2021/04/08

Wordtuneで、ある英文の10通りの表現法を生成し、表現の幅を広げる + AI時代の英語学習について


■ Wordtuneとは?


Wordtuneは、Chromeブラウザーの拡張機能の1つです。Wordtuneをインストールすると、無料版でも、任意の英文を10通りにパラフレーズ(書き換え)してくれます。

操作は非常に簡単です。他の表現方法を知りたい英文を選択するだけで、数秒後に10種類の書き換え表現が得られます。好きな表現をクリックすれば、元の英文がその英文に変換されます。


Wordtune

https://www.wordtune.com/



■ Wordtuneはどんな人にとって便利か?


(1) 自分の英語表現の幅を増やしたい人

自分で英語を書きながら、何度も同じような表現が出てきて自分の英語に嫌気がさしている人は、Wordtuneを使って英語表現の幅を増やすことができます。


(2) 英語の発想法を学びたい人

英語学習者で、さまざまな構文での発想法を学びたい人は、Wordtuneを任意の英文に適用することで、同じ考えを異なる構文や発想で表現する実例を大量に知ることができます。


※ ただし後でも述べますが、英語の文体感覚を身につけていない人がWordtuneを濫用すれば、結果的に妙な英文を生成してしまうでしょう。



■ Wordtuneは、DeepLやGrammarlyの上でも使える


WordtuneはあくまでもChromeブラウザー上で使えるものです。 ですから、Microsoft Word上などでは作動しません。


しかしChromeブラウザー上で使用するアプリでしたらかなり多くのものが使えます。Google Document, Gmail, Google TranslateなどのGoogleアプリはもちろんのこと、Facebook, Twitter, Slackなどでも使えます。


私にとってありがたいのは機械翻訳のDeepLや文法・文体修正のGrammarlyといったアプリの上でも使えることです。


DeepL(あるいはGoogle Translate)で翻訳された英文あるいはGrammarlyで編集中の英文を、Wordtuneを使ってさらに書き換えることができます。作業上、これは非常に便利です。



■ 英文翻訳・執筆の作業工程


私は日頃の業務で、多くの英文のメールや文書を作成したり、日本語から翻訳したりしています。その際にはDeepL(主に和英翻訳)、GoogleTranslate(主に英和翻訳)、Grammarly(文法・文体チェック)を多用しています。


今回、Wordtuneが加わることで、日本語文から英語を生み出す過程は、次のようにAIで補強することができます。


(1) DeepLやGoogle Translateで自動的に英語翻訳を獲得する。

(2) その英語翻訳をGrammarlyにコピーし、自動的に文法的・文体的な修正提案を検討した上で修正を加える。

(3) Grammarlyの指摘だけにとどまらず、他に改善点がないか自力で考える。その際にWordtuneを使って表現方法を変えることも検討し、英文を完成させる。

(4) [必要に応じて] 完成した英文が、曖昧な意味をもったり、誤読を誘発したりしないかどうか確認するため、その英文をDeepLやGoogleTranslateに入力して日本語翻訳を得る。


(元の日本語文がない場合は、上の (2) で自分なりの英文をGrammarly上に書くことから始めます。英文を書きつけるはしから、チェックが入るのがわずらわしく思える時は、テクストエディタなどで一気に英文を書いてからそれをGrammarlyにコピーします)


もちろんAIに対する過信は禁物で、(1) から (4) の全ての過程で、AIは思わぬ間違いをします。AIに頼り切りだと、訳抜けがあったり、肯定と否定が逆になっていたり、妙な口語・俗語表現が混入したり、不要な修正をしたり、などとさまざまな問題が生じます。


しかし完璧ではないとはいえ、常に自動的にセカンドオピニオンが得られるのは貴重なことです。


AIは人間の知能の代わりになるものではなく、人間を補佐 (assist) し、人間の知能を増強 (augment) するものだとしばしば言われますが、今回紹介しているWordtuneといったAIもまさにそのような道具として認識するべきでしょう。


      


■ Wordtuneのパラフレーズ実例


以下に、Wordtuneで得られた書き換え表現の例を3つ示します。


これらの例からわかるように、Wordtuneは(当たり前のことですが)元の英文にある文法ミスを常に修正するわけではありません。また、書き換えが過ぎて、元の英文の意味やニュアンスを歪めてしまってしまうこともあります(ごくまれに、完全には文法的でないパラフレースをしてしまう可能性もあります)。


ですから、Wordtuneが提示する書き換えを、深い考えなしに採択し続ければ、結果的に文章全体のまとまりがない妙な英文ができる可能性があります。


自分の中に適切な英語の文体感覚が育っていなければ、たくさんの類例を与えられても迷うばかりでしょう。

文体感覚を育てるには、さまざまなジャンルの英文を丁寧にそして大量に読むことが基本です。

しかし日本人学習者の多くはそのような時間の余裕がありませんし、何より生まれてこの方使い続けている日本語の発想が、英語の発想を身につけることの障害になってしまっています。


その意味では、以下のような文体についての本をよく読んで、練習問題をすることがお勧めです。


遠田和子 (2018) 『究極の英語ライティング』

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2019/05/2018.html


また、長年培ってきた認識パターン(スキーマ)と新たな外国語学習の関係について理解し、学習を効果的なものにするためには以下のような良書の読解をお勧めします。


今井むつみ (2020) 『英語独習法』岩波新書

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2020/12/2020_22.html


ともあれ、Wordtuneの出力を見てみましょう。(学習者のみなさんは、これらの多くの文例を活用できるぐらいに文体感覚が育っているでしょうか?)


例1の原文(わざと非文法文を入力)

There is many reasons why he want to play a tennis, not the baseballs.


例1のWordtune出力

1. There are many reasons why he prefers to play tennis rather than baseball.

2. Several factors led him to prefer playing tennis over baseballs.

3. His reasons for preferring to play tennis over baseballs are many.

4. Several factors explain why he would rather play tennis than baseball.

5. Many reasons exist why he prefers the tennis, instead of the baseball.

6. He wants to prefer to play tennis, rather than to play baseball, because of a number of reasons.

7. It is for many reasons why he prefers playing tennis rather than baseball.

8. Why he prefers to play tennis instead of baseballs is not clear.

9. Tennis is more beneficial than baseballs - he has many reasons to favor this over baseballs.

10. Why he wants to play tennis regardless of the baseballs.



例2の原文 (The New York Timesのある記事より引用)

If you were to put all the animal life in a Brazilian rainforest on a scale, more than one-quarter of the weight would come just from ants.

https://www.nytimes.com/2021/04/05/science/ants-wilson-photography-niga-rice.html


例2のWordtune出力

1. If all the animals in a Brazilian rainforest were put on a scale, more than one-quarter of the weight would come from ants.

2. More than a quarter of the weight in a Brazilian rainforest would come just from ants if all the other animal life were put on a scale.

3. A Brazilian rainforest would have more than one-quarter of its weight coming from ants alone.

4. The ants would make up a quarter of the weight of all the animals in a Brazilian rainforest if you put them on a scale.

5. In Brazilian rainforests, one-quarter of the animal life will be made up of ants alone.

6. If we were to weigh everything in the Brazilian rainforest on a scale, over 1/3 of it would come from ants alone.

7. Counting all the animals in a Brazilian rainforest, you would find that ants make up nearly one-quarter of the weight.

8. Among all the animal life in a Brazilian rain forest you can infer that more than one-quarter would be ants.

9. When all the animals in a Brazilian rainforest were weighed, they would amount to more than one quarter of the weight.

10. When all the animal life in the Brazilian rainforest is weighed, more than one-quarter of the weight would come just from ants.



例3の原文 (別のNYT記事からの引用)

Researchers have found that adults can change the five traits that make up personality -- extroversion, openness to experience, emotional stability, agreeableness and conscientiousness -- within just a few months.

https://www.nytimes.com/2021/04/06/opinion/covid-personality-change.html


例3のWordtune出力

1. Researchers have found that adults can change the five personality traits -- extroversion, openness to experience, emotional stability, agreeableness, and conscientiousness -- within as little as a few months.

2. The five characteristics that encompass personality can be changed in adults in a matter of months -- emotional stability, agreeableness, openness to experience, and conscientiousness.

3. Researchers have discovered that adults can alter the five characteristics of personality in just a few months - extroversion, emotional stability, agreeableness, and conscientiousness.

4. People with high levels of extroversion, openness to experience, emotional stability, agreeableness and conscientiousness can make big changes to their personality within a few months.

5. Scientists have discovered that adults possess the five traits that make up personality -- extroversion, emotional stability, agreeableness, and conscientiousness -- within just a few months.

6. The five personality traits - extrovertism, openness to experience, emotional stability, agreeableness and conscientiousness - can be changed rapidly in adults over a period of a few months.

7. It has been discovered that certain personality traits can be changed inside a few months. They include extroversion, openness to experience, emotional stability, agreeableness, and conscientiousness.

8. Adults can switch between the five personality traits -- extraversion, openness to experience, emotional stability, agreeableness, and conscientiousness -- in just a matter of months.

9. Researchers have discovered that the five psychological personalities -- extroversion, openness to experience, emotional stability, agreeableness and conscientiousness -- can be changed in adults within three months.

10. Within a few months, adults can change the five traits that make up personality -- agreeableness, conscientiousness, openness to  experience, emotional stability -- without significant effort.



■ AIが発展する時代の英語学習


DeepLやGoogleTranlsateなどのMachine Translation (MT) を多用し始めてから痛感していることですが、AIを使い生産性が高まる時代では、(今のところ)人間でしかできない、思考や美的判断といった高次の認知能力が非常に大切になります。


文章全体を貫いている考えや文体がいいかげんだと、いくらMTなどのAIで英文を表面上整えたとしても、英文はどこかぎこちなくおかしなものになってしまいます。


これからの英語学習においては、ますますリーディングが大切になっていくと私は考えています。リーディングといっても、情報を獲得するための訳読式のリーディングではなく、英語を英語として理解し、その文体も味わうようなリーディングです。


そのようなリーディングをするためには、読者が心の中で音声を的確精妙に再生できなければなりません。そうなるとリスニングで、心地よい英語の発音・リズム・イントネーションのパターンを習得しておかねばなりません。そのパターン習得には自分が音声を自分の心身を通じて発声するスピーキングも大切になります。(運動と認識--ここの場合はスピーキングとリスニング--は連動することは広く知られていることです)


AIと英語使用・学習に関する私の考えは以下のようにまとめられます。


(a) ライティング力:英語ライティングはAIにより大幅に支援され、ライティング力はこれから大きく向上する。

(b) リーディング力:しかしそのAIからの支援を活用するためには、英語を英語として味わうリーディング力が不可欠である。リーディング力がなければ、自ら制御することができない禁断の魔法を使ってしまった若い魔法使いの弟子のように、MTが生み出した英文で思わぬ失敗をしてしまう可能性がある。

(c) リスニング力:十分なリーディング力をつけるためには、学習者は脳内で活字を心地よい英語音声に変換する能力を開発する必要がある。そのためには、単なる情報獲得のためのリスニングではなく、英語の音の心地よさを味わうリスニング力が必要になる。

(d) スピーキング力:十分なリスニング力を得るためには、自らも発声するスピーキングの経験が重要である。自ら心地よく英語を発声できるスピーキング力があれば、自分がAIと共に作り出した英文を自ら(心の中で)朗読し、その英文の良否を判断することができる。また、もちろんリーディングもより一層心地よく行うことができる。

(e) 人間が英語を「身につける」ことの重要性:まとめるなら、AIが進歩しても、英語を「身につける」ことの重要性は変わらない。英語使用において自らの心と身体を分離させずに一体化・統合させていることは、信頼できるコミュニケーションのためには不可欠である。自分が話し書く英語に実感がこもっているか、自分が聞き読む英語の意味が身体のレベルで感じられるか--単なる記号処理ではない、身体実感のこもった英語使用がこれから大切である。AIは記号処理しかできないからである。

(f) 英語教育のこれから:最後に英語教育について述べるなら、このようなAIの存在を知らない、あるいは知らないふりをする旧態依然の英語教育は早晩その意義を喪失するだろう。英語教育関係者は急速にAIとの共存共栄の途を見つけなければならない。


英語教育関係者としては、1980年代にアルビン・トフラーらが90年代にさまざまな識者が警告していた「情報革命」の恐ろしさを、身をもっている感じている昨今です。

逆に若い学習者の皆さんには、どうぞ学校や教師が変わることを待たず、自分でどんどんAIを使って英語を身につけてください。ただし、魔法の魅力に負けて魔法を濫用する愚はおかさないでください。AIを濫用すれば、英語が身につかないだけでなく、AIが生み出す英語で自らの身をあやめてしまうこともありえます。



追記

・自動翻訳シンポジウム~自動翻訳と翻訳バンク~を開催しました!

日本のAI技術、AIによる言語処理、翻訳バンクの現在と今後について

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000073951.html

・「グローバルコミュニケーション計画2025」の公表

https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin03_02000298.html

・日本の「AI自動翻訳」劇的進化の実態、特許や製薬・金融など専門分野に変革も

https://diamond.jp/articles/-/266872


機械翻訳に関する以上のサイトは、NPO「英語運用能力評価協会」のメールマガジンを通じて知った情報のごく一部です。

情報価値が高いので、ここにも転載させていただきました。

このメールマガジンは最近、非常に情報の質が上がったので、私は毎週楽しみに読んでいます。

このメールマガジンは、過去にELPAの職員が名刺交換、ご挨拶した方、お問合せをいただいた方、ELPAの催しに申し込んでいただいた方へ発送しているそうです。


追追記(2021/04/09)

ELPA事務局に確認しましたら、ELPAメールマガジンは、https://elpa.or.jp/contact/  にご連絡いただければ、すぐに登録できるとのことです。



英語運用能力評価協会 

(Association for English Language Proficiency Assessment: ELPA)

https://elpa.or.jp/



しつこくもう1つ追記(笑)


筆者が所属する京都大学・国際高等教育院・附属国際学術言語教育センターの英語教育部門では、英語学習者の自律的学習を支援するウェブサイトを運営しています。そのサイトの中でも「英語学習相談:FAQ」ではさまざまな学習法を提案しています。また「自律的英語ユーザーへのインタビュー」も英語学習を進める際に参考になる情報が多くあります。ぜひ御覧ください。


英語教育部門ウェブサイト

https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english_jp


英語学習相談:FAQ

https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english/consultation_jp_FAQ


自律的英語ユーザーへのインタビュー






おそらく最後の追記(2022/06/11)

私はこれまでWordtuneを(Chromeブラウザー上の)Grammarlyの上に載せて使っていました。しかし、下の記事を見て導入したQuillBotが便利なので、Wordtuneは無料版にダウングレードし、QuillBotを有料版で使うことにしました。(あいまいな記憶ですが、QuillBotは以前見ていたバージョンよりもずいぶん進化しているようです)。


【QuillBot】無料の優秀な英文書き換え・リライトツール「クイルボット」を詳しくレビュー!

https://indoor-enjoylife.com/grammar-quillbot/


【QuillBot】有料 (Premium) と無料プランの違いを徹底レビュー!優秀な英文書き換え・添削ツール

https://indoor-enjoylife.com/grammar-quillbotpremium/#toc7


QuillBotは、Grammar Checker (=Grammarlyに相当)からParaphraserへの移行がスムーズです。また、書き換え文章全体が対象ですので視認性がよく、かつその書き換えの細部をさらに書き換えることもできます。そもそも書き換えのバージョンが、Standard, Fluency, Formal, Simple, Creative, Expand, Shortenの7種類ですし、書き換えの度合いも4段階で選べますので、WordTuneからの乗り換えを決意しました。



"AI is an empowerment tool to actualize the user's potential."

  本日、「 AIはユーザーの潜在的能力を現実化するツールである。AIはユーザーの力を拡充するだけであり、AIがユーザーに取って代わることはない 」ということを再認識しました。 私は、これまで 1) 学生がAIなしで英文を書く、2) 学生にAIフィードバックを与える、3) 学生が...