2020/06/03

本尾千津子 (1986) 「声とことばとからだと」


英語教育さらには言語教育や教育一般についていつも啓発的なご助言をいただいている本尾千津子先生から、「片付けをしていたら古い論文が見つかったので」と、以下の論文を送っていただきました。



本尾千津子 (1986) 「声とことばとからだと」
(ダウンロード用URL)





演劇の竹内敏晴先生のレッスンに参加した上で、日頃の教室「声とことばとからだ」について考察を加えたものです。ごく自然に「私」の感じたことや考えたことがレッスンの描写の中に現れています。「<私>という主観性をどう扱うか」といった問いの立て方がことさらに仰々しく思えるほど、すんなりと描写が進むのが私にとってはすがすがしくさえ感じられました。

そういった方法論的な観点はともかく、以下の一節に共感する現場教師は多いのではないでしょうか。


声が出るということは、どういうことなのか。英語の教師であれば、一度ならず考えることである。音読のときに声の出るクラスは、私に対して率直で素直な発言をする。わからないことは、はっきりわからないと言い、質問をきちんとする生徒たちがいる。彼らの存在が全体の学習に貢献するのだ。彼らはいい意味で寛いで、学習に向かっている。声の出ないクラスは、「英語」に対して心を閉じてしまっていて、英語をいざ発音しようとすると、のどが閉じてしまう。彼らにあるのは、恐れである。からだが固くなっている。私のことばも彼らの中にすんなり入っていかない。私の方も彼らのこわばりが伝わってきて、縮み上がるような気がする。こういう中で、私の心も閉じていく。彼らのからだをほぐし、心をほぐさなくては、いい声は出ない。(28ページ)



30年以上前に書かれた論考ですが、今でも新鮮な文章だと私は考えました(そのことが含意することの一つは、30年間にわたり、英語教育・言語教育の分野においてはこういった考察が深まっていないことかもしれませんが、今はその話はこれ以上しません)。

そこで、私が本尾先生に無理にお願いして著作権関係者からの承諾を得て、このブログでの公開許可をいただきました。それにもかかわらず、コロナに伴う遠隔授業準備などの本業に追われ、公開が遅れてしまったことを本尾先生ならびに関係者の皆様にお詫び申し上げます。

英語教育・言語教育には、高度な統計手法を駆使しなければわからないこともあるのかもしれません。しかし、私は、私たちが共通にもっている感覚 --common sense--を大切にし、そこから考察を深め言語を練り上げることでわかってくる実践知の深さに惹かれます。これからも現場の実践知の解明をわすかでも進めてゆければと思っております。

改めて本尾先生に感謝します。




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