ChatGPTは、わずかの入力 (prompt) で自動的に英文エッセイを生成するだけでなく、英文の書き直しもしてくれます。このツイートは、ChatGPTの書き直しは、英語学習の点でも有効ではないかと説きました。
たしかに、技能習得のためには、自分の技能へのフィードバックを受ける経験と、その経験のある程度の絶対量が重要です。人間教師はライティングへのフィードバック(ここでは書き換え)を与えるのにかなりの時間をかけざるをえませんが、ChatGPTといったAIならわずかの時間で書き換えをしてくれます。
学習者は自分で英文を書いたら直ちにAIによる改訂版を見て、自分の改善点を学ぶことができます。この「学習者による英文書き出し→AIによる書き換えの入手→元の文と改訂版の比較による学習」というサイクルを、数多く繰り返せば、たしかに英語力は上がるかもしれません。技能向上には、自らのパフォーマンスへのフィードバックという質的な側面と、パフォーマンスを数多く経験する量的な側面の両方が大切ですが、上のサイクルの繰り返しは、両方の実現を容易にするからです。
また私のような英語ライティングの教師は、元の英文とAIによる改訂版を比較する学習者の支援をした方が、はるかに効率的に時間を使えるとも思えます。支援が必要であるのは、リーディング力が十分でない学習者は、比較から学ぶことがなかなかできないからです。また特に冠詞などについては、いくらフィードバックを受けても、その根本の考え方がわかっていないと学習者は自分でうまく使いこなせません。英語ライティング教師の主な仕事は、自ら添削・書き換えを行うことから、AIの書き換えから学習者が学べるような環境を作ることに変わるのかもしれません。
私はここ2年程度、「機械翻訳で日本の英語ライティング教育も変わらざるをえないのではないか」と思い、いくつかの発表をして文章を書いてきました。ですが、ChatGPTが英文改訂もできることがわかり、機械翻訳だけに注目していても仕方がないことが明々白々になりました。恐ろしいほどの変化の速さを感じます。
下では、ChatGPTがどのくらいうまく英語を改訂してくれるのか自分で試してみました。例文として使ったのは、学生さん(学部1回生)が書いた文章(英語・日本語)です。研究・教育目的での利用の許可は得ています。
実験1:学部1回生が完成させた英文をChatGPTに改訂させる。
実験1は、学部1回生のAさんが期末に提出した英文を、ChatGPTに書き直させるものです。私がChatGPTに対して使ったprompt(入力文)は以下のものでした。(後で見ると、機械相手に "please"などと言っていることが、我ながらおかしいですが、それはさておいてください)。
Please revise the following text, which is inserted between double quotation marks. The revised edition must be in a formal style and yet easy to read with no grammatical or spelling errors left. It must retain the original meaning and contain no explanation for the revision or interpretation. Just produce the improved edition. [以下 " "の中に入れられた学生さんの英文エッセイが続く]
その結果は以下の通りです。左がその学部1回生が書いた英文、右がChatGPTが出力した書き換えです。すべて私の主観的判断ですが、明らかに書き直しが必要な箇所は薄赤色、文体上などの理由で書き直した方がよいかもしれない箇所は薄黄色、書き換えで明らかに改善されたと思われる箇所は薄緑色でハイライトをつけています(信号機の色と同じ原則で、赤は危険、黄は注意、緑はOKといった意味合いです)。
Please revise the following text, which is inserted between double quotation marks. The revised edition must be in a formal style and yet easy to read with no grammatical or spelling errors left. Avoid the first-person and second-person pronouns, such as “we” and “you.”It must retain the original meaning and contain no explanation for the revision or interpretation. Just produce the improved edition. [以下 " "の中に入れられた学生さんの英文エッセイが続く]※ 今、このpromptを読み直してみますと、挿入のために挿入文の直後の"It" の指示対象がややわかりにくい英文になっていました。しかし、ChatGPTはその問題も克服していたようです。