」の図をまとめたものです。私の限られた経験でも、このストーリーを作るコツは一度覚えてしまえば簡単ですが、つかむまで案外時間がかかる人もいます。私としてはこのような図が表現しているような考え方を多くの人が身につけてほしいと思っています。
この『情報の科学と技術』のすべての記事は、出版から半年後に一般公開される予定です。