2023/06/03

柳瀬陽介 (2023) 「大学教養・共通教育における機械翻訳活用型英語ライティング授業の成功のための諸要因 --制度・言語能力・原理的理解・教材・フィードバックの5つの観点から--」(2次出版としての英語翻訳付き)

 

この度、『京都大学国際高等教育院紀要』第6号に拙稿を掲載していただきました。編集委員会のご理解を得て、今回も[1]日本語原稿を原本としつつ2次出版も同時に掲載してくださったことに感謝しております。[2]


大学教養・共通教育における機械翻訳活用型英語ライティング授業の成功のための諸要因 --制度・言語能力・原理的理解・教材・フィードバックの5つの観点から--

Factors for Successful English Writing Classes Using Machine Translation in Liberal Arts University Education: Five Perspectives of Curriculum, Language Proficiency, Theoretical Understanding, Teaching Materials, and Feedback


『京都大学国際高等教育院紀要』6, 19-50

URL: http://hdl.handle.net/2433/283100



この報告の原稿は、ChatGPTが登場する前の2022年9月末に編集委員会に提出したもので、私がそれまで行っていたDeepLを活用した英語ライティング授業についてまとめたものです。もちろん、ChatGPTの登場以来、私の授業方法も変わりましたが、ここでまとめたことの多くは、新しい授業スタイルにも継承されています。

AIの発展につれて、これから授業スタイルもどんどん変化せざるを得ないでしょう。ある先生は「時代の流れにつれていちいち教え方を変えてゆくことが負担だし嫌だ。しばらくは静観したい」と仰っていました。しかし、私は変化し続ける適応能力を鍛えることこそがこれから重要になってゆくと考えています。試行錯誤と省察を繰り返してゆきたいと思っています。


***


[1] 以前にも『京都大学国際高等教育院紀要』には2次出版としての英語翻訳を含んだ原稿を掲載していただきました。

日本語(L1)から英語(L2)に機械翻訳されたアカデミックエッセイにおけるエラーの分類 --京都大学EGAPライティングクラスで得られた具体的な結果と一般的な示唆--

Categorizing Errors in Machine-translated Academic Essays from Japanese (L1) to English (L2): Some Specific Findings and General Implications from Kyoto University EGAP Writing Classes

 http://hdl.handle.net/2433/274096


またLET関東支部にもご理解をいただき英語翻訳の2次出版を許可していただきました。ご理解に感謝しています。

機械翻訳が問い直す知性・言語・言語教育―サイボーグ・言語ゲーム・複言語主義―

https://doi.org/10.24781/letkj.7.0_1

The Concepts of Intelligence, Language, and Language Education Revisited by the Development of Machine Translation?Cyborgs, Language Games, and Plurilingualism

https://doi.org/10.24781/letkj.7.0_19


[2] 私が2次出版にこだわるのは、認識の多様性を保つために、英語以外の言語による知的活動も促進するべきだと考えるからです。

 かといってその言語圏だけに閉ざされた活動だけしていては、他の言語圏に対して影響を与えることはできません。そこで私は、各人が第1言語で論考を書き、それをまずは英語に翻訳する2次出版が、人類規模での認識の多様性を保つための1つの現実的なアプローチとなると考えています。

 そういった論点は、以下の論考で表明しています。


「機械翻訳はバベルの塔を築くのか--大学教育課程での英語ライティング授業からの考察」『ことばと社会』編集委員会・編 『ことばと社会』 三元社 pp. 43-63.

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/03/2020.html


2次出版というアプローチでは、英語がいわば帝国的な言語として覇権的な地位を保ちますが、英語以外の言語もその生命力を失いません。HardtとNegriの "Empire" は「帝国」(empire) 「帝国的」 (imperial)  と「帝国主義」 (imperialism) 「帝国主義的」 (impeiralistic) の区別をしています。

彼らの考え方ですと、後者は近代の侵略や植民地支配の含意を有しますが、前者はそうではありません。

この区分を保つなら、私は、「英語が「帝国的」な言語として使用されることは仕方ないにせよ、英語が「帝国主義的」な言語として他の言語を抑圧することは断じて防がなくてはならない」となります。

とはいえ私が "Empire" を読んだのはずいぶん昔の話です。最近は読書をしていないので、柄谷行人の『帝国の構造』も未読です。(というより、ようやく最近せめて『力と交換様式』だけは読んでおかねばならないと焦っているところです)。

英語教育を推進する者としては、英語と英語以外の言語の関係について、常に批判的な考察をしてゆかねばならないと思っております。


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