2021/03/23

リスニング学習の革命? Chromeブラウザで英語を聞くと、音声を自動的に文字起こししてくれる

 

■ Chromeブラウザで動画・音声を視聴すると、自動的に英語字幕が出てくる。


既にご存知の方も多いかと思いますが、Chromeブラウザ上で、英語の動画や音声を視聴すると、その英語音声が自動的に英語文字に変換されて示されるようになりました。

私も先ほどインストールしたばかりですが、画面上に2行ほど表示される小さな枠が出てきて、そこに文字起こしされた英語が、音声から一瞬遅れたタイミングで表示されます。

その遅れは決して不愉快なものでなく、むしろ自分で聞いた英語音声を文字で確認できるのでリスニングの学習に好都合です。

正確度については、私がThe New York TimesのArgumentという対話ポッドキャストで短い時間で試しましたら、会話で、"Sara"という呼びかけが表示されなかったり、"COVID"を他の単語として認識したりしたぐらいの小さな問題はありましたが、実用上はまず問題ありませんでした。

YouTubeで適当なサイト(JBLスピーカーのレビュー)で試してみました。これはプロのアナウンサーがしゃべっているのではなく、米国人のオーディオファンが自宅で録画・録音しているだけのものです。これも、私が短い時間で試しただけですが、一箇所ほど「あれ、それでいいのかな?」という文字起こしがありましたが、ほとんどすべての文字化は正確でした(というより、恥を忍んで言えば、「あ、そうか、確かにその英語の方が文脈に合っている」と私の聞き間違いを正してくれる箇所が何箇所かありました。)


■ リスニング学習の革命?

これらの自動文字起こし機能は、米国では本来、聴覚障害者のために作成されているようですが、私は職業柄、どうしてもリスニング教材として捉えます。

楽観的な見方をすれば、英語学習者は、問題集などの味気ない英文をいやいや聞くのではなく、自分が好きなトピックに関しての動画を、この自動文字起こし機能を付けたままずっと読み続ければ、リスニング力が確実にアップすると思います。

論語が言うように、「これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如(し)かず」  だからです。いやいや勉強するよりも、英語で学べることの喜びを身体で感じながら英語を長時間聞き続けることの方が、結果的には高いリスニング力がつくと思います。

もちろん、英語力が不十分な学習者は、流れ行く英語字幕を読むだけで大変かもしれません。単語力がほとんどなければ、少々英語がゆっくりだとしてもまともに字幕の英語を理解できないでしょう。反面、英語音声の特徴を分析的に学んでおくこと(例えば、深沢俊昭著(2015)『 改訂版 英語の発音パーフェクト学習事典』アルクなど) の有用性は変わらないでしょう。

また、上の私の感想は、それなりに英語を習得している者としてのものですから、さまざまな英語力の人がこの自動文字化機能を使ってみたら、それぞれに異なった感想を持つかもしれません。

しかし、英語リスニングを学ぶための教材が、教科書会社が発行するものだけにとどまらなくなったことは革命的なことだと私は考えます。

学習者は、自分が好きなトピックについて、ウェブ上で無料公開されている動画・音声を視聴し続ければいいわけです。そこで、音声を聞き続けながら英語字幕を読み続けること、いわばリスニングと速読を長時間行うことで、従来よりもはるかに楽しめながら、英語力をつけることができるのではないでしょうか。

一日の決まった時間に、パソコンの前でお気に入りの英語動画を見ることでしたら、習慣化もそれほど困難ではないでしょう。


■ 設定の仕方

私の場合は、Windows 10マシンの上のChromeブラウザを使いました。OSとChromeが最新版であれば、設定は驚くほど簡単です。


(1) Chromeブラウザの右上にある縦3つのドットのアイコンをクリック。

(2) 現れるメニューの中から「設定」をクリック

(3) 左のコラムの「詳細設定」の▼をクリック

(4) 「ユーザー補助機能」をクリック

(5) 「自動字幕起こし 」をオンにする


Googleは私たちの個人データを入手することで莫大なグローバル・ビジネスを展開していますので、厳密に言えばこの自動字幕起こしサービスは無料とは言えません。

しかし表面上は一切お金を払うことなく、このサービスが受けられることは、私からすれば驚くべきことです。


■ Evolution in Technological Innovations

私は、現在勤務している国際高等教育院・附属国際学術言語教育センター (i-ARRC) の英語教育部門長として、以下の3つのVisionsを構想しています。


Autonomy

Beyond the Classroom

Evolution in Technological Innovations


こういった機能の登場を受けて、大学英語教育も進化させ、再編成・再創造してゆかねばということを痛感させられました。

英語の学びは、教師に管理されて行うものであり続けるべきではないでしょう。

ある程度の英語の基礎を学んだ者にとって、英語は、教室の外、つまりはそれぞれの暮らしの中で、それぞれが自律的に目標やペースを決定して行うものとなるべきだと私は考えます。

大学での英語教育は、そういった自律的な学びを支援し、それだけでは偏りがち・充分でない側面を体系的に教えるようになるべきだと私は思っています。



今後、このサービスにもさまざまな問題が現れてくるかもしれませんが、今のところ私としてはお勧めです。

このサービスを多くの英語学習者がインストールし、英語教育関係者に、英語教育を変化させざるを得ない圧が自然にかかり、英語教育が進化することを私は願っています。




追記 (2021/03/24)

この英語字幕自動生成機能をTED動画で試した時、私はTEDのたいていの動画には英語字幕がボランティアの手によって作成されているから、TEDにこのChorome機能を使っても意味がないかと思っていました。

しかし、TEDが提供する字幕は2行程度が一気に出るものであり、Chromeが生成する字幕は英語音声に一瞬遅れて次々に出てくるものであるという違いは存外に大きいのではないかと思い始めました。

私の経験ではTED字幕ではどうしても提示された2行程度の英文を読んでしまいます。音声が出されるタイミングとは異なるペースで読んでしまい、その結果、どうしても音声に対する注意が薄れてしまいます。

他方、Chromeの逐次文字化では、まず私は英語を自力で聞かなければなりません。その一瞬後に英語字幕が出てきますから、それで自分のリスニングが正しかったかどうかを確かめます。正しくなければ、「あぁ、そう言われていたのか。確かにそうだ」とそこで自分の耳の矯正(=リスニング学習)ができます。リスニング力向上のためには、サイトが予め作成していた字幕の提示よりも、AIがその瞬間ごとに字幕を生成するChromeの文字起こしの方がよいのではないかと私は考え始めました。

ただ、英語力が充分でない人は、字幕を読み続けることを困難に思うかもしれません。

私は常日頃、「リーディングは、目で行うリスニングだ」と言い、遅い訳読ではない通常の英語リーディングでは、目に入る活字を即時に感情のこもった意味ある声に変換することが大切だと説いてきました。

今回、Chromeの自動字幕生成機能を使って、「リスニングは、耳で行うリーディングでもある」と思え始めました。リスニングは個々の単語・句を認識するだけでなく、英語を意味のある文・文章として高速処理する知的作業でもあるからです。「リスニングができない」という場合、個々の部分の音声認識ができないのか、それとも全体の意味理解が高速でできないのか(それともそもそも意味理解ができないのか)について、自己判断することが必要だと思います。(もっとも多くの場合は、両方共に不十分なのでしょうが)。

昨日から少しずつChrome英語字幕機能を使って、やはりAIでは常に完全に正確な音声認識ができるわけではないことはわかりました(英語の種類 (variety) や話者の話し方なども当然影響します)。また、AIが一度文字化した後に、その字幕を変更する様子を見るのは、私たちに余計な処理を強います。それでも、このChromeの機能が、リスニング学習に不可逆的な変化をもたらすことは確実だと考えます。

学校英語教育がこういった技術革新に対応するには少し(あるいはかなり!)時間がかかるかもしれません。学習者の皆さんとしては、それを待つのではなく、どんどん自分でこのChromeの機能を使って英語を楽しむことをお勧めします。

一日のうちのある時間帯(たとえば昼食時)に、必ず1つの英語動画をこのAIが自動的に生成する英語字幕(もしくはサイトが用意している英語字幕) を見ることは、それほど難しいことではないかとも思いますが、いかがでしょう。

これだけAIによる自動言語処理が普及している現代でも、自分の生身に英語を身につけることの価値はまったく変わりません。いや、これらのAI/ICT機能の普及で、世界的な英語使用者人口が一層増えるとすれば、生の英語を使えることの価値はさらに高まるとも考えられます。メディアの利用価値は、ユーザーが増えれば増えるほど急激に高まるからでです。

英語を学ぼうとしている方々は、どうぞ今、行動を始めてください。

あなたの学びの主人はあなた自身であり、学校の先生ではありません。

もう一度、私が英語教育について今もっているVisionsを掲載します。

Autonomy

Beyond the Classroom

Evolution in Technological Innovations


もしあなたの英語教師が十分な行動を起こさないのなら、自分が自分の教師になって、自律的に、教室以外の時空で、技術革新の中で自分の学びを進化させてください。



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