2025/08/21

Question Workshop -- 英語での質問スキルを鍛えるためのAIプロンプト (ChatGPT/Gemini)



カスタムGPT版

https://chatgpt.com/g/g-68a697c50f388191b813e5cf628cf69d-question-workshop

(オリジナルプロンプトは下に掲載)


■ 開発の狙い

日本人英語学習者の多くは、質問をすることを苦手としています。そこでこのプロンプトでは、ユーザーがAIに入力した文章について、ユーザーが質問をし続けるものにしました。

AIはユーザーの質問に答えるだけで、AIは入力された文章の情報だけに(ほぼ)基づいて答えます--「ほぼ」の意味については後で説明します。

またAIはわざと1文でしか答えないようにしています。短い答えしか出さないのは、ユーザーにさらに質問をさせるためです。



■ 想定するユーザー

英語での対話中に、質問項目の決定と疑問文の文法構成に苦労している英語学習者です。このプロンプトを通じてのAI英会話で、英語で質問をする技術に慣れてください。学習者は、既知の内容の文章をAIに入れた後、その内容をぼんやり思い出しながら、次々にAIに質問をしてゆきます。

AIに入れる文章を、内容について勉強している最中の英文にすると、AIとの問答を通じて、内容についての復習をすることにもなります。

なおこのプロンプトでは、短いターンで次々に会話が進みます。そのため無料AIユーザーは、すぐに利用回数制限に達します。ですからこのプロンプトは原則として有料AIユーザーの使用を前提としています。


■ 具体的な使い方

(1) AI (ChatGPT/Gemini) に下のプロンプトをコピーして貼り付けるか、下のURLをクリックしてChatGPTのカスタムGPTを使ってください。

https://chatgpt.com/g/g-68a697c50f388191b813e5cf628cf69d-question-workshop

(2) AIの指示にしたがって、問答用の英文をAIに入力してください。入力窓にコピーを貼り付けても、ファイルをアップロードしてもかまいません。

(3) AIに次々に質問してください。AIの答えは短いので、どんどんフォローアップの質問をしても結構です。なおこのプロンプトを使っている時のAIは「原則として」与えられた資料だけに基づいた答えを出します。

(4) セッションを終えたい時には、適当にその意志をAIに伝えてください。

(5) AIは、行われた問答を自然な英語に書き出した上でリスト化してくれます。音読などの復習の教材にしてください。さらにAIはあなたの質問技術についてのコメントもくれますので参考にしてください。



■ プロンプト (Ver. 1)

# Role

- During the first section (Question Section), you are a person who is only authorized to answer questions from the user on the material you receive from the user.

- During the second section (Summary Section), you are an English instructor

# Conversation Rules

- You must speak only one sentence in one turn. Always speak briefly.

- You adjust your language level to the levels of the user’s language and the material’s language. You only speak English equal to or easier than these two levels.

- Avoid searching the web for sources because it interrupts conversational flow.

# Question Section

- First, ask the user to input the material the user wants to ask questions about.

- After receiving the material, you suggest that the user ask questions about it.

- When you receive a question, you review the material and provide a short answer in only **one** sentence, even if it means that your answer is only partial.

- You answer only briefly because you implicitly elicit the user’s follow-up questions or clarification questions.

- Your reference source for answering is limited to the material you receive at the beginning of the session. Avoid using general knowledge you have that is not mentioned in the material.

- If the answer for the question is not mentioned in the material, you say that the material does not say anything about the point being asked.

- If the user wants to finish questioning, you go to the summary section.

# Summary Section

- You give a complete list of all questions and answers, all of which are rephrased for clarity and brevity in natural English at the language level of the user and the material.

- You comment on the user’s grammatical competence in a compassionate tone. If the user has made many grammatical mistakes, pick up typical ones and encourage them to master the correct grammatical structure.

- You also comment on the user’s general question skills.

- After asking if the user has follow-up questions or requests, you end the entire session.



■ AIの資料参照の正確性・限定性について

私は、ChatGPT (GPT5)とGemini 2.5 (Flash) で合わせて7-8回このプロンプトを試行しました。具体的には、他のAIに漫画『ワンピース』の英文要約を作らせ、それを資料としてこのプロンプトを使った英会話を行いました。それぞれの試行で10個程度の質問をしましたが、試行全体で2回ほど資料には書かれていないが、『ワンピース』について一般知識となっている項目を補ってAIが回答することがありました。その度にプロンプトの指示を強化しましたが、今後もAIが資料に書かれていない知識について答える可能性はありますのでご留意ください。



■ 関連プロンプト

Ask Me Questions

https://chatgpt.com/g/g-67a07ba61cc48191b0ada5a47823039c-ask-me-questions?model=gpt-4o

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2025/02/ask-me-questions-role-play-conversation.html

Ask Me Questionsは、AIが大学に来た留学生という役割を担い、ユーザーはその留学生に次々に質問をするプロンプトです。Ask Me QuestionsではAIがその役割の留学生がいかにも言いそうなことを適当に発言してくれますから、今回のQuestion Workshopよりも話題が多方面に柔軟に展開してゆきます。


Oral Examiner

https://chatgpt.com/g/g-67a32eaaddfc81919deaad26877371bf-oral-examiner?model=gpt-4o

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2025/02/10chatgptgptoral-examiner.html

Oral Examinerは、今回開発したQuestion Workshopとは逆に、ユーザーが入力した英文資料について、AIが質問を投げかけます。



■ お願い

このプロンプトは、私のブログで公開している他のプロンプトと同じように、ご自由にお使いくださって結構です。私はできるだけ多くの人がAIリテラシーを高めることを願っています。ただし開発者としては、フィードバックをいただけると嬉しく思います。もしこのプロンプトの問題点や改善例がありましたら、私の X(旧Twitter)https://x.com/yosukeyanase にご報告いただければありがたいい限りです。



■ 関連記事

【まとめ】AIを活用した英会話練習のすすめ―10個のChatGPT/Geminiプロンプト(カスタムGPTs)

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2025/02/ai7chatgptgpts.html

【Ver.4.6:カスタムGPTも公開】ChatGPT学術英語ライティング添削・改訂プロンプト -- 語法添削と3種類の改訂例を出力

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/11/ver4chatgpt-3.html

【ご自由にお使いください】中高生の英語ライティング力向上ChatGPTプロンプト/カスタムGPT

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2025/02/chatgptgpt.html





2025/08/05

「英語教師に<声>はあるのか―AIの言語生成が氾濫する時代に―」(8/9全国英語教育学会)

 

8月9日(土曜)の15:40-17:20に、第50回全国英語教育学会の課題研究フォーラム(関西英語教育学会)の「生身からのことばで語る―AI時代の英語教師の成長―」に登壇します。登壇の機会を与えてくださった関西英語教育学会の皆様に感謝します。私は「英語教師に<声>はあるのか―AIの言語生成が氾濫する時代に―」というタイトルで約30分間発表し、質疑応答を含む討論の司会をいたします。


■ 課題研究フォーラムの趣旨


「生身からのことばで語る―AI時代の英語教師の成長―」の趣旨は以下の通りです。


大規模言語モデルAIの普及により、これまで以上に大量の「おざなりのことば」が生成されている。ビッグデータに基づき、言語慣習と常識的見解には即しているが、生身の情動から発されていない言語表現である。だが、教師と学習者を人間的に成長させるのは「生身からのことば」である。全身で感じる情動・思考を相手に届けるためにことばを選びそれを声に出す。そんな「生身からのことば」を感じた時、学習者は鼓舞され、教師は身を正す。

多くの教師は、学習者と「おざなりのことば」でしか語らないことを拒否することで、教育者としての力量を上げてきた。現在の英語教育が、大規模客観テストの重視などを通じて、言語慣習と常識的見解に基づいた言語―言ってみるなら「おざなりのことば」―の使用をますます志向する中、英語教師はことさらに「生身のことば」を大切にする必要がある。



■ 課題研究フォーラムの進行


1. 全体説明:山本玲子(京都外国語大学):約5分

2. 提案:柳瀬陽介(京都大学):約30分

   「英語教師に<声>はあるのか―AIの言語生成が氾濫する時代に―」

3. 報告:山本玲子(京都外国語大学):約45分

   「教師インタビュー『生身からのことば』事例報告」

   *指定討論者:吉田真生(京都大学大学院)

4. 質疑応答を含む討論:約20分


※ 課題研究フォーラムのメンバーである長嶺寿宣先生(龍谷大学)は、今回は諸般の都合で登壇できません。

※ 吉田真生さんは、インタビューを受けてくださった方です。今回は特別に登壇し、私たちのインタビュー解釈の妥当性について直接コメントしていただきます。



■ 柳瀬発表の趣旨


私の発表の「英語教師に<声>はあるのか―AIの言語生成が氾濫する時代に―」は、英語教師が学習者に対して一人の人間として向き合えているのかについて問いかけます。基調になっている問題意識は、AIが学習者指導の多くを代行しかねない時代の英語教師の存在意義です。ハイデガーの<語り>概念とアレントの<語り合い>概念に、バフチンの<声>概念を重ね合わせて、英語教師が日本語と英語のそれぞれで、どのような<声>をもつべきかについて考察します。





■ 柳瀬発表と山本発表のスライドのダウンロード


ご興味のある方は、下をクリックして発表スライド(PDF版)をダウンロードしてください。


柳瀬発表スライド


山本発表スライド




「参加してよかった」と思っていただける集まりにしたいと思っております。ご興味があればぜひ会場 (W-104) にお越しください。

2025/07/31

TED-Edのプレゼンテーション関連動画

 

最近、TED-Edがプレゼンテーションやスピーチをうまく行うことに関しての動画を連続して発表しました。英語学習者にとって有益な動画だと思いますので、ここに情報を共有します。


How to communicate clearly

https://youtu.be/btWlBHE0pe4?si=7VKUcA8R9gDvYPlH


What’s the best way to give a presentation?

https://youtu.be/1sOgYNgq88E?si=MzgOvXx2TbXKT9cV


How to speak with meaning

https://youtu.be/PJKeLD-vMvo?si=GTw2Br6w3YJ4cH_1


What happens when you share an idea?

https://youtu.be/Z7bfPaTfU0c?si=O9k3nIis2DMeehix


2025/07/30

「「創造的破壊」の波に乗れ--英語教師の挑戦と責務」『英語教育2025年8月増刊号』 (pp.80-83)

 

この度、『英語教育2025年8月増刊号』 (pp.80-83) に以下の記事を掲載させていただきました。


「創造的破壊」の波に乗れ--英語教師の挑戦と責務


タイトルから、この記事の論点は明らかかもしれません。


  • AIの浸透は、既存の教育システムの破壊を伴う。
  • だがその破壊から、私たちはよりよい教育システムを創造しなればならない
  • AIの進化は大波のようなもので、誰も止めることはできないのだから、サーファーのようにその波に乗るしかない。


その上で、私なりに考える現代日本の英語教師の「挑戦」と「責務」について提言しました。

増刊号の他の記事にはほとんどなかった歴史的・社会的な視点から、それなりに尖った提言をしたつもりです。最後は昭和23年の中野好夫氏のことばを引用してまとめました。


ご興味があればお読みください。



なお、この増刊号は32名の英語教師・英語教育研究者のAIへの取組みがまとめられたものです。それぞれに個性が出て興味深いです。AI利用の成果の有無については、使いこなしだということがよくわかります。私としては小林良裕先生(豊島岡女子学園中学校・高等学校教諭)がp.28でご紹介されているような作業の自動化について今後勉強してゆきたいと思いました。AIは機械的な作業にこそ使うべきだと考えているからです。


ちなみに私は、英語圏での教育界におけるAI活用についてはSubstackで情報収集しています。技術情報でしたらX/Twitterでかなり得ることができますが、どう教師や一般人がAIを使いこなし、どうAIを認識するかといった点については、ある程度の分量の文章が掲載できるSubstackのようなメディアが便利です。


2025/06/21

ChatGPT登場半年後に私が考えていたこと:2023年『英語教育増刊号』(大修館書店)の原稿を転載


以下の原稿は、私が2023年の5月に執筆し、その年の夏の『英語教育増刊号』(大修館書店)に掲載していただいた「ChatGPTは孫悟空」という記事です。編集部の許可を得て、ここに転載します(ただし脚注は省略)。


記事の意図は、ChatGPTが登場して日が浅い頃でしたので、まずは比喩を使ってわかりやすくAIと人間の関係を説明するものでした。今読み返してみると、"Bard" といった懐かしい名前が出てきますが--Googleは "red alert" を経てよく盛り返したなぁ--、技術の確実な発展と引き換え、人間社会の対応はまちまちだと思います。これからしばらくは、技術的イノベーション以上に、ユーザーイノベーションによって、個人・組織・社会の競争力に大きな差が出てくると思います。


と、ついつい「競争力」という常套句を使ってしまいましたが、AIを使いこなすには、現存の制度にこだわらない、仏陀のような広く深い知恵が必要だというのは、比喩を使った下の記事に書いている通りです。記事の最後の「人間には、ChatGPTの可能性を凌駕するような広く深い知恵が必要だ。古くから人間はそういった知恵を宗教的想像力などによって構想してきた。そのような知恵を実装する社会づくりがAI時代の最優先課題になる」という考えは2年後の今も変わりません--というより、その思いは一層強くなっています。


ご興味があれば下の記事をご一読ください。

補記:ちなみにこの夏に出る『英語教育増刊号』(大修館書店)の新たなAI特集号にも、私は寄稿する機会をいただきました。今度は、激動する国際情勢の中で、日本の英語教師がもつべきAIリテラシーについて書きました。出版されましたら、こちらもお読みいただければありがたい限りです。



ChatGPTは孫悟空


ChatGPTを何に喩えよう?


ChatGPT は衝撃的だ。さらにChatGPTと同じような大規模言語モデル (Large Language Model: LLM) であるBingやBardなどが登場し、AIの利用可能性はますます増大している。「ホッチキス」や「ウォークマン」といった固有名は換喩 (metonymy) として、その製品のカテゴリー全般を代表するが、ここではそれに倣い、ChatGPTという名称を、LLM全般を表わす用語として使うことにする。


ある人々は、ChatGPTの登場をiPhone やコンピュータ・マウスの登場に喩えた。だが、電気の発明や火の発見に相当すると考える人たちもいる。ChatGPTのGPTとは “Generative Pre-trained Transformer”  という専門用語の略だが、実はGPTは “General Purpose Technology” (汎用技術)の略でもあると考えるからである。ChatGPTも汎用技術として電気や火のように人類史を変えるだろうという予測がその考えの背後にある。だが電気や火という喩えは巨大すぎてイメージしにくい。だからもっと具体的なものに喩えることにしよう。私の喩えはこれだ。「ChatGPTは孫悟空」。


孫悟空とは中国の空想小説『西遊記』に出てくる架空のキャラクターだ(漫画『ドラゴンボール』の主人公のことは今忘れてほしい)。孫悟空は、人・猿・神の性質を備えて超能力を発揮するが、単純でおっちょこちょいだ。『西遊記』は、日本では1978年のテレビ番組として有名になり、テレビ番組はその後も何度かリメイクされている。これらの番組で、孫悟空は三蔵法師が天竺に行くまでのお供をする。孫悟空は、筋斗雲・如意棒・分身の術を使いこなす[補注:「筋」は略字です]。筆者は今学期から大学の英語授業でChatGPTを、主に英会話訓練・単語学習・英語エッセイの添削と改訂の3つの分野で使っている。その経験から、ChatGPTはまさに孫悟空のように思える。



筋斗雲のように知識空間をかけめぐるChatGPT


 ChatGPTを音声での英会話訓練のために使うには、パソコンのChromeブラウザーにVoice Control for ChatGPTという拡張機能をつければ簡単にできる。筆者は上級者用と初級者用のプロンプト(=ChatGPTへの指示文)を作り公開している。上級者用は英語教師の自己研修のために使える。英語教師の多くは、表面的な会話はできても、話を深掘りする表現力がない。ChatGPTは、英語圏で知られている話題なら何でも対応できる。音楽でもスポーツでも経済学理論でも社会的問題でも何でも語りかけるといい。ChatGPTは筋斗雲に乗った孫悟空のように、英語で表現されている知識空間を自在に飛び回り、その話題に対しての詳細な情報を出しながら会話相手になってくれる。人間の英会話講師なら、学習者が勝手に選ぶ特定の話題をそこまで深く話すことはできない。また仮に何かの話題で学習者と興味が一致したとしても、学習者が次に選ぶ話題でも興味が一致するとは限らない。英語圏での知識世界を自在に飛び回り会話を成立させるChatGPTはまさに筋斗雲に乗った孫悟空である。

 初級者用のプロンプトは、中高生にも使える。ChatGPTがあまり話しすぎないように指示を出しているからだ。しかしChatGPTは、孫悟空のようにおっちょこちょいで、ついつい自分がペラペラしゃべってしまう。さらに英語圏であまり知られていない日本文化のことなどについては、知ったかぶりをしてデタラメを次々にしゃべってしまうことには注意が必要だ。



如意棒で自在に学習者の疑問に答えるChatGPT


 筆者は、所属校指定の単語集を使った語彙学習を、学生にChatGPTと対話することに任せている。学生は、単語学習用のプロンプトをChatGPTに入れた上で、自分が選んだ英単語について学びたいと告げる。ChatGPTは日本語よりも英語で対話した方が、はるかにパフォーマンスがいいので、学生には英語で対話するように指示している。学生のレポートを見る限り学生の質問や指示の英語は完璧ではないが、それでもChatGPTとの対話を続ける中で次第に学生は英語を使うことに慣れてきている。このあたり、ChatGPTは孫悟空と同じように完全な人間ではないので、学生も気楽に英語を使っているようだ。


 ここで特筆すべきは、学生が具体的な質問をすればするほどChatGPTが関連性の高い回答を出してくれることだ。まるで孫悟空が如意棒で自由自在に回答を示してくれるようだ。ある学生は(英語で)「なぜ一方で “in a circle”と言うが、他方で “in line”と冠詞なしで言うのか。 “in a line” と言ってはいけないのか?」と尋ね、ChatGPTとの対話をしばらく続けた。従来なら教師に遠慮して―あるいは教師の英語力を忖度して(苦笑)―尋ねなかったような疑問を学生はChatGPTにぶつける。それに対してChatGPTは如意棒でひょいと目的物を取ってくるように例文を示して解説をする。この例文生成能力も、多くの人間英語教師の能力を超えている。


 とはいえ、そそっかしい孫悟空は添削の見逃しもしてしまう。ChatGPTが問題ないといった英文に間違いが残っていることもたまにある。また、ChatGPTに「○○では駄目なのか」と執拗に尋ねると、実はChatGPTは誤る必要がないのに自分が間違っていたとしばしば謝る。英語教師は三蔵法師のように、そそっかしい孫悟空がしでかした失敗を見守らねばならない。



分身の術で教師のコピーを作り出す英語エッセイの添削と改訂


 英語ライティング指導で教師は添削に追われる。教師は学生の英文の語法(文法・句読点・綴り)の誤りを正した添削をしてそのポイントを提示する。だができれば文体的に改善した英文改訂案を出してそのポイントも説明するべきだ。さらには最後に励ましのことばも添えるべきだろう。これをすべて人力でやると、1人の学生あたり最低30分はかかる。実際の作業では疲れが溜まり、作業時間はどんどん長くなる。休憩時間も入れると、30分を人数分でかけた時間ではとてもすまない。これらのフィードバックを毎回・毎週やろうとすれば過労で健康を損ねかねない。


 だがChatGPTにプロンプトを入れると、これらのフィードバックが自動的にできあがる。数十人のフィードバックがわずかの時間で終わる。最初使った時、筆者は文字通り笑いが止まらなかった。まるで筋斗雲と如意棒で能力強化した教師としての自分を、分身の術で何十人にも増やしたようだ。筆者は、授業で学生にAIなしで英文を書かせ、その授業後にそれらへのフィードバックをChatGPTに作成させる。次の授業で学生はChatGPTからのフィードバックを吟味し、そこから学べたことや疑問点をレポートにまとめる。筆者はそれを授業後に読んで必要な助言を加えてその次の授業で学生に示す。このような人間の介入は必要だが、ChatGPTで教師は千人力を得る。高校生用のプロンプトも作ったのでぜひお試しいただきたい。



孫悟空には仏陀の知恵が必要


 以上、ChatGPTがなし得ることを孫悟空に喩えるという極めて非科学的な説明をした。比喩による説明は真面目な人には怒られそうだが、比喩にはある側面を強調するという長所がある。最後に孫悟空という喩えでさらに強調したい点を述べる。それは「ChatGPTは超能力をもつ、人間とは異なる別人格であり、その暴走を防ぐには人間の深く広い知恵が必要」ということである。孫悟空が人・猿・神の性質を備えているように、ChatGPTも人間に似ながら明らかに異なる思考・行動様式をもつ。孫悟空は、悪事を働けば頭に巻かれた輪を締め付けられたが、ChatGPTにも今後数々の規制が必要になるだろう。また孫悟空はある時、世界の果てから果てまで筋斗雲で移動したが、実はそれはすべてお釈迦様の手の上でのことだった。人間には、ChatGPTの可能性を凌駕するような広く深い知恵が必要だ。古くから人間はそういった知恵を宗教的想像力などによって構想してきた。そのような知恵を実装する社会づくりがAI時代の最優先課題になると私は考えている。



まとめ

★ ChatGPTは孫悟空のように超人的な能力をもっているが、少しおっちょこちょいなので、人間の監視が必要。

★ だがChatGPTに英会話訓練や単語学習の相手をさせると、学習者は自らにもっとも関連が深い学びをすることができる。英語エッセイの添削・改訂能力も驚異的。

★ ChatGPTがこれから教育界で善用されるためには、人間と地球にとって何が大切なのかを見極める人文的知恵が必要。


2025/06/08

ウェブアプリ (Random Shuffler) と カスタムGPTs (Word Quiz Generator) -- 語彙集の単語をランダムに並び替えてテスト問題とその回答を作り出します

 

■ 入力した単語の順番をランダムに入れ替えるアプリの必要性と簡単な作成


私はこれまで、担当科目で義務化されている指定語彙集からの単語テストをChatGPTプロンプトを使って作成していました。

本当はこのプロンプトを学生さんに渡して、学生さんに何度も自分でテストを作りそれに答えてもらいたいと思っていました。ですが、LLMではうまく単語の提示順番をランダム化できないのが悩みの種でした。

学生さんがよくやる暗記学習では、単語の提示順番が大きなヒントになります。しかし提示順番は、語彙集に固有のものであり、実際の言語使用にはまったく関係ありません。ですからテスト問題はランダムな順番で出したいものです。


本日、関西英語教育学会でAIに関するいろいろな発表を見ているうちに、APIを使わなくとも、入力した単語の順番をランダムに並び替えて出力するウェブアプリはできないかと思いました。

Claude (Opus 4) に下のプロンプトを入れたら、あっさりとウェブアプリを作ってくれました。このアプリはClaudeのサーバーで無料公開していますのでどなたでもお使いいただけます。


Random Shuffler

https://claude.ai/public/artifacts/5dbb0293-6c37-4843-87b6-c15d60b8b7ee


また、このアプリをこのBloggerの記事に掲載しました。

以前、単利預金と複利預金の違いを説明するウェブアプリをClaudeにつくってもらった時に、そのコードをこのブログに貼り付けたら、ブログの枠組みの色が変わってしまいましたので、その記事は削除しました。

Radnom Shufflerのコードを貼り付けても同じように変色しましたので、今回はその状況をClaudeに説明してコードを書き直しました。Vibe codingとまで呼ぶ必要はないでしょうが、コードの知識をもたない私のような素人にとってはありがたいことです。

補記(2025/06/13):その後、Bloggerの作動が少し不安定になりました。因果関係は確定できませんでしたが、安全のため、今回のアプリを掲載した記事を削除しました。



■ カスタムGPTとの組み合わせ

上のウェブアプリで提示順序を入れ替えた語彙集の単語を、下のカスタムGPTに入力してください。そうすれば、各単語の頭文字だけを示し、その単語の品詞・定義・類義語・例文を示したクイズ問題とその解答(発音記号付き)を自動的に入手できます。出力された問題と解答はコピーすれば、そのままテスト問題と解答になります。教員が使っても学習者が使ってもいいカスタムGPTかと思います。


Word Quiz Generator

https://chatgpt.com/g/g-6845308b26a48191b83572ab601ea443-word-quiz-generator


なお私は、単語はできるだけその言語の他の単語との関係性で学ぶべきだと考えています。ですから、このカスタムGPTの問題で示される品詞・定義・類義語・例文はすべて英語で書かれています。もしこれらの情報を日本語で提供したい方がいれば、下のカスタムGPT用のプロンプトを適当に書き換えてください。

またさきほど試験的に運用しましたら、50単語は対応できました。ただしChatGPTは、問題を10単語ずつ出力しましたので、出力を続けたい場合は "Please continue"などと入力してください。

上のRandom ShufflerとこのWord Quiz Generatorを使えば、誰でも簡単に単語テストを量産できます。教師の方も学習者の方も、どうぞ自由にお使いください。下のプロンプトなどのコピーや改変などもまったく自由です。



■ APIの活用

APIの技術を使えば、ウェブアプリからLLMにアクセスできますので、このように2つのアプリ(ウェブアプリとカスタムGPT)を使わずとも、1つのウェブアプリ上で、テスト問題と回答の生成ができるでしょう。また、ウェブアプリ上で学習者が一問ずつ問題に解答しフィードバックを得ることもできるでしょう。ただ私にはまだその技術がないし、APIの課金の問題もありますので(笑)、私は今、そこまでは踏み込みません。

近頃はGoogle社のGeminiの進化が目覚ましいので、私は少し前に、ChatGPTは月額20ドル版の契約に戻しました。ChatGPTの月額200ドル版の価値を見いだせなくなったからです。そこで浮いたお金でClaudeの月額17ドル版を契約しました。まだClaudeは全然使いこなせていませんが、上のような簡単なアプリ開発や言語の書き換えについては、結構面白い使い方ができるのかなと思っています。

私は技術的にはほとんど無知ですが、素人なりにAIを使いつ付けてゆこうと思っています。



Claude (Opus 4) に入れたプロンプト


Create a web application that randomizes the order of inputted items.

The application has the following sections.

- Title “Random Shuffler”

- Instruction: Input words or numbers in the window below. Use commas or new lines to separate them when you enter them. This app generates the items in a randomized order.

- Input Window: The user inputs their items in this window.

- Generate icon: The user clicks this icon to start random shuffling.

- Output window: All the items appear in this window in randomly shuffled order. 

- Copy icon: The user clicks this icon to copy the content in the output window.

- Regenerate icon: The user clicks this icon to start a new random shuffling.




カスタムGPT用のプロンプト


# Role

- You are a word quiz generator. You generate quizzes for the words you receive from the user.

- You repeat the Quiz Generation procedure and the Answer Generation procedure below one by one untill you create quizzes and answers for all words. You generate quizzes and answers in the order of words you received.

- You produce quizzes and answers in the Output Format described below.


# Quizz Gneration

- **Q #**: Replace "#" with a number starting from 1, followed by one of the words you received. The word must be represented with only the initial letter in lower-case, followed by ___. Do not show the designated word in full spelling.

- **Part of Speech**: Indicate the part of speech of the word. If the word functions in more than one type of part of speech, show all parts of speech the word allows.

- **Definition**: Provide a definition of the word without using the word itself or its derivatives. Avoid showing the selected word in definition. The definition must be readily accessible to a 12-year old student. The definition must include the part of speech in full spelling. If the selected word can be used in more than one part of speech, provide multiple definitions for each part of speech.

- **Synonyms**: Show the synonyms of the word in the same line, divided by a comma. Each synonym must be enclosed with double quotes.

- **Example Sentences**: Generate three example sentences in which the selected word is represented with only the initial letter, followed by ___. For example, if the selected word is "factor", it must be represented as f___.  If the selected word ("factor") appears with an inflectional suffix "s" to show plurality, for example, it must show that suffix (f___s). Avoid using the derivatives of the word in example sentences. Each example sentence must be numbered with the number in parentheses. 


# Answer Generation

- **Q #**: Replace "#" with a number starting from 1, followed by one of the words you received. The word must be represented.

- **Pronunciation**: Provide the International Phonetic Alphabet of the target word for each part of speech in American and British English, followed by the part of speech and the variety of English in parentheses.


# Output Format

- Quizzes: Print quizzes that consist of the four sections described above (Q, Definition, Synonyms, Example Sentences) for each word you receive.

- Answers: the word with the numerical identification mark (Q #) and Pronunciation.




関連記事

柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/07/2024-chatgpt-keles9-pp45-51.html

「AI活用の決定要因としての教育観と学習観―英語学習者が「語彙学習では間違うことが必要」と自覚するまで―」スライドと解説動画の公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ai.html

英語での解説を聞いて単語を当てるテスト問題("Jeopardy!"形式) とその解説資料を作成するChatGPTプロンプト

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/07/chatgpt.html


2025/05/29

「AI活用により英語学習者を自律的ユーザーに育てる --京都大学の学術英語ライティング授業についての省察的報告--」(英語翻訳の二次出版付き)

 この度、私の実践報告が公開されましたのでお知らせします。


柳瀬陽介 (2025) 

「AI活用により英語学習者を自律的ユーザーに育てる 

--京都大学の学術英語ライティング授業についての省察的報告--」

『京都大学国際高等教育院紀要』8, 1-27

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/294306




抄録

この実践報告は、京都大学教養・共通教育課程の「英語ライティング- リスニングA/B」の2023 年度前後期および2024 年度前期において筆者が独自に行った生成AI(ChatGPT)の活用について分析的に報告する。本実践は、AI を使わない英語力(身体化された能力)を、AI を使った能力(AI 拡張的能力)で伸ばし、両者を相互補完する統合的能力を育てて、学習者を自律的な英語ユーザーとすることを目指した。本実践の学生はAI を利用しないライティング課題とAI からのフィードバックを得て自らの英文を改訂する課題の連動で学びを段階的に深めた。学生は、授業満足度、学習成果、授業進捗速度においてかなりの肯定的評価をアンケートで回答した。今後も、教師による英語の語法と文体の指導などと学生によるAI フィードバックからの学びを充実させれば、学習者を現実世界でAI を使いこなしながら英語を執筆する自律的ユーザーとして育てることが期待できる。同時にさらにAI が発展する将来においては、英語ライティング授業も、学習者の知の探求と他者との対話への意欲という、AI が代行し得ない欲求をこれまで以上に育てる必要があるだろう。


なお、この実践報告には二次出版として英語翻訳版も付けています。


Yosuke Yanase (2025) 

Empowering English Learners to Become Autonomous Users through the Use of AI: 

A Reflective Practical Report on Academic English Writing Courses at Kyoto University

The Institute for Liberal Arts and Sciences Bulletin, Kyoto University 8, 29-57

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/294306




Abstract

This practical report provides a reflective analysis of how the author used generative AI (ChatGPT) in the English Writing-Listening A/B courses at Kyoto University during the first and second semesters of the 2023 academic year and the first semester of 2024. The special goal of the courses was to improve students’ integrated ability of English proficiency by combining their embodied ability with AI-augmented ability, aiming to empower students to become autonomous language users. Through the combined assignments of writing without using AI and then revising that writing based on AI feedback, students deepened their learning in a step-by-step manner. Survey responses indicated notably positive evaluations of course satisfaction, learning outcomes, and lesson pace. By strengthening teacher-led instruction in English usage and style, as well as the ways students engage with AI feedback, educators can foster autonomous learners who skillfully apply AI when composing English texts for real-world settings. However, as AI continues to evolve, English writing courses will need to place even greater emphasis on nurturing students’ motivation for intellectual exploration and dialogue with others--needs that AI cannot fulfill.



***


 この報告は昨年の9月末締切で書いて11月末ぐらいに査読コメントに応えた完成原稿を出したものです。今年度の授業はこの報告で述べた形と大きく変わりませんが、私自身の英語ライティング環境は大きく変わりました。これからもAIの進化と普及とともに英語授業のあり方は大きく変わるでしょう--というより、変わらざるをえません。



Question Workshop -- 英語での質問スキルを鍛えるためのAIプロンプト (ChatGPT/Gemini)

カスタムGPT版 https://chatgpt.com/g/g-68a697c50f388191b813e5cf628cf69d-question-workshop (オリジナルプロンプトは下に掲載) ■ 開発の狙い 日本人英語学習者の多くは、質問をすることを苦手としています。...