オンライン講演の動画公開
8/2に行ったオンライン講演「英語教育の意義 (why) ・原則 (what) ・指針 (how) :AI時代の再定義」の動画を、「未来の先生フォーラム」の事務局のご厚意でこのブログでも公開します。ご興味のある方はどうぞ御覧ください。
講演スライドは以下からダウンロードできます。
https://app.box.com/s/mwm71h8ocsrgeg513vkwx4tu7yyaag4s
なお「未来の先生フォーラムメンバーズ」に登録すれば、未来の先生フォーラムとマンスリーイベントのすべての動画を視聴することができることもお知らせしておきます。
頂いた質問への回答
オンライン講演を広島大学教育学部の卒業生が見てくれていました。その人からメールで質問をいただき回答しました。卒業生の問題意識と私なりの情報提供を共有しておきたく思い、その問答をここでも掲載しておきます。メールの掲載を許可してくれた卒業生に感謝します。
以下は、卒業生からのメールの一部です。
前置きが長くなってしまいましたが、本日の柳瀬先生のご講演で最も私の知性をくすぐったのはmeasurement/ratingとevaluation/appreciationの部分です。柳瀬先生がご存知だったかわかりませんが、学生時代よりずっと、評価や目標(特に数値)というものに疑念を抱いてきました。なかなか自身のもつ違和感や疑念を言語化することができずにもどかしさを感じてきましたが、徐々にそれもできてきつつあるように感じています。measurement/ratingとevaluation/appreciationという概念を学ぶことで、それが加速されるのではないかと感じました。
何かを達成することをめざして、目標を設定しそれを評価しようとすると、私たちはすぐにその目標や評価を目的化してしまいます。自身が本来求めていたことを忘れ、どのように目標を達成し、良い評価を得るかということが前景化し、私たちはそれに注力してしまいます。こうした陳腐化を、私は数多く経験し、自身が簡単に陳腐化した数字を追い求めるさもしい人間に堕してしまうことを知りました。読書記録を始まれば、読んだ冊数を増やすために読書をし、柳瀬先生に薦められて始めたブログは、いつしかPVのために更新をするようになってしまっていました。
こうした現象は、柳瀬先生が講演中に言及されていたように(注)Tyranny of Matrics『測りすぎ』の中で、喝破されていたものです。本書で私の印象に最も残っているのは、(うろ覚えですが)「データはそれが取るに足らないものとされ、重要だと人々に認識されていない時にこそ有用である」という一節です。内田樹先生やエマニュエル・レヴィナス師の一連の著作を渉猟し、学習指導要領で目指されていたコミュニケーション能力や現在目指されている思考力・判断力・表現力、学びにむかう人間性などは、それを目標として目指し、評価するものではなく、何か他の目標(言語習得など)を目指す内に、事後的に振り返ってみると身についていたな、と己が振り返るものであると考えるようになりました。
そこから「目指さずに目指す」という自家撞着的で、己の言葉に二重線を引きながら語るような言葉を、自身の思想の中心に据えるようになりました。日々の教育活動において実践することはもちろん、「目指さずに目指す」を理論化することはできないかと画策する毎日です。上述したTyranny of Matricsの一節は「目指さずに目指す」を社会科学的に表した言葉だと思い、非常に嬉しく感じたことを覚えています。こうした思想を体系化、理論化することはできないかと市井で(全く体系的でなく、素人同然の)研究を続けています(本当は大学院などで本格的に学びたいという気持ちもあるのですが、経済的事情や家庭の状況などもあり、なかなか思いを実現させることが困難なのが現状です)。measurement/ratingとevaluation/appreciationは、こうした私の研究を押し進めてくれるものと考えていますが、なかなかそれを学ぶことのできる書籍や論文を見つけることができていないのが、正直なところです。お忙しい中恐縮ですが、何か取っ掛かりとなるような文献をご教示いただけると大変嬉しく思います。
(注) 柳瀬が講演中に言及しようと思いながら著者名と書名をとっさに思い出すことができなかった書籍は、上に書かれているTyranny of Matrics『測りすぎ』ではなく、下のリストに掲載したKenneth J. GergenとScherto R. GillによるBeyond the Tyranny of Testing: Relational Evaluation in Educationです。
上のメールに対する返事で私が示したのが、以下の情報です。このブログでは既出情報ですが、備忘録のために掲載しておきます。
■ Measurementに関する参考情報
創造性を一元的な評価の対象にしてはいけない
https://yanase-yosuke.blogspot.com/2020/09/blog-post_90.html
Shohamy (2001) The Power of Tests のPart Iのまとめ
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/06/shohamy-2001-power-of-tests-part-i.html
「テストがさらに権力化し教育を歪めるかもしれない」
(ELPA Vision No.02よりの転載)
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2016/08/elpa-vision-no02.html
いかなる社会的指標も、社会的な意思決定に使われれば使われるほどますます腐敗に向かう圧力を受け、それがそもそも観測しようとしていた社会的過程を歪め腐敗させやすくなる
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/07/blog-post.html
Measurement and Its Discontentsの翻訳
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2017/05/measurement-and-its-discontents.html
Robert Crease氏によるエッセイ「文化を測定する (Measuring culture)」の抄訳
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/07/robert-crease-measuring-culture.html
Robert Crease (2011) World in the balanceのエピローグの抄訳
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/07/robert-crease-2011-world-in-balance.html
アルフレッド・クロスビー著、小沢千恵子訳(2003)
『数量化革命』(紀伊国屋書店)
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2013/09/2003toeflielts.html
ユルゲン・ハーバマス(1968/2000)
『イデオロギーとしての技術と科学』(平凡社ライブラリー)
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review.html#060222
デヴィッド・ハーヴェイ(著)、渡辺治(監訳)、
森田成也・木下ちがや・大屋定晴・中村好孝(翻訳)
『新自由主義』作品社
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2013/05/blog-post.html
「英語教育実践支援研究に客観性と再現性を求めることについて」の論文第一稿
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2017/06/blog-post.html
「研究力強化に向けた教員活動評価項目」への回答前文
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2014/09/blog-post.html
■ 講演中に著者名と書名を思い出せなかった書籍
Beyond the Tyranny of Testing: Relational Evaluation in Education
K.ガーゲン・M.ガーゲン著、伊藤守・二宮美樹訳 (2018) 『現実はいつも対話から生まれる』ディスカヴァー・トゥエンティワン
https://yanase-yosuke.blogspot.com/2020/09/km-2018.html
■ 「目標を前に置かない」ことについて
桜井章一(2010)『努力しない生き方』集英社新書
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/11/2010.html
■ 柳瀬は未読だが関連すると思われる書籍
多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
報酬主義をこえて
競争社会をこえて
だから僕たちは、組織を変えていける