2026/09/29

柳瀬陽介 (2026) 『AI英語学習法』岩波ジュニア新書

 

英語の勉強で自分を犠牲にしないでほしい――これが私がこの本でいちばん言いたかったことです。

英語の勉強では、何をどこまでやるかを、たいてい他人が決めています。他人が決めた教材と点数に自分を合わせているうちに、英語を学んでどう生きたいのかという、いちばん大事な問いが消えてしまいます。しかしAIを使えば自分らしい英語学習ができます!
岩波ジュニア新書『』が本日(2026/09/24)に発売になりました。高校生から読める本ですが、英語で長く苦労してきた大人の方にも届いてほしいと思っています。
表紙はネコのかわいいイラストですので、子ども向きの本に見えるかもしれませんが、中身は、そうではありません。なぜネコを表紙に描いたのかはこの記事の最後で説明します。

『AI英語学習法』専用の岩波書店ウェブサイト


若い人たちは人生の可能性を無駄にしないで!

本書は岩波ジュニア新書ですから、第1の想定読者は若い方々です。私は、若い人々が悲観主義に陥り、知性と感性を大きく開花させうる貴重な人生の時期を無駄にするのを見てはいられないと強く思っています。

  • 英語とAIで自由と幸福を手に入れよう
  • 英語をAIで学ぶのは、自分らしく生きるため
  • AIはあなたの興味をどんどん広げる
  • AIをうまく使えば、自分が主人公となって英語を使い、学べる

これらが本書の中核メッセージです。
本書の最初の20ページは、実はで公開されています。
Yosuke YANASE (柳瀬陽介)
@yosukeyanase
NYとLAの小中学校がAI利用を禁止。では「この私」はどうAIを使うのか——『AI英語学習法』20ページ無料公開
Xのタイムラインで、9月下旬発刊予定の拙著『AI英語学習法』の一部が出版元の岩波書店のウェブサイトで無料公開されていることを知りました。「ま、よくあることだよね」と読んでいたら、なんと20ページも公開されて...

英語学習の本質を掴む

本書の第2の想定読者は、英語学習で苦労しつづけている年長の英語学習者・使用者です。
私は、この本を徹底的に実用的な本にしようと思いました──上の中核メッセージが出てくるのは、私自身が徹底的にAIを実用的に使いこなした結果です。そのため、本書では、スピーキング・リスニング・ライティング・リーディングのそれぞれの領域の学びで心得ておくべき原則をできるだけ丁寧に説明しました。下はその原則の一部です。
スピーキングについて
  • 英語の学びで最優先するべきはスピーキング。なぜならうまく話せないという経験が英語アンテナの感度を高めるから
  • たいていの人は、「ぜひこのことを伝えよう」とは思っても、「絶対にこの構文を正しく使おう」などとはあまり思わない
リスニングについて
  • リスニング力は、すべての英語力の基盤。英語の音から、意味とニュアンスを瞬時に感じ取れる力がなければ、スピーキング・リーディング・ライティングの伸びも頭打ちになる
  • リスニング力の基盤を上げるには発音訓練を行うべき。日英語音声の違いを意識的かつ分析的に学んだ上で発音することによって自らの知覚の枠組みを改編すると英語も聞きやすくなる
ライティングについて
  • 英文の発想法(「強い」主語と動詞を見つける)を身につけることが決定的に大切
  • AIに和文英訳させるにしても、少なくとも、neutral, informal, formalの複数の文体の英訳例を出力させ、自らの判断力を育てることが大切
リーディングについて
翻訳に頼らず英語原文を読むべき大きな理由は、英語の語り方を学ぶため
  • 翻訳に頼らず英語原文を読むべき大きな理由は、英語の語り方を学ぶため
  • リーディング力をさらに上げるためには、英語を英語として読んでいる過程こそが楽しいような文章、日本語どころか英語の他の表現にすらも変換できないと思わせるような文章を読む
以上は、原則を抽象的に述べただけですので、まだピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。しかしその方々こそは本書が歓迎する読者です。書籍では具体的な英語表現を添えて上の原則(およびここでは紹介していない他の原則)を解説しています。本を読むことで自然と英語学習の本質が掴めるようにしたつもりです。
これらの原則は英語(再)学習中の大人の皆さんにも面白く読んでいただけるのではないかと思います。

「かゆいところに手が届く」本だが、目指しているのは学習者の自律

本書は、これまでほとんどAIに触れたことがない高校生でも、AIを使って英語学習を始められるように書きました。ある方は本書を「かゆいところに手が届く本」と評してくださいましたが、このコメントは著者としてはとても嬉しいものでした。本の指示にしたがっていけばAI英語学習が開始できるように執筆したつもりです。
ですが印刷本でAI利用を説明することには避けられない問題があります。AIの進化や仕様変更が激しすぎて、本に書いた内容が古くなってしまうことです。
それに対応するために、この本では基本的な利用原則を説明した後、AIによるマニュアルへのリンクをつけました。読者はQRコードを通じて、私が作成したAIマニュアルにアクセスできます。そこでAIの使い方をAIに説明してもらうことにより、読者が困りごとを解決できるようにしました。


ところが、残念ながらAI回答も完璧ではありません。AI利用初心者はAIを完璧な存在と誤解していることが多いので、AIからの不十分な回答には落胆するかもしれません。
そこで本書は、AIの使い方を説明した第2章のコラムで、「AIの本質とその限界」と「問いの広さと回答の深さの関係」を解説し、AI初心者がうまくAIを使いこなせるよう導いたつもりです。
この他にもリスニングについての第4章では、YouTube動画の再生法やChrome拡張機能Language Reactorの独自の利点と使い方なども丁寧に説明しています。私は多くの大学1年生と接する中で、若い人たちが案外、基本的な利用法を知らないことに気がついたからです。
とはいえ、YouTubeやLanguage Reactorも、学習者が教材・学習法・到達目標を自ら決めるために使うことを勧めています。できるだけ簡単にAIを使い始めてもらい、その後は、AIのトラブルはAIに尋ねながら自ら解決し、英語学習においても自らが学びの主人公になる──この本に流れているテーマは自律性、つまり、英語とAIを、自分のために、自分らしく、自分で学ぼうです。

プロンプトエンジニアリングの大切さは消えない──空気のように当たり前になったからだ

自律的なAI英語学習に読者の皆さんをいざなうため、この本の第6章では「プロンプト作成はAIとのコミュニケーション」と題したプロンプトの書き方を説明しています。OpenAI社とGoogle社が、AIが登場して間もない頃に説明したプロンプトエンジニアリングの基本的な考え方を「大→中→小」というわかりやすい原則に翻訳して解説しました。同時にマークダウン記法の説明もしています。
「え、プロンプトエンジニアリングなんてもう古いでしょ」と思われるかもしれません。たしかにAI界隈では、プロンプトエンジニアリングはおろか、「プロンプトエンジニアリングの次」と言われたコンテクストエンジニアリングも古い概念となっています。「これからはハーネスエンジニアリング」と言われ始めましたが、その用語もすぐに輝きを失い、ループエンジニアリングやグラフエンジニアリングに流行は移りました。
しかしプロンプトエンジニアリングの重要性は消えたわけではありません。その考え方は空気のように当たり前になっただけです。
私はAIの使いこなし方を学ぶための情報源として、YouTubeのAI仙人さんを参考にしています ──ただし下ネタが嫌いな人はご注意(苦笑)
AI仙人さんは、常日頃、AIに対しては雑に音声入力で指示するだけで良いといっておられます。ですが、ある時、そのことばを表面だけで受け取った視聴者のAIの使い方がまるで駄目なことに愕然としたそうです。
AI仙人さんは、ただ勝手にAIに音声入力しているようでいて、その入力の内容と構造はプロンプトエンジニアリングの原則に即しています。ですからAIも的確に反応するのです。ところがその視聴者の方は、ただだらだらとAIにしゃべりかけているだけだったそうです。よってAIの反応も期待値を大きく下回るものとなったわけです。


たしかに現在、AI界隈では以前のように仰々しく「プロンプトエンジニアリング」を語ることは少なくなりました。しかしプロンプトエンジニアリングの考え方は、AI利用中の基本中の基本です。プロンプトエンジニアリングはAIのヘビーユーザーがもう当たり前の行動指針として消化してしまったから話題にならなくなっただけです(同じことは、コンテクスト、ハーネス、ループについても言えるでしょう)。
よって私は、プロンプトエンジニアリングの基本的な考え方を体得しておくことは、これからの高度なAIの使いこなしのための基礎的な教養となります。自律したAIユーザーになるために、若い方にはプロンプトエンジニアリングの基本的な考え方をぜひ学んでほしいと思っています。
また私は英語のライティングを特に教えている教師として、プロンプトライティングと、パラグラフライティングおよび英語の発想法の共通点を多く見出しています──私は日頃AIを使っていて、しばしば「やはりこれは英語圏で作られた産物だよなぁ」と思ってしまいます──。このあたりもこの章で解説していますから、ぜひお読みください。
さらに述べておきますと、プロンプトを書く際に、しばしば使われ、本書でも推奨しているマークダウン記法は、特にプロンプトを書かなくても、構造的に物事を整理するには非常に便利な記法です。私自身、ある程度の長さになりそうな構想はマークダウン記法を使いながら考えます。そうしますと、思い立った時に、それをすぐにAIが理解しやすい形のインプットにできるので便利です。『AI英語学習法』を実用的な本とするために、わざわざ1つの章を割いて、マークダウン記法を使ったプロンプトの書き方を説明したのは、こういった理由からです。
AIアプリを次々に購入・購読したり、他人が作ったプロンプトを利用するのもいいですが、できればAIとプロンプトを通じてコミュニケーションをしながら、自分の可能性を飛躍的に広げる自律的なAIユーザーになりたいと私は思っています。


批判的な英語・AIリテラシーを目指して

本書の最終章は「これからの英語とAI」です。ここではただ英語とAIを礼賛するのではなく、これらを批判的に使いこなすことを読者に訴えています。
本書で紹介しているプロンプトでは、ユーザーがAIフィードバックを通じて「自然な」英語を身につけることを促しています。しかし、外国語として英語を使う者にとって、「自然な英語」とは何を意味するのでしょうか。あるいは、何を意味するべきなのでしょうか。
また本書では「英語は総合格闘技、日本語は柔道」といった、これを聞くだけでは何のことかわからない喩え(笑)で英語と日本語の発想の違いを説明しています。さらには、英語を使う以上、英語使用者が基本とする発想パターンで表現を組み立てる方が、圧倒的にわかってもらいやすいというメッセージも本書は出しています。
それなら、英語を使う際、私たちの日本語は障害に過ぎないのでしょうか?本書ではそれについても考察し、「古典や漢文は、グローバル化が進行する現代だからこそ大切」と結論づけています。ぜひこのあたりの論考も読んでいただけると幸いです。
本書はAIについても手放しの楽観論には立っていません。一部のテクノロジー企業が、国家の基盤事業を手中に収めてしまう可能性、民主主義が見かけ上の茶番となる恐れ、未来社会がディストピアSF小説の古典である『すばらしい新世界』のようになってしまう可能性についても述べています。
英語とAIについてのこのような批判意識は、できれば若い頃から、自然に、感覚的に身につけてほしいと私は思っています。イデオロギーとして頭に入れてしまうと、思考も行動も硬直化しかねないからです。だからこそ岩波ジュニア新書である本書にもこのような批判的な考察を入れました。
その上で、本書は「AI時代にこそ人間らしさを」と述べて本書を終わります。その人間らしさとは、人間以外の生物と地球全体を慈しむことを含みます。そこで私は、表紙に黒川ひゅうさんにネコのイラストを描いてもらうことをお願いしました。私は、「AIを使い始めてから、家のネコの機嫌が良くなった」ぐらいが丁度良いと考えています。

Yosuke YANASE (柳瀬陽介)
@yosukeyanase
「AIを使い始めてから、家のネコの機嫌が良くなった」ぐらいが丁度良い--『AI英語学習法』の基盤的な考え方
9/18発刊の岩波ジュニア新書『AI英語学習法』の新刊案内が出てから、何人もの方に「ネコが表紙にいますね」と言われました。やはりネコは強い。「かわいいは正義」です(←言い過ぎ 苦笑) なぜ、ネコなのか...

英語教師および英語教師志望の皆さんにはぜひとも読んでほしい

岩波書店による本書のウェブサイトを開くために、"柳瀬陽介『AI英語学習法』" でウェブ検索したら、岩波書店が本書を贈呈した方によるこの本のレビューが見つかりました(私はこの方には直接の面識はないので、まずはこの場を借りて御礼申し上げます)。
その方のレビューは次の段落で終わっていました。
そういったわけで,本書は実用の方法と背景の考え方のバランスが取れた本として英語学習をする人はもちろん将来英語教育に関わりたい人,例えば教職で英語を取ろうとする人などにも勧めたい。

著者としては大変ありがたいおことばです。かつ、本書では語らなかった私の狙いが見事に指摘されてもいて、二重にありがたかったです。
私は学士・修士・博士を、広島大学教育学部・同大学院教育学研究科で得ました。職業生活の中で20年間というもっとも長い年月を過ごしたのはその母校です。現在は、英語教育の実践者として自分の職業生活の最後を過ごしていますが、それでも英語教育とりわけ教員養成は私の関心であり続けています。私はあと2年半で定年となりますが、実践的な英語学習観──英語教育観の根底となる考え方──はかなりこの本で語り尽くしました。ぜひ未来の英語教師の皆さんには読んでほしいと思っています。
「この本は高校生以上の英語学習者のため」と自分に言い聞かせてこの本を執筆してきましたが、自分の半生は隠しようもなく、やはり私は英語教師向けのメッセージもたくさん書いていました。
ですから、現役の英語教師の皆さんにも読んでいただきたく思います。本書の読解を通じて、AIを使った英語学習について、いろいろな可能性を検討していただけたら幸いです。
Yosuke YANASE (柳瀬陽介)
@yosukeyanase
英語教師はAIで、まず自分の英語力を上げよう: 同僚の英語教師の皆さんへ
大修館『英語教育』2025年8月増刊号に書いた原稿の一部を、編集部の許可を得て転載します。英語の先生方に向けて書いたものです。「AIはまず、生徒に教えるための道具ではなく、自分が英語を学び直すための道具とし...
本書の最後の――しかしある意味、もっとも読んでほしい――対象読者は、未来と現役の英語教師の皆さんです。

本書は、本日(2026/09/24)に発売となりました。ぜひお読みください。

『AI英語学習法』専用の岩波書店ウェブサイト

追記:編集者の浜門麻美子さんに感謝します

『AI英語学習法』──本書の書名は、何の工夫もないような直球勝負のタイトルです。
実は、私としては編集者の浜門麻美子さんが一貫して提示し続けたこの書名では他書との差別化ができないと案じ、以下のようなタイトルを考えていました。
  • 『人間らしく生きるための、AI活用型英語学習法』
  • 『英語とAIを使って自分らしさを育てる──AI時代に「自分の声」で話すために』
  • 『AIを助手にして「自分の英語」をつくる―使える英語のためのAI活用法』
  • 『AIは英語学習の最良の助手 ― 使える英語を身につける』
  • 『答えを出すな、声を出せ──AI時代の英語の学び方』
  • 『英語×AI──教室の外で学ぶ5つの原則』
  • 『AIで英語を「使う」人になる──勉強を超えて、語り始めよう』
  • 『AIと「使う」英語学習 ― 主体性を取り戻すことで身につける英語』
  • 『AIが拓く英語の自由 ― 自分らしく英語を学び使うために』
しかし、浜門さんは、「この本の良さの一つは、語学学習の王道を丁寧に説いたところにあるのだから、敢えて『AI英語学習法』というまっすぐなタイトルで行きましょう」と言い続けてくださいました。それにより、私も現在のタイトルに決めました。また、帯のキャッチコピーとウェブサイトの宣伝文句は以下のようになりました。

「もっと自分らしく! もっと楽しく!王道×AIで英語マスター」
「自分のレベルと関心にあわせて勉強するから、長続きして実力がつく。英語学習の王道にAIを掛け合わせた最強の勉強法」

タイトル決定だけでなく、浜門さんは私を何度も助けてくれました。特に最初の目次構成案の時、私が思いを詰め込みすぎて収拾がつかなくなりかけた最終章の草稿執筆の時、私の原稿提出が遅れたために出版のための過酷なスケジュールで作業を進めなければならなかった時など、本当にお世話になりました。この場を借りて厚く御礼を申し上げます。

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