2021/02/18

『英語年鑑 2021』(研究社)での書評(「英語教育の研究」)


この度出版された『英語年鑑 2021』(研究社)で、私は「英語教育の研究」という記事 (pp. 88-92) を執筆させていただきました。

記事の中で、私は(原則として)2019年4月から2020年3月の間に出版された英語教育に関係する書籍35冊を以下の5項目に分けて紹介し、書籍から2019年度の日本の英語教育界はどのように総括できるかを私なりにまとめました。

私の見落としで、記事で紹介するべき良書が掲載されていなかったら、その著者と出版社にお詫び申し上げます。


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■ 「周縁」が問い直す英語教育


榎本剛士(著)『学校英語教育のコミュニケーション論 ― 教室で英語を学ぶことの教育言語人類学試論」(大阪大学出版会 2019. 9)

玉井健・渡辺敦子・浅岡千利世(著)『リフレクティブ・プラクティス入門』(ひつじ書房 2019. 3)

田中武夫・髙木亜希子・藤田卓郎・滝沢雄一・酒井英樹(編著)『英語教師のための「実践研究」ガイドブック』(大修館書店 2019. 6)

村上加代子(編著)『目指せ!英語のユニバーサルデザイン授業』(学研  2019. 4)

綾部保志(編著)『小学校英語への専門的アプローチ― ―ことばの世界を拓く』(春風社 2019. 12)

大津由紀雄・浦谷淳子・齋藤菊枝(編著)『日本語からはじめる小学校英語―ことばの力を育むためのマニュアル』(開拓社 2019. 7)

秋田喜代美・斎藤兆史・藤江康彦(編著)『メタ言語能力を育てる文法授業--英語科と国語科の連携』(ひつじ書房 2019.8)

笹島茂・山野有紀(編著)『学びをつなぐ小学校外国語教育のCLIL実践―「知りたい」「伝え合いたい」「考えたい」を育てる』(三修社 2019. 5)

米崎里(著)『フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか』(亜紀書房 2020. 3)

田中真紀子(著)『絵本で教える英語の読み書き―小学校で実践したい英語絵本の指導法』(研究社 2020. 3)


■ 伝統的な英語学・英文学の進化

北村一真(著)『英文解体新書 ― 構造と論理を読み解く英文解釈』(研究社 2019.7)

倉林秀男・河田英介(著)『ヘミングウェイで学ぶ英文法』(アスク出版 2019. 5)

久世恭子『文学教材を用いた英語授業の事例研究』(ひつじ書房 2019. 10)

畠山雄二(編著)『正しく書いて読むための英文法用語事典』(朝倉書店 2019. 9)

朝尾幸次郎(著)『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』(大修館書店 2019.4)

中島平三(著)『「育てる」教育から「育つ」教育へ ― 学校英文法から考える』(大修館書店 2019.11)

高嶋幸太(著)『英語教師が知っておきたい日本語のしくみ』(大修館書店 2019. 4)

丹羽牧代(編著)『母語干渉とうまくつきあおう』(彩流社 2019. 3)

今井邦彦(著)『「英語耳」を鍛え「英語舌」を養う』(開拓社 2019. 11)

野村忠央・女鹿喜治・鴇﨑敏彦・川﨑修一・奥井裕(編著)『学問的知見を英語教育に活かす ― 理論と実践』(金星堂 2019. 9)


■ 時代を問う新書

鳥飼玖美子・苅谷夏子・苅谷剛彦(著)『ことばの教育を問いなおす ― 国語・英語の現在と未来』(ちくま新書 2019. 12)

寺沢拓敬(著)『小学校英語のジレンマ』(岩波書店 2020. 2)

鳥飼玖美子・齋藤孝『英語コンプレックス粉砕宣言』(中公新書ラクレ 2020. 2)


■ 進展する第二言語習得研究

白畑智彦・須田孝司(編著)『言語習得研究の応用可能性』(くろしお出版 2019. 6)

中田達也『英単語学習の科学』(研究社 2019. 4)

尾島司郎・藤原康弘(編著)『第二言語習得論と英語教育の新展開』(金星堂 2020. 3)

新多了(著)『英語の学び方入門』(研究社 2019. 8)

小林雄一郎(著)『ことばのデータサイエンス』(朝倉書店 2019. 9)


■ 正統的な英語教育の研究書・指導書

水野耕太郎(著)『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版 2020. 3)

山西博之・大年順子(編著)『中・上級英語ライティング指導ガイド』(大修館書店 2019. 11)

神保尚武(監修)『「教師の自己評価」で英語授業は変わる―J-POSTLを活用した授業実践』(大修館書店 2020. 3)

金谷憲(監修)『英語スピーキング力はどう伸びるのか』(アルク 2019. 11)

関谷弘毅(著)『TBLを文系座学科目に ― チーム基盤型学習で理解を促進』(大学教育出版 2020. 3)

胡子美由紀(著)『中学英語 生徒が対話したくなる!発問の技術』(学陽書房 2020. 3)

上山晋平(著)『ニガテな生徒もどんどん書き出す!中学・高校英語ライティング指導』(学陽書房 2020. 3)


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書籍の選択と紹介においては、私は自分なりにできるだけ公正であることを意識しました。ですが、ここは私個人のブログなので、以下に私の極めて主観的な意見を書きます。

上の35冊の中で、いちばん可能性を感じたのはこの本です。



とはいえ、この本の説明や記述はまだ難解なところが多く、容易な読解はできません。しかし、このような理論書を読む読者が増え、著者の方も説明の力量が高まり、「コミュニケーション」という概念が広がりと深さを得れば、「英語教育研究」も少しは面白くなるのではないかと考えます。


関連記事

仲潔 (2021) 「英語教授法をめぐる言説に内在する権力性」、榎本剛士 (2021) 「対抗するための言葉としての「コミュニケーション」」

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/01/2021-2021.html



他方、上の本の中でもっとも多くの人にお勧めしたいのは次の二冊です。

とにかく読んでいて面白い。





これらの本では、(私の愚論も含む)今の英語教育研究が忘れかけている英語という事実・現実に肉薄する姿勢があります。英語教育研究は、もちろん教育(あるいは学び)についての研究ですが、それが何の教育・学びかといえば、当たり前すぎることですが、英語についてのものです。

浅薄な英語の理解だけしかもたないままに、英語教育研究を語ることは止めるべきだと私は思っています(半分以上は自戒のことばですが)。



この『英語年鑑』は、ベストセラーになるような本ではありませんが、英語に関する諸研究分野の書籍の年鑑書評を続けることで、時代の記録を続けてきたとても良心的な出版文化だと思います。

今回も、もったいないことにその一端を担えたことを光栄に思うと同時に、その光で自分を照り返し、自分の未熟さを反省せねばと思います。



追記

昨年の『英語年鑑 2020』の「回顧と展望」の各種書評は以下で閲覧できます。


http://www.kenkyusha.co.jp/EigoNenkan/Year2020/


こういった資料を無料公開してくれる研究社の姿勢には深く敬意を表します。


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