ここでは短い英語プレゼンテーションをする必要がある人のための練習方法の一つを提示します。練習プロセスの一部でAIを活用します。
下の図を御覧ください。色使いについては、ここでは交通信号の色に準じた意味合いをもたせています。赤色が最重要課題、黄色が注意を要する課題、緑色が比較的楽な課題を意味します。
第1層:開始
まず下の2つをご参照ください。プレゼンテーションの大切さとアウトライン作成のコツを学んでください。
京都大学自律的英語ユーザーインタビュー:森和俊先生(理学研究科)
アカデミアの世界に行くと、ポジションを取るときには、
最後はプレゼン勝負になります
(14:25 どのように話すと伝わるか)
https://www.youtube.com/watch?v=9UOhoud85S8&t=866s
研究のまとめ方の基本(高校生や大学1年生のための約15分のYouTube解説動画)
https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/06/15youtube.html
第2層:コア
このテンプレートをダウンロードして、プレゼンテーションのコア(中核)を定めてください。使用言語は日本語でも英語でもかまいません。
第3層:アウトライン
このテンプレートをダウンロードして、プレゼンテーションの骨組みを確定してください。使用言語は日本語でも英語でもかまいません(ただし下の第4層ですぐに英語を話す予定の人は英語で書いた方がいいでしょう)。
第4層:リハーサル前の準備
この層では3種類のやり方があります。自分の英語力に応じてどれかを選んでください。
第1のやり方は、アウトラインをもとにまず日本語で原稿を執筆し、それをDeepLで英訳する方法です。まだ英語では精密な思考が迅速にできない人にお勧めです。
日本語原稿作成については、下の記事をご参照ください。(2023年の秋には記事は一般公開される予定です)。この文献で示された原則を使って日本語を書くと、DeepLの英語もずいぶん読みやすくなります。ただしDeepLには時に明らかな誤訳が含まれますから、最低限の修正は自分でしてください。
「AI を活用して英語論文を作成する日本語話者にとっての課題とその対策」
『情報の科学と技術』(73巻6号 pp. 219-224)
https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/06/ai-736-pp-219-224.html
追記:上の文献の要点は、日本語文を書く際には以下のことを原則にしてください、ということです。以下の中でも下線部はもっとも重要ですので、常に念頭においてください。
- Essential Point First: 最初に最重要情報を述べる。
- A Short Sentence with One Idea: 1 文は短くし、重要なアイデアは1 つしか入れない。
- Consistent Perspective: 論述の視点を揃える。
- From Old Information to New Information: 読者が処理しやすい古い情報から先に出す。
- Agent+Action: 「X は(Z を)Y する」などのように、主語と動詞を明示する構文を多用する。
- Ellipsis for Clarity:できるだけ省略を減らして、AIが明確に理解できる文を書く。
追追記:DeepLの英語がぎこちなく読みにくい場合は、この段階で一度、ChatGPTに改訂してもらってください。プロンプトは、"Revise the following text for oral delivery using the Plain Language style:" ぐらいが適切です。ただ "Please revise what follows:"ぐらいだと、ChatGPTは書きことばとして改訂します。複雑な文構造をもった書きことばは、発声されるやいなやすぐに消えてゆく音声で聞くと処理しにくいので、プロンプトには "Plain Language" と "oral delivery"という用語を入れることをお勧めします。
第2のやり方は、アウトラインを参照しながら自力で英語原稿を執筆する方法です。ある程度英語を書くことに慣れている人向けです。この場合も、適宜上の赤色で示したプロンプトを使ってChatGPTに改訂してもらってください。
第3のやり方は、アウトラインを見ながら即興で英語を話す方法です。英語での瞬発的な表現力を向上させたい人にお勧めです。
第5層:リハーサル
ここがもっとも重要な段階です。スピーチの名手と言われる人は、ほぼ例外なく何度もリハーサルを繰り返しています。上の第4層で書かれた原稿を用意した人も、その原稿を読み上げることなく、あるいは最低限その原稿に時折目を落とすだけでプレゼンテーションができるまでリハーサルを繰り返してください。
第6層:ChatGPTへの音声入力
下の記事の2番めのプロンプトを使って、ChatGPTにプレゼンテーションを音声入力してください。「スピーチ実践・改善用プロンプト」の方です。
英検1級などのスピーチ試験対策用の2種類のChatGPTプロンプト:
スピーチアウトライン作成用とスピーチ実践・改善用 (Ver. 1.1)
https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/06/12chatgpt.html
第7層:ChatGPTからのフィードバックを得る
ChatGPTが、(1) 音声認識されたあなたのスピーチ(プレゼンテーション)、(2) そのスピーチの表現に対するコメント、(3) そのスピーチを文体的に改善した英文、の3種類のデータを出力します。これらをよく読んでください。
第8層:フィードバックを分析する
上の(1)で誤認識された単語からはあなたの発音の癖がわかるでしょう(ただしChatGPTの音声認識は常に完璧ではありませんので、過剰に自分の発音を責める必要はありません)。(2) では文法・語法の点での改善点がわかります。(3) からはより効果的な表現法が学べるでしょう。
これらの分析によって、自分の表現力を一段上のものにしてください。フィードバックをもとにもう一度、第5層のリハーサルに戻って練習を繰り返してください。ある程度練習したら再度第6層のChatGPTへの音声入力を行い、第7層と第8層の学びをより高度なレベルで行ってください。
第9層:終了
満足できるまで練習ができたら(あるいはプレゼンテーションの日が来てしまったら 笑)この練習プロセスは終了です。この練習では聴衆とのアイコンタクトなどは練習できていませんので、本番ではそういった側面にも十分に気をつけてください。ただ、この練習プロセスで英語表現についてはある程度自信がもてるようになるかと思います。
AIを使ったこのような音声言語についての練習は、いわばテニスの壁打ち練習みたいなものです。人間選手とプレーするほどの練習にはなりませんが、これまでテニスボールを打つ場所がなかった者についてはすばらしい練習となります。うまくAIを使ってください。