2023/03/31

柳瀬陽介 (2020) 「機械翻訳が問い直す知性・言語・言語教育―サイボーグ・言語ゲーム・複言語主義―」およびその二次出版 “The Concepts of Intelligence, Language, and Language Education Revisited by the Development of Machine Translation—Cyborgs, Language Games, and Plurilingualism”

 

気が付いたら年度末最後の日です。今年度はとりわけ忙しく、発表した論文などをこのブログで紹介する時間的・心理的余裕がありませんでした。

そこで本日は、まだ紹介していなかった今年度の4つの成果物について短く記事を書きます。


最初は、外国語教育メディア学会関東支部研究紀要に招待論文として掲載していただいた論文とその英語翻訳(二次出版)です。

これは、2022年6月18日(土)のLET関東支部第147回(2022年春季)研究大会で行った講演についてまとめたものです。


この論文では、サイボーグ・言語ゲーム・複言語主義という3つの用語で、AIが普及する時代の言語教育のあり方について論考しています。この論文を書いたのはChatGPT登場以前ですが、この原理的な論考の価値はまだあると筆者としては信じています。




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機械翻訳が問い直す知性・言語・言語教育

―サイボーグ・言語ゲーム・複言語主義―


外国語教育メディア学会関東支部研究紀要

2022 年 7 巻 p. 1-18

https://doi.org/10.24781/letkj.7.0_1


抄録:本稿は、「サイボーグ」「言語ゲーム」「複言語主義」という概念で知性・言語・言語教育についての問い直しを行い、英語教育における機械翻訳の使用について論考する。人間の知性は媒体や道具の使用を不可欠とするので、人間は「生まれながらのサイボーグ」とも呼べる。AIの利用は人間知性の否定にはつながらない。言語は、言語ゲームという具体的な営みで分析するならば、機械翻訳の使用が適した言語ゲームと適さない言語ゲームがあるのが当然である。英語教育を単一言語主義的に考えれば、英語ライティングの中で母語(日本語)を利用する機械翻訳は不適切となるかもしれない。だが英語の使用・学習も、会話といった瞬時的・即興的なものからエッセイ執筆といった長期的・反省的なものまで多様である。さまざまな言語ゲームにおいては、外国語使用・学習者も複言語主義が提唱するように、学習者自身がもつ(母語能力も含めた)あらゆる言語的リソースを使いこなすことが認められるべきだろう。英語教育への機械翻訳導入については、個別的・具体的に考えるべきである。


The Concepts of Intelligence, Language, and Language Education Revisited by the Development of Machine Translation—Cyborgs, Language Games, and Plurilingualism

https://doi.org/10.24781/letkj.7.0_19


Abstract: This paper revisits the concepts of intelligence, language, and language education by considering “cyborg,” “language games,” and “plurilingualism,” and discusses the use of machine translation in English education. The use of artificial intelligence (AI) does not negate human intelligence because human intelligence inherently involves the use of media and tools; humans may be described as “natural-born cyborgs.” An analysis of language into the specific activity of language games reveals that the usefulness of machine translation depends on particular language games. English-language education from a monolingual perspective discourages the use of machine translation because it involves learners’ native language (Japanese). However, educators must realize the diversity of the use and learning of English, ranging from a transient and spontaneous conversation to extended and reflective writing. Language education from a plurilingualism perspective encourages foreign-language learners to use all of their linguistic resources (including their native language skills) in various language games. A discussion on the introduction of machine translation into English education should be specific on a case-by-case basis, not categorical on an either-or basis.


この論文の出版に関しましては、外国語教育メディア学会関東支部の皆様に大変お世話になりました。とりわけ英語版の二次出版の意義については、この論文内でも書きましたが、それを許可し実現していただいたことについては深く感謝申し上げます。



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