私がスタンダップコメディを好きなのは、もちろんお笑いが好きということもありますが、柔軟な知性と巧みな話芸を学べるからです。
この点で私がもっとも好きなのはTrevor Noahです。彼は南アフリカ出身で、現在はアメリカで活躍しています。アメリカでの非主流派(外国人・黒人)という立場からの発言は、世の中の主流派の価値観を心地よく壊してくれますし、何より彼のモノマネの技術は抱腹絶倒です。もちろんモノマネは下手をすれば偏見の助長に繋がりますが、彼を始めとした一流のスタンダップコメディアンは、ギリギリのところを突いて笑いをもたらします。移民系としてアメリカで英語を使って活躍する--いや国際的に活躍する--スタンダップコメディアンは、私の憧れのロールモデルの1つです。
Trevor Noah
https://www.youtube.com/user/trevornoah
Trevor Noahのネタで大笑いできるものはたくさんありますが、下の動画 ("How The British Took Over India" ) は、ヨーロッパ人の植民地支配について考えさせてくれるものです。
以下に、大まかな動画の秒数とそのポイントを簡単に書いておきます。これらのポイントなどに気をつけて聞いてゆけば、私たちもスタンダップコメディアンの巧みな話芸(語の選択・イントネーション・テンポ・リズム・ポーズ・表情・ジェスチャーなど)から学ぶことができるでしょう。
0:50 イギリス人 (E) とインド人 (I) の会話が始まる。それまでの導入部分でのTrevor Noah本人の知的な話し方から、尊大な態度を取ろうとするイギリス人と、のんびりして一見愚かに聞こえるが実は深い知恵をもったインド人の様子を表現する劇に変わる。Trevor Noahの話芸に注目。
01:30 I: "And I'm glad that I can tell you that India is exactly where it was yesterday."の平坦なイントネーション(逆にそれが笑いを生む)
01:50: I: "Who's the Queen?の平坦なイントネーション(逆にそれが笑いを生む)
02:01: I: "Which God?" わざと単純な聞き方をして、イギリス人のもってまわった知的な表現法と対比させている。インド人の素朴な疑問により、この後、イギリス人の欺瞞を少しずつ暴く。
02:15: E: "There is only one God, and his name is God, and you too shall worship him!" やや当惑しながらも高圧的な態度を取り続ける言い方。
02:37: I: "You don't know the name of your god?"さりげなく相手の欠点(無知)を示唆するイントネーション。
02:45:I:"Is it like mommy or daddy?" 語彙選択も含めて、柔らかく相手を子ども扱いしている言い方。
02:55:I:わざと同じ言い方を続けて、相手の発言のバカバカしさを伝えるレトリック。
03:25:"How dare you speak to me like that!" "Dare"という語からもわかるように、明らかに怒った言い方。
03:44: E "Well, well, we did." 最初の口ごもった様子で答えに困っていることがわかる言い方。
03:50: I: "You call youselves "great?"からわずかずつ皮肉の調子を上げていく言い方に注目。後半では同じ語を連続することや、"How great you are!"の語尾を伸ばすことなどで皮肉の意味がさらに伝わる。
04:16: I:"Well, in that case, welcome to Great India"相手に直接反論せず、相手の論法をそのまま自分が使うことによって、相手の論法の愚かさを示すレトリック。そのレトリックを使った時にもインド人がドヤ顔をしないことで、インド人の冷静な知性を示している。
04:40: I: "In fact, it looks like you died last week, okay?"何が正常 (normal) で何が異常かの判断基準をヨーロッパ視点からインド視点に変えたことにより観衆に新たな視点を導入する論法。
05:30:I: "She's all yours, take, take ..."イントネーションからインド人が「バカには何を言っても無駄だ」と意味しているところに注目。
また下の短い動画は、移民について批判するイギリス人のモノマネが続きますが、それを聞いていた相手の一言でなるほどと考えさせられます。
That sounds British to me
https://youtube.com/shorts/34SGjauLvw4?feature=share
ちなみに他のスタンダップコメディアンで私が好きなのは、以下の人たちなどです。
Ronny Chien https://www.youtube.com/watch?v=wckvy07xStI
Jason Leong https://www.youtube.com/watch?v=eC5cE09Ypyc
Maz Jobrani https://www.youtube.com/@Mazjobrani/featured
特にVir Dasのインド英語は、癖になりそうなぐらい私は好きです。日本語を母語とする英語話者も、上のスタンダップコメディアンぐらいに自らの「訛り」を誇れるようになりたいものだと思います。
以下は、Wikipediaによるスタンダップコメディアンのリストです。残念ながら日本出身の人は掲載されていません。
List of stand-up comedians
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_stand-up_comedians
追記
ついでに私の好きなTrevor Noahの動画をいくつか掲載しておきます。
"The Love Of Jesus"
https://www.youtube.com/watch?v=k6eW018NMSU
"New York Traffic Lights"
https://www.youtube.com/watch?v=cJAObWRmWvM
"Being Black In America"
https://www.youtube.com/watch?v=sXje3oJ8T8o&t=155s
"If You Hate Immigrants..."
https://www.youtube.com/watch?v=BOt5SmHf2aE&t=32s
"Sports In America"
https://www.youtube.com/watch?v=M3Rde73r8cQ
"My First Time Trying Tacos!"
https://www.youtube.com/watch?v=xoAU85wS1x0
"It Makes No Sense!"
https://www.youtube.com/watch?v=r5yCk6Qpuv4&t=23s
"White People Can't March"
https://www.youtube.com/watch?v=h7iDUOG3XNE
"Scared Of America"
https://www.youtube.com/watch?v=En8Tz2RzubE
"Don't Lose Your Accent / Learning Accents"
https://www.youtube.com/watch?v=MhCEdIqFCck
Trevor Noah's Snake Story Shows Who the Real Man Is
https://www.youtube.com/watch?v=fN9hm7k9fns
Trevor Noah - Some Languages Are Scary
The Best of Trevor’s Accents - Between The Scenes
最後に紹介するのは、彼が長年司会を勤めたThe Daily Showを去る時のスピーチです。彼の人柄がうかがえるもので、私は大好きです。
Trevor Thanks the Fans & Black Women Who Shaped His Life
追追記
以下はブラジルのコメディアンが英語で英語の動詞について語っている短い動画です。明らかな外国人訛りですが、彼はその英語で自分らしさを十二分に表現しています。このような表現様式を日本の英語学習者も身につけたいと思います。
"I HATE verbs in English."
追追追記(2024/07/08)
学生さんに教えてもらった下の英語落語の語り手は、座るスタンダップ・コメディアンのようなものです(笑)。私はこの人の語りはとても好きです。
Katsura Sunshine