2021/04/07

Chromeブラウザーの自動英語字幕生成機能で、リスニングを「勉強」から「楽しみ」に変える


最初に:この記事は「リスニング学習の革命? Chromeブラウザで英語を聞くと、音声を自動的に文字起こししてくれる」と「続報:字幕自動生成機能付きのChromeブラウザーを英語学習のために使う」の一部を使っています。私としては、この話題に関して、英語学習者の皆さんに読んでもらう記事の今の所の決定版としてこの記事を作成しました。 



■ この記事の概要


Chromeブラウザーに自動英語字幕生成機能を設定したら、リスニング学習が広がり、学習効率が高まる。つまり自分が本当に聞きたい英語動画・音声が自分用の教材となり、かつ、音声の直後に字幕で自分の聞き取りの成否を確認する学習を高速で継続できる。この機能を使って英語リスニングを継続することにより、英語学習者は、リスニングの力を効率よく高め、英語使用を通じて人生を充実させることができる。



■ Chromeブラウザーの自動英語字幕生成機能とは


自動英語字幕生成機能は、デスクトップやラップトップのコンピュータ(OSはWindows10やmacOS)上でウェブサイトを閲覧するために使われるブラウザーの1つであるChromeに、以下のやり方で追加する機能です。OSとChromeが最新版であれば、設定は驚くほど簡単です。ただし、現在のところスマホやタブレットでのChromeブラウザーにはこの機能は搭載されていないようです。


(i) Chromeブラウザの右上にある縦3つのドットのアイコンをクリック。

(ii) 現れるメニューの中から「設定」をクリック

(iii) 左のコラムの「詳細設定」の▼をクリック

(iv) 「ユーザー補助機能」をクリック

(v) 「自動字幕起こし 」をオンにする


この機能追加で、Chromeブラウザーを使って英語の動画や音声を流すと、その英語をChromeブラウザーが自動的に認識し、画面上に表示される小さな画面でその英語音声を文字起こしした字幕が現れます。


字幕は音声が出た一瞬後に出ます。(この「逐次的字幕提示」がリスニング学習にとって効果的であることは後で述べます)。音声が英語以外ですと、基本的に字幕は出ませんが、たまに他言語を英語と誤認して若干の英語字幕が出ることがあります。


字幕の正確さについては後述します。たまに早口の英語音声が続くと、字幕生成が停止してしまうことがまれにありますが、その場合はいったん音声を止めてから再生しなおすと字幕機能が復帰します。



■ Chromeの自動英語字幕がリスニング学習にとって効果的である2つの理由


この機能を英語リスニング学習に使うことの長所は以下の2つです。


(1) 教材選択の自由:ウェブ上のすべての英語動画・音声がリスニング教材となり、学習者は(英語学習とは関係なしに)自分が本当に聞きたい音声をリスニング学習のために使うことができる。このことにより英語学習が長続きしやすくなり、技能上達のために必須の練習量を確保しやすくなる。


(2) 瞬時学習の連続:英語の文字が字幕に、音声提示から一瞬遅れて提示されるため(「逐次的字幕提示」)、学習者は瞬間ごとに自分の音声聞き取りが正しかったかどうかを確かめることができる。学習者はまず音声を聞いて自分なりに認識し、その直後にその認識が正しかったかを確認できるので、瞬間ごとのフィードバックを連続して受けることになる。このことにより、自分のリスニングの欠点がすぐにわかるので、リスニング力向上の効率が高まる。



■ 長所1:教材選択の自由


これまでリスニング教材といえば、書き起こし (transcript)  があるものとないものの2種類しかなかったと言えましょう。


書き起こしがある教材は、例えばNHKラジオの語学番組のように有料のテクストが用意されているものか、Science Podcastのように無料で書き起こしが提供されているものかのどちらかでした。


前者はテクストを買うのが億劫だったり高く感じられたりすることがあります。また教育用に作られたものですから、大切な表現が扱われていますがどこか内容が面白くないものも少なくありません。後者は、種類が少なく、自分の興味・関心や英語力に即したものを見つけることが容易ではありません。


そこに登場したのが、Chromeブラウザーの自動英語字幕生成機能です。これによりウェブ上のすべての英語動画・音声に字幕がつくことになりました。


言語習得にとってもっとも大切なことの1つは、自分にとって大切なこと・興味関心があることを聞くことです。


「なんだ、そんなこと」と鼻白む人もいるかもしれませんが、言語習得のコツは、ダイエットのコツと一緒で、ごく当たり前のことです。ただ、たいていの人は、その当たり前のことを実行していません。体重を減らそうと思ったら、過食を止めて運動をすること、そしてそのような暮らしを続けることです。難しい理屈や特殊な方法は実はあまり必要ありません。同じように、言語を使えるようになりたいなら、まずは自分が生きるために大切なことばを吸収しそれを使うこと、そういった言語使用を続けることです。


参考動画

How to learn any language in six months 

https://youtu.be/d0yGdNEWdn0



あなたが、好きなことは何ですか?バスケットボール?カーレース?テレビゲーム?理論物理学?昆虫の生態?

好きな人は誰ですか?芸能人・スポーツ選手・指導者・実業家・作家・学者などなどの誰?

あなたの好きなこと・人について英語で検索をしてその動画を見つけてください。そしてその種の動画を毎日Chromeブラウザーの字幕機能を使って見続けてください。


特にハマっていることがないなら、TEDであなたの世界を広げてください。あるいは学習用に作られているTED EdKhan Academyで、皆さんが日本語では知っているけれども英語でどう言えばいいかわからない基礎知識についての動画を楽しみながら視聴してください。


興味があれば言語学習は続きます。学習が続けば言語も少しずつ身についてゆきますし、興味もますます広く深くなります。興味が増せば、さらに言語を通じて自分の人生を充実させようとします。ぜひ自分が本当に見たい動画に自動字幕をつけて英語を楽しんでください。まさに「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」 です。



■ 長所2:瞬間ごとのフィードバック


上でTEDやKhan Academyについて述べましたが、これらの動画では実は字幕も提示されます。字幕が用意されているなら、Chromeの字幕生成機能は無用ではないのかと思った人もいるかもしれません。


しかし用意されている字幕は、通常、2行程度の字幕が一括して提示されます(「一括字幕提示」)。そうするとどうしても人はそちらの字幕を読んでしまい、音声に注意がいかなくなります。さらには、音声を聞く前に字幕を読んでしまいますから、リスニングの練習にはあまりなりません。


その点、Chromeで自動的に生成される字幕は、音声が出た一瞬後に字幕が少しずつ追加されるようにして提示されます(「逐次的字幕提示」)。ですからまずは音声に注意が行き英語を聞き取ろうとします。その直後に文字が提示されますから、そこで自分の聞き取りが正しかったかどうかをチェックできます。「あ、そう言っていたのか!」という気づきを頻繁に得ることができます。これがリスニングにおいて重要です。


もし読んだら確実に理解できる英文が、聞いてわからないのだとしたら、それは聞く人の耳に妙な癖があるからです。その人が思い込んでいる英語の発音が、実際に使われている発音とは大きく異なっているわけです。


読解力がある人にとってのリスニング学習の重要な側面は、耳の癖を取り除くことです。


従来、それはディクテーション(聞き取った英語を書き残すこと)を行い、その書き起こしと正解の英文を比較することぐらいでしかできませんでした。しかしディクテーションは大変骨の折れる作業で、なかなか継続することはできません。ですが、 Chromeの逐次的字幕提示で、聞き取ったはしから、その成果をチェックしていくことは、耳の癖取りを連続して高速に行うことです。


Chromeの自動字幕生成による逐次的字幕提示は、従来の一括字幕提示では得られないような学習効果があります。ぜひChromeで自分が好きな動画を使って、英語を楽しみながら身につけてください。



■ 英語の読解力がない人は・・・


しかし自分が好きな動画が早口でしゃべられており、字幕が次々に変わるなら、字幕を読むスピードがついていかない人もいるかもしれません。その場合は、まだ読解力(および語彙力)が不足している、あるいは自分が興味ある分野について充分に理解するだけの読解力・語彙力がついていないと考えるべきでしょう。


その場合は、NHKの語学番組のような簡単な英語を聞いて、少しずつ英語力をつける方策をとってもいいかもしれません。


もちろん逆に、「好きこそものの上手なれ」で、とにかく興味ある動画を見続けて、そのうちにだんだんと理解を深めるアプローチを取ってもいいでしょう。(『のだめカンタービレ』の主人公であるのだめは、この方法でフランス語を習得していましたね(笑))。


あるいはそこまでいかなくとも、TED動画でしたら別画面に書き起こし (transcript) がありますから、そのテクストをゆっくり読んでから、字幕付きリスニングに挑んでもいいでしょう。


ともあれ、リスニングと共に、リーディングは決定的に重要であることだけはわかってください。できれば、自分が好きな話題を通じて、リスニング力とリーディング力を相互連携させながら同時に伸ばしていってください。



■ Chromeの英語字幕の間違いをどう捉えるか


以上、Chromeの英語字幕の効用について述べてきましたが、実はChromeのAI(人工知能)が生み出す字幕は完璧ではありません。


正確に統計を取っていない私の直観的な推測に過ぎませんが、発声の訓練をうけた人(典型的にはアナウンサー)が標準的なやり方でしゃべる場合は、字幕の正解率はおそらく99パーセント以上(=間違いは100語に1語あるかないかぐらい)でしょう。


しかし、早口のインタビューやぼそぼそ話す講演などでしたら正解率は95%ぐらいになるかもしれません。20語に1つぐらいは間違った字幕が出るわけです。


しかし、自分が好きでそれなりに知識もあるし推測もできるトピックについて聞いている場合は、それらの字幕の誤りは、結構わかるものです。「なるほどAIもこのように聞き間違いをするのか。というより、この人の発音もそれほど丁寧ではないな」といった気づきが得られます。


これまた科学的根拠のない推測ですが、現在のChromeの英語認識精度(英語字幕の正解率)は、CEFRでいうとB2からC1程度の英語使用者のリスニング能力に相当するぐらいでしょう。「そういった能力をもつ人も、なるほどこのように聞き間違えてしまうのか」と捉えてみることは、リスニングのコツを掴む上で有効なことだと私は実感しています。


ここでも大切なことは、聞く英語が自分にとって大切で興味関心も知識もある話題についてのものだということです。好きな話題だからこそ字幕の誤りもわかるわけです。長所1と長所2は2つ相まって効果を高めているといえるでしょう。


以上、いろいろ述べましたが、とりあえずはChromeを設定し、自動英語字幕生成機能をスタートさせてください。


そして自分にとって適した動画を見つけ、逐次提示の字幕でその動画を楽しんでください。その動画が難しすぎれば、他の動画を選んでください。なにせ、ウェブ上の動画・音声のすべてが教材候補になるのですから、あなたにとって最適の動画は必ずあります。


Chromeの自動英語字幕を使って、あなたの世界を広げ・深め、人生を充実させてください。英語力は、その結果としてついてきます。



追記(2021/04/08)

技能訓練は、練習の量を重視する方法と質を追求する方法の2つに大別することができます。大学生・院生・社会人は、英語以外にやるべきことがたくさんありますから、練習を自覚的・集中的に行って質を高める方がよいかと思います。

その点で、一度、字幕付きで見た動画を字幕なしで再視聴する方法はお勧めです。

Chromeの自動生成字幕機能でしたら、Chromeの設定画面で簡単に停止することができます。TED動画も字幕提示を止めることは簡単です。

逐次的字幕提示にせよ一括字幕提示にせよ、どうしても文字を見てしまいますから、ある程度動画になれたら字幕を一切提示させずに音声だけで英語を理解してみてください。

そこでわかった自分の弱点は、再度、字幕付きで視聴すれば明確に確認することができます。

スポーツもそうですが、「なぜ自分にはこの練習が必要なのか?」、「この練習の強度(レベル)は自分にとって適切か?」、「この練習で今回自分は何を学べたのか」といった問い・振り返りを常に行い、貴重な時間を大切に使ってください。



関連記事

知的な英語を使いこなせるようになりたい大学生のために

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2019/06/blog-post.html



 追記(2021/04/21)

以下のような「外国人なまり」の英語だと、字幕の正確度は若干落ちてしまうことをお伝えしておきます。このような英語を聞く場合は、トピックについてある程度の知識と語彙をもっていないと、字幕だけに頼っての理解は困難になるかもしれません。リスニングは「技能」とみなされていますが、最終的には聞き手の知識(「教養」)が重要になります。

Uri Hasson

This is your brain on communication



追記(2022/04/12)

ChromeブラウザーにLanguage Reactorという拡張機能をインストールすると、動画の繰り返し再生などが容易になり、リスニング学習がはかどります。ぜひ以下のページをご参照ください。


京都大学・国際高等教育院・英語教育部門(DELE)

FAQ・英語学習に便利な動画アプリ

https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english/consultation_jp_FAQ#frame-603



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