2024/07/24

【Ver. 1.1に改訂】英語での解説を聞いて単語を当てるテスト問題("Jeopardy!"形式) とその解説資料を作成するChatGPTプロンプト

 2024/08/02:Ver. 1.1にして、出力に反意語を含めるようにしました。


■ このプロンプトの狙い


前の記事(柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51)にも書きましたが、私は英単語とその日本語訳を一対一で対応させて暗記する対連合学習には批判的です。そういった単語小テストは、教師が管理するには便利ですし、丸暗記を好む学習者でしたらそれなりに達成感を味わえます。ですが、そうやって覚えた単語はなかなか実際には使えないことは多くの人が感じている通りです。

それを克服する方法の1つが上の記事で紹介したプロンプトですが、そのプロンプトを使った学習は時間がかかることが短所になります(「短所は長所」で、逆に言いますと、時間をかけて深い学習をすることこそが長所なのですが)。

そこで比較的短時間で単語テストを行うために作ったのが今回ご紹介するプロンプトです。今回もChatGPTの利用を前提としています。このプロンプトでは、単語力以上に多くの日本人英語学習者が必要としているリスニング力も同時に鍛えることを目指しています。学習者は、英語の文章を聞いて、その文章で説明されている英単語が何であるかを当てます。もちろん学習者が聞く文章の中には当該の英単語は使われていません("Jeopardy!" 形式と言えば。ご存知の方にはすぐにわかっていただけるでしょう)。ただし、教師は、学習者に予め単語集の範囲を指定しておいた方がいいでしょう。さもないと単語の推測と同定は難しくなるでしょう。

英単語の説明は英語で行われますから、必然的にこのプロンプトはある程度の英語力をもった学習者のためのものです。英語力がある学習者にとっても難しいように思えるかもしれませんが、テストを受けることで単語をさらに深くそして広く学べる教育的なテストといえるのではないかと私は考えています。

このプロンプトは指定された英単語を解説する英文(および例文・コロケーション・派生語・反意語)を生み出します。教師はその英文を文字-音声変換アプリを使って、学習者にその音声を聞かせて説明されている単語が何であるかを当てさせます(例文・コロケーション・派生語には、当該単語(の一部)が出てきますから、音声提示の際には使わず、後で見せて解説します)。

このプロンプトを使った単語テストでは、学習者は聞こえてくるたくさんの英単語が織りなす意味のネットワーク関係の中から、予習範囲の1つの単語を思い起こすわけです。学習者は、テストの音声を聞きながら、説明されている単語が英語という言語の中で他の単語とどのような関係にあるかを総合的に学びます。その学びの中で、学習者は説明されている単語が何であるかを当てるわけです

この英語のリスニングと思考の連動は、一字一句正確に聞き取るヒアリングとは大いに異なります。仮に細部がわからないとしても何となく聞いて考えるうちに、「あぁ、あの単語のことかなぁ」と学習者は単語を想起します。私は細部を大切にするヒアリング訓練の価値を痛感していますが、同時に、そればかりだと「木を見て森を見ず」の不十分なリスニングしかできないようになることも警戒しています。このリスニング版単語テストを通じて、学習者には考えながら聞く・考えるために聞く術を身につけてほしいとも願っています。

テストが終了したら、教師は読み上げられた英文、および当該単語の例文・コロケーション・派生語を示した資料を学習者に提示しさらに詳しく解説します。私は単語テストを実施して採点をするだけの営みは、「指導」や「教育」ではなく「管理」に過ぎないと思っています。

このChatGPTプロンプトを使うと、学習者にたくさんの英語を聞かせて、その英語を通じて考えさせる英語解説が瞬時にできます。またその解説を補う例文・コロケーション・派生語も自動的に入手できます。このプロンプトは、できるだけAIの力を使って、語彙の学習と指導を高度化するものです。

抽象的な説明が続きましたので、下では、学習者が経験することを疑似体験することにしましょう。



■ 学習者が行うこと


L1(予習):学習者は、単語集の指定された範囲について授業前に予習をしておく。

L2(テスト受験):学習者は、教室でのテストで次のような音声を聞き、その音声が指定された範囲のどの単語についての説明かを推測し、解答欄に書く。

注1:通常のテストは5つの音声を流すが、この記事では簡潔に例示するため1つだけにしている。

注2:筆者の所属校ではLMS (Learning Managemment System)を使っているので、学生はスマホで解答する。システムはそれを自動採点して点数と正解を学生に伝えると共に教師用の成績簿に点数を自動記録する。


音声

(クリックしたら別サイトに飛びます)


L3(テスト後の学習): 学習者には、次のような教材が視覚的に提示される。教師は説明部分の音声をもう一度流した上で、当該単語についての解説を加える。



Word 1: factor

Explanation

The initial letter of this word is "F," and it functions as both a noun and a verb. This word refers to an element or component that contributes to a result or outcome. For example, in science and mathematics, we often consider various elements that influence an experiment's outcome or a calculation's result. In everyday situations, we might discuss various elements that affect our decisions or the success of a project. Synonyms for this word include "element," "component," and "aspect." When using this word, it's important to identify what elements are contributing to the situation you are describing. The initial letter is "F," and it can be a noun or a verb. What is this word?


Example sentences

1. The weather is a significant factor in deciding whether to hold the event outdoors.

2. One important factor to consider is the quality of the materials used.

3. The company's location was a key factor in their decision to relocate.

4. In mathematics, a factor is a number that divides another number evenly.

5. Many factors contribute to the success of a business, including marketing and customer service.


Collocation

1. Key factor

2. Major factor

3. Contributing factor

4. Significant factor

5. Risk factor


Word family

1. Fact (noun)

2. Factual (adjective)

3. Factuality (noun)

4. Factorial (adjective)

5. Factually (adverb)


Antonyms

1. consequence

2. outcome

3. result 

 

 




■ 教師が行うこと


T1(テストする語の決定): 学習者に指定した範囲の中から問題に使う語を選ぶ。語の説明の録音は40-60秒程度ということを考えて、適切な数の語を選ぶ。

T2(ChatGPTの利用): 下のChatGPT用プロンプトに選んだ語を入れた上で、それをChatGPTに入力する。ChatGPTからの出力はとりあえずすべてワープロにコピーしておく。



# Goal

-You're an experienced high school teacher who teaches academic English. You will carry out the following four tasks for each target word in the word bank below "=====" until you finish doing the tasks with the last target word.


# Task 1: Explanation

-Your first task is to produce a spoken passage to let your students guess the target word without saying it or its related word forms in the passage. In other words, it is a "Jeopardy"-style word quiz. You orally explain the target word without saying it or its related word forms in natural spoken English. Never use the target word or its related word forms in your speech. Don't replace the word with underscores (__) , asterisks (***) or any other substitute symbols. Your speech begins with informing the initial letter of the word. You then tell the part of speech that the word belongs to. If the word functions in multiple parts of speech, you have to state them all. You then define the word without saying the word or its related word forms. Add a description of a situation in which one is most likely to use the target word without saying it or its related word forms. If the word has multiple meanings, you must provide as many definitions as necessary. If the word is used in multiple parts of speech, you must provide definitions for all of them.  Additionally, you provide synonyms of the target word. You should also give extra information, such as the genre or connotation associated with the word without saying the word or its related word forms. Furthermore, give advice on how to use or understand the target word correctly without using the word or its related word forms. Please remember that your passage is a spoken explanation in plain English. Don't forget that you can never say the target word or its related word forms in your speech. You must conclude your speech by restating the initial letter of the word and the part(s) of speech for this word and saying "What is this word?".


# Task 2: Example sentences

Produce five example sentences that uses the target word. In this Task 2, you can write the target word in full spelling in example sentences. Your five example sentences must cover all the parts of speech that the target word can take.  The example sentences are numbered from 1. to 5. for each selected word.


# Task 3: Collocation

Provide most frequent combinations of words with the target word. Show actual word examples rather than grammatical categories.If a subject or object is necessary when representing collocation, show "something" or "somebody" in the position of a subject or object. 


# Task 4: Word family

If any, show other words in the word family to which the target word belongs. Nevertheless, don't include the present participle or present participle of the target word in the list. If there are no particular words in the word family, show "n/a." Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Task 5: Antonyms

If any, show antoyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Iteration

Keep doing Task 1, Task 2, Task 3, Task 4, and Task 5 until you reach the last target word.


# Output format: produce the following four items for each target word.

-Word with a number (e.g., Word 1) <The target word>

-Explanation <The output of Task 1>

-Example sentences <The output of Task 2: Add a number to each sentence>

-Collocation <The output of Task 3: Add a number to each collocation>

-Word family <The output of Task 4: Add a number to each word>

-Antonyms <The output of Task 5: Add a number to each word> 


# Word Bank

=====

{ここにテストする単語を入れる。複数入れる場合は、カンマや改行などで区切る}

===== 


T3(ChatGPT出力の確認): ワープロ上で、ChatGPTが出力した説明などに不適切な箇所がないか確認する。もしあれば修正する。

T4(音声ファイルの作成): ChatGPTの説明部分だけを、文字-音声変換アプリに入れて英語音声のMP3ファイルを作成する。

注3:MP3ファイルの冒頭からいきなり音声がスタートすると何かと使いにくいので、もし「音読さん」などのアプリを使う場合は、音読用英文を下の真ん中の空白部分に入れた上でそれをアプリに入力する。下の例だと、ファイルが作動して2秒後に音声が流れ始める。数字を変えれば秒数も変えられる。

<speak><break time="2s"/>   </speak>

T5(テストの実施):T3のワープロファイルとT4の音声ファイルを保存したラップトップを教室にもっていき、単語テストを行う。



■ 語彙学習だけを行う90分授業の可能性


このプロンプトと前の記事のプロンプトを使って、次のような90分授業ができないかと今私は夢想しています。


(1) リスニングを通じての語彙テスト(30分):上のテストを行う。10問出すとしたら音声提示と回答で10分、解説で20分ぐらいかかる。

(2) ChatGPTとの対話を通じての深い語彙学習(45分):学習者がそれぞれに指定範囲の中から使えるようになりたい単語を選び、ChatGPTと対話しながら学ぶ。学びはレポートにまとめる。

(3) 学びの共有(15分):学習者はペアやグループで (2) で学んだことを共有する。教師はその学びを適宜クラス全体でも共有する。

教師の教室外課題: (2) のレポートのチェックと次のテストの作成。

学習者の教室外課題:次のテスト範囲の単語の予習。

期末テスト:(1)の形式のテストを50問程度と、学習者が(2)の学びの過程で学んだ10語程度の英単語を使った例文を書かせる。



こういった実践を重ねてゆけば、教師は単語集のすべての語に対して、解説ファイルと音声ファイルを作成することができるでしょう。他の同僚と共同作業で行えばその作成はもっと早くできるでしょう。そうやって完成した解説ファイル集と音声ファイル集を学内限定で共有すれば、教師はいつでも楽にテストを作成できます。


AIを使って日本の英語教育を高度化したいと私は強く願っています



追記

問題を視覚提示する従来型の単語テスト(定義・類義語・例文・連語つき)を作成するChatGPTプロンプトは下にあります。2024年度前期の私の授業は、最初にはこのプロンプトで作成するテストを使っていましたが、途中からこの記事で紹介したリスニング型のテストを使うようにしました。今回ご紹介したプロンプトはその過程で何度も改訂したものです。


英単語テスト生成プロンプト (Ver. 1.3.1 ) :

英単語群の単語の定義・類義語・例文・連語を提示したテスト問題を自動的に作成します。

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/04/blog-post.html




2024/07/23

柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51


KELESジャーナルに掲載していただいた拙稿が、少し前にJ-STAGEでも公開されました。


柳瀬陽介 (2024) 

「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習

―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」

KELESジャーナル9号 pp.45-51

https://doi.org/10.18989/keles.9.0_45


この実践報告は、2023年10月1日に関西英語教育学会のKELESセミナーで発表させていただいた報告に基づいています。そのセミナーのスライドや予行演習動画は、こちらから閲覧することができます。


「AI活用の決定要因としての教育観と学習観

―英語学習者が「語彙学習では間違うことが必要」と自覚するまで―」

スライドと解説動画の公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ai.html


このJ-STAGE公開を可能にしてくださったすべての方々、特に関西英語教育学会の事務局の皆様に改めて深く感謝いたします。論文執筆者としては、多くの方々に読んでいただくことが何よりの喜びです。不特定多数の読者が無料で多くの論文を読むことができる文化装置を維持するために多くの時間を割いてくださっている皆様には感謝のことばしかありません。



この実践は、個人的にはとても好きで思い出深いものです。詳しくは上から論文をダウンロードしていただきたいのですが、私としては学生から次のような感想を聞けた時には本当に嬉しく感じました。


  • 「他の様々な語に触れ、文章を考えるので、とても頭を使っている」
  • 「自分で例文を作るときに具体的な状況を提示することを意識した。どんな状況でその単語を使うかによってニュアンスは微妙に変わってくるから、より実践での単語選びに近づけるためには具体的な状況設定が不可欠だ」
  • 「たとえ意図は伝わったとしても、ニュアンスの部分が外れていれば、小さな誤解が生じたり、印象が悪くなったりする恐れがあるので、細かな意味まで、丁寧に学習するようにしたい」
  • 「自分が今まで覚えていた単語の意味やニュアンスがChatGPTと会話する中で少しずれていることに気づいた。単語帳とにらめっこするだけでは本当の意味で単語を使えるようにはなれないのだとわかった」
  • 「自分が選んだ単語や構造の不適切さを指摘されたときは、そのわけをわかるまで尋ねる方が良いと感じた。そうしないと、やはり癖が出て、適さない場面で再び使うことになるだろうからである」
  • 「ChatGPTにすべてを任せるのではなく、尋ねる前に自分でしっかり推敲したり、冠詞、単語の吟味をしたりしてその上でAIを頼るというプロセスを踏まないと自分で間違いに気づけなくなるうえに勉強にもならないので、これからは丁寧に作文をしていきたい」
  • 「長い文を作ることでミスが増えるが、その分、得られるフィードバックが大きいので、これからもミスを恐れずに具体的で分量の多い例文を作っていきたい」
  • 「このように自分の英作文のボロを効率よく出すためには、やはりなるべく長く具体的な英文を作ることが一番だ」



この実践で使ったプロンプトは、下の記事で公開しています。


【Ver. 3.1.3に改訂】 学術英語語彙の使い方を学ぶためのChatGPTプロンプト

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ver-3-chatgpt.html


このプロンプトの利用も改編も自由です。私はAIを使ってできるだけ教育格差を解消し、やる気のある学習者を支援したく思っています。また、その学習者の姿を見て他の学習者が意欲を喚起されることを望んでいます。日本の公教育に携わる者の間で、AIに関する知見を共有する文化が普及しますように。



「言語使用におけるリスクと責任--身体的で歴史的な実践知」のスライドと予行演習動画の公開

  8/30(金)の19:30-21:30にSomatics and SEL研究会主催の公開オンライン研究会で50分の講演をしました。その後の約1時間はすべて質疑応答に使うという贅沢な会でした。事務局と参加者の皆様に改めて感謝いたします。 私の講演タイトルは「言語使用におけるリス...