2024/09/20

今井むつみ (2024) 『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』『きょう、ゴリラをうえたよ』

 

この記事では今井先生の近著についての私の感想を書きます。


『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』


「伝わる文章とは何か」という問いは、英語ライティング教師である私にとって常に考えなければならない問いです。私はライティングを語法・文体・ストーリーの3つの観点から考えますが、語法と文体についてはAIでずいぶん学習者は支援を受けることができるようになりました。残る課題はストーリーです。

ストーリーについては、Context-Problem-ResponseやWhy-What-So Whatあるいは起承転結などの一般論で、ストーリーの全体像についてある程度指導はできます。ですが学生の英文の中には、これらの枠組みに即しているようで、どうも分かりにくい文章が少なくありません。また、ストーリーの細部、例えば1つのボディパラグラフの中の論証が理解しづらいことも多いものです。教師としては学生の英文をしばらく読んで、「はぁ、つまり◯◯を立証したいわけ?それならこの情報を先に提示してくれないと読者は混乱するよ。また、この情報はむしろ読者の誤解を招くから削除した方がいいよ」などと助言します。ライティング教師として、私は「伝わる文章」を書くためのストーリー展開の指導には大幅な改善が必要だと思っています。

今井むつみ先生の『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』は、仕事や家庭や学校でコミュニケーションの困難を覚えている人々--ということは私たちのほとんど--のために書かれた本であり、ライティングのストーリー展開を考える点でも非常に有益な本です。

「これだけ言っているのにどうしてわからないのだ!」と不満を募らせる人は、人間は相手の話した内容をそのまま脳にインプットしているわけではないということを理解していません(p. 22)。人間には「知識や思考の枠組み」(スキーマ)があります。この枠組みは、一人ひとりの学びの経験や環境、興味や関心、そして言語が異なれば、それぞれに異なってくるものです (p. 30)。上記の不満を抱く人の多くは、自分と相手の知識や思考の枠組みがそもそも異なっていることが分かっていません。一部の人は違っているということ自体は分かっていても、枠組みのどこがどのように異なっているのかを具体的に把握できていない。だから、自らの説明法を変えたり、別の事例をもってきたりすることができません--はい、私のことです(苦笑)。

「伝わる文章」を書くためには、まずは人間のさまざまな思考法と興味関心を一般的に学んでおいておかねばなりません。次に、今・ここで自分が面している相手がどのような思考法と興味関心を抱いているかを理解し、その相手に最適な論理展開で論証をする必要があります。さらには今後のために、その思考法と興味関心を有する人にとって、その論理展開が最善だったかを反省しなければなりません(ソクラテス『パイドロス』p. 118; 「AIの言語生成と人間の言語使用の違い:AI時代の言語教育のための考察」(2024年2月10日 言語系学会連合公開シンポジウム)  

この『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』を読むと、私たちの日常生活での誤解の原因が具体的にわかり非常に勉強になります。専門家の偏りや認知バイアスについて、私たちはもっと理解を深めるべきでしょう。また名著『英語独習法』を書いた英語の使い手として今井先生が説明しているwear/put onやa/theの違い(それぞれ p. 34と p. 132)は中学生にも理解してほしいことです。

人間の価値観が多様化し、人間の交流がグローバル化するにつれ、相手に伝わるコミュニケーションを行う力は重要になります。そのようなコミュニケーション力は、機械的な学習を繰り返すことではおそらく獲得することがでません。他人に的確に伝えることは、人間の思考法と興味関心についての該博な知識に基づいて、目の前のコミュニケーションをメタ的かつ動態的に分析することによって達成できるのでしょう。そんな力をもつ人こそ教養ある人と呼ぶべきです。本書は現代社会における教養を身につけるための本ともいえます。




『きょう、ゴリラをうえたよ』


今井むつみ先生について驚くことは多岐にわたりますが、その1つが発想の柔軟性です。国際的学術誌に専門的な論文を執筆すると同時に、上の『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』のように一般読者に伝わる本を書けるということは、実は容易なことではありません。どちらかのジャンルなら書けるけど両方で書ける人は稀有といえるでしょう。

この本は、「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴先生がまとめ、吉本ユータニキさんがイラストを添え、今井先生が監修し解説を加えた、子どもの言い間違えについての本です。読んで笑いながら、なるほどなるほどと言語の本質的な特徴について考えることができる知的エンターテイメントといえるでしょうか。

知識人とは、学界での興味関心事においてだけでなく、日常生活においても知的分析を行うことができる人なのだと思わされます。




関連記事

下の拙論は、オープンアクセスが始まった月には2万件以上のアクセスをいただき、その後も細々と読み続けられているライティングについてのまとめです。最新のAI技術を追うのではなく、「少々のAIの進展では克服し難い、日本語母語話者が英語という外国語で考え書くという難題を克服するために注意すべき点」についてまとめたのが功を奏したのかもしれません。


柳瀬陽介 (2023)

「AIを活用して英語論文を作成する日本語話者にとっての課題とその対策」

『情報の科学と技術』73 巻 6 号 p. 219-224

https://doi.org/10.18919/jkg.73.6_219


抄録:本稿は,日頃英語で書く経験が乏しい日本語話者が,短期間で英語論文を執筆する方法について解説する。作業手順は,日本語による構想と原稿執筆→AIによる英語翻訳→AIによる文体改善→著者による最終校閲である。一貫している原則は,人間が,AIが不得意としている領域の作業に最善を尽くすことで,最終成果物の質を上げることである。作業の際の留意点は,ストーリー・文体・語法の3つの観点別に説明する。それぞれの強調点は,ストーリーでは戦略的な構想,文体では英語の発想に即した表現法,語法では日本語話者が不得意とする領域である。本稿は総じて,人間とAIが相互補完的に作業を進めることを推奨する。


 

2024/09/02

「言語使用におけるリスクと責任--身体的で歴史的な実践知」のスライドと予行演習動画の公開

 

8/30(金)の19:30-21:30にSomatics and SEL研究会主催の公開オンライン研究会で50分の講演をしました。その後の約1時間はすべて質疑応答に使うという贅沢な会でした。事務局と参加者の皆様に改めて感謝いたします。

私の講演タイトルは「言語使用におけるリスクと責任--身体的で歴史的な実践知」でした。一般の方々はしばしば「外国語なんて、現地で暮らせばだれでも身につけることができるよ」と言います。それを聞いた言語教育関係者は、自分の存在意義を疑われたと怖れて動揺しながら「そうはいっても、教室と現地は違いますから」と言います。その弁明は正しいのですが、言語教育関係者の多くが行うことは、教室の学習ひいては評価の体系化であり「科学化」です。

しかし「言語学習についての安直な学問化・科学化と在野の知恵について」の記事 (https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/05/blog-post.html) でも触れたように、私は過剰な体系化や浅薄な「科学化」の方向性には賛成しません。それよりも、上の一般人の述懐の含意を丁寧に考えてゆくべきだと私は考えます。


今回の講演では、上の「現地で暮らす」こと、つまり現実世界で言語を使うことの重要な側面として、使用する言語のリスクと責任を取ることを取り上げて考察しました。その考察から、安直な科学化を施した研究が謙虚さを失った結果をかなり批判しました。この批判は、下の考察からの流れに基づいています。



「英語教育実践支援のためのエビデンスとナラティブ : EBMとNBMからの考察」 (https://doi.org/10.18983/casele.40.0_11)


「英語教育実践支援研究に客観性と再現性を求めることについて」 (https://doi.org/10.18983/casele.47.0_83) 


「柳瀬陽介「教育実践を科学的に再現可能な操作と認識することは,実践と科学の両方を損なう」(シンポジウム:外国語教育研究の再現可能性2021)(https://yanase-yosuke.blogspot.com/2021/09/2021_11.html)



今回の講演のスライドはここからダウンロードすることができます。(https://app.box.com/s/jvyka8gsznljxo0vbourf9murfhje2o7)。講演の予行演習動画は下から見ることができます。ご興味のある方は御覧ください。






質疑応答の中で特に私にとって勉強になったのは、「実践者の報告の中にも硬直したことば遣いで、相互理解を拒むものもあるのではないか」と「PPPのような機械的な言語操作練習にも一定の意義があるのではないか」というものです。これら2つはもっともなご指摘で、私の説明不足を補ってもらうものでした。

実践者の中にも頑なな態度で、他の実践者から学ぼうとしない人がいるというのは、残念ながら事実だと思います。そういった方は時折「◯◯さえすればよいのだ!」とご自身の実践を過剰に一般化した主張をされます。もしそういった方の実践にみるべきところがあれば、周りの人たちはその方の教条化した表現を、他の人にもわかるように具体的に言い換えて、その方の実践の価値と限界を明確にすることができるでしょう。私たちは言語教師なのですから、研究を語る際も、できるだけ丁寧にことばを使うべきです。

後者の指摘の、機械的な言語操作練習にも一定の効用があるというのも、まったくその通りです。この点は講演でもっと強調しておくべきでした。楽器の演奏やスポーツのパフォーマンスと同様、自由に "play" するためにはある程度の定型的な練習は不可欠です。

しかし、多くの授業が機械的な練習だけで終わっています。何のために機械的な繰り返しを行うのかをはっきりさせていません。ですから、一部の授業は、機械的な練習を過剰に行いそれを厳密に評価することばかりに力を注いでいます。まさに手段が目的になってしまっています。

そうではなくて、自由に、そして自分のために言語を使うために、機械的な作業を必要最小限に留めるべきと私は考えます。そして定型的作業設定に比べてはるかに困難な自由度の高い課題を適切に設定することが、そしてその課題達成のための学習者の意欲を高めることが、言語教師として大切ではないでしょうか。


ともあれ、講演の最後の方で私は「リスクと責任を取っている実践者(現場教師)の声に真剣に耳を傾けよ--たとえその意見が、学会で「正統」だとされている合理化主義者 (rationalizer) の知的枠組みに収まらなくても--」と主張しました。私としては、せっかくの学会という組織が、もっと実践者の日々の葛藤を丁寧に拾い上げることを願っています。


2024/08/26

「英語教育は学習者をAIのようにしてはいけない―AIの言語生成と人間の言語使用の違い―」のスライドと予行演習動画の公開

 

全国英語教育学会第49回福岡研究大会(会場:福岡工業大学)の2日目(2024/08/25・日曜)の最終イベントであるシンポジウム「日本の英語教育の将来:AIの衝撃-英語教室はどう変わるのか?」に登壇させていただきました。コーディネーター兼登壇者が石井雄隆先生、(千葉大学・理化学研究所)、もう一人の登壇者が水本篤先生でした(関西大学)。このイベントを可能にしてくださったすべての関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。


私のタイトルは、「英語教育は学習者をAIのようにしてはいけない―AIの言語生成と人間の言語使用の違い―」でした。主旨は、「人間の言語使用は、実存的な語りができるという点でAIの言語生成と異なる。その人らしさを表現できる語りができるようになる英語教育でないと、AI時代に存在意義はない」といったものでした。


発表で使ったスライドはここからダウンロードできます。


発表前に個人で行った予行演習のYouTube動画は下から見ることができます。




当日は、3名の発表が終わった後にSlidoというアプリを通じてたくさんの質問をいただきました。そのうち一部しか答えられなかったのが残念です。

3名で答えた質問の1つは次のものでした。

小中高生に「AIがあるからもう英語の勉強なんか意味ない。」と言われたら、先生方は何と返されますか?

この問いについては、このブログで改めて私の見解を書きます。

「どうして英語の勉強をしなくてはならないのだ」という問いは、AI登場以前からありました。多くの場合、こういった問いは、--私の発表で使った用語を用いますなら--<実存的>な問いです。私なりに拡張すれば、「自分は英語を勉強していても意義が感じられない。どうして自分の貴重な若い時代の時間をこのように退屈な作業に費やさなければならないのか?英語を教えるあなたも一人の人間なのだから、一人の人間として私の問いに答えてほしい」という問いです。

<実存的>な問いに、無難な答え--<よくある話>の表現--を出すのは、人を小馬鹿にすることです(近年の多くの政治家や官僚はそのような答え方をしていますが、その点については割愛します)。教師は自分の人生を反映した見解を示す必要があります。その答えを聞いた学習者が、「なるほど、この先生がこう言うのなら信頼できる。たしかにこの先生は日頃からそのような考えをもっていたように思える」と感じてくれるようなものでなければなりません。

 もしそのような説得力あることば(ということは教師人生)が自分にないのなら、「正直、自分も納得できる答えがなくて、いつも心苦しく思っている」と正直に語ることも1つの方法でしょう。もちろんそういった答えが拡散され問題になるかもしれませんが、誠実に語れば、少なくとも人間関係はできるのではないでしょうか。

もちろん<実存的>な問いは、誰が(他に誰がいる状況で)いつ(どんな出来事の流れの中で)どこで(どんなことが通常期待されている場所で)問われたかなどが決定的に重要です。ですから、答えは千差万別です。ということは上に述べたように、このような<実存的>問いに一般的な模範解答はないということです。

もちろん、こういった問いを抽象化した上で、一般的な答えを考えることも英語教育関係者としては重要です。特に私などは「哲学的探究」などと称しているのですから、それなりのきちんとした答えが必要でしょう。ですが、それは必然的に一文、二文では終わらない長いものになります。そういった答えを私なりに提示することはまた後日の課題とさせてください。


その他にも、当日に答えられなかったどころか、今、アプリを見て気づいた質問・コメントのうちに下のものがありました。個人的にとても共感しましたのでここに掲載します(シンポジウムで読み上げられることを前提とした書き込みなので、ここに掲載することに問題はないと判断しました)。

公立中学校で教えています。担当は中学一年です。必要に応じてAIも使って行かないといけないのか、と思っていましたが、今日のお話を聞いて、もっと自分の担当している生徒を見て、必要であればそして使って意味あるようであれば使おうと思うようになりました。時代に逆行するようですが、むしろそれが最先端のような気がしました。ありがとうございます。

当日の発表スライドの最期にも書きましたが、(英語)教育にとって、AIもハイデガー哲学も枝葉末節のことだと思います。大切なのは、人間らしく生きるために今の時代の若者に何が必要かを大人が真剣に考えてそれを誠実に教えていくことだと私は考えます。


2024/08/01

ガート・ビースタ(著)、田中智志・小玉重夫(監訳) (2021)『教育の美しい危うさ』東京大学出版会 /Gert Biesta (2013) The Beautiful Risk of Education. Routledge


 以下は、ガート・ビースタ(著)、田中智志・小玉重夫(監訳) (2021)『教育の美しい危うさ』東京大学出版会 /Gert Biesta (2013) The Beautiful Risk of Education. Routledgeを読んで作成した私のお勉強ノートです。ノートの作成方法は、(1) 翻訳書を先に読む、(2) 翻訳書に下線を引いた箇所のみ原著を読む、(3) 原著のそれらの箇所から私なりにまとめを作成する、という方法です。はい、安直な読み方です。ごめんなさい。

 翻訳書の日本語はよく考え抜かれた明瞭なものですが、以下のまとめでは私なりの翻訳をかなり入れています。信頼できる理解を得たい場合は、訳書と原著の両方をご参照ください。まとめに続く「=>」からの文章は、私の感想です。



第1章:創造性 (Creativity)


■ 教育とリスク

 教育は常にリスクを伴う (education always involves a risk) 。だが現代においては、教師は教育からリスクを取り除くことを求められている。(xii, 1ページ) 統計やデータを通じて教育を遠くから抽象的にしか捕らえない政策決定者や政治家が、リスク回避 (risk aversion) を好むからだ。

 しかし、生身の人間を扱う教師は、教育は「固定化」 (fixed) できるものではないことを痛感している--あるいは「固定化」するなら高い代償を払わなければならないこと知っているというべきだろうか。。

 教育を強く、安全で、予測可能で、リスクのない (strong, secure, predictable, and risk-free) にしようとすることは、この[教育の]現実を否定しようとすることでもある。 (p.2, 2頁)

=> 教授法の比較実験は、「エビデンス」を示すことで、教育のリスクを減らそうとしている。統計的な有意が示された教授法を行えば、いつでも・どこでも・誰でも教育が成功するといわんばかりである。しかし現場で鍛えられた教師は、教育の本質は一つ一つのクラス・一人ひとりの児童・生徒・学生の反応に応えてその時々で最適と思われる行動を起こしてゆくことだということを知っている。そういった教師は、いつでも同じ授業しかしないなら、児童・生徒・学生の学びの意欲を伸ばせないことを知っている。

 他方、管理主義的・支配的な教師は、同じ授業を粛々と行い、それで学力が伸びないなら、それは児童・生徒・学生の自己責任であると片付ける。そのような教師は、授業やカリキュラムを変えようとする動きに対しては、「その改革が成功するというエビデンスはあるのですか?エビデンスのない改革を行うわけにはいきません」としばしば述べる。


■ 強い創造と弱い創造

 キリスト教でも世俗社会でも、原因と結果という強い形而上学的用語を使って (in strong metaphysical terms -- in terms of causes and effects) 創造を考えることが多い。だが出会いと出来事という弱い実存的な用語 (in weak existential terms -- in terms of encounters and events) で創造について考えることもできる。 (p. 12, 14頁) 教育を創造と考えるなら、この2つの創造観について自覚的であるべきだ。

=> 政策決定者や「エビデンス」を作り出す研究者は、ある教授法という原因をもたらせたならば、テストの点数の上昇などといった結果が生じると信じている。これに対して児童・生徒・学生と正面から向き合う教師は、教育とは出会いであり、刻々と変化していく出来事であると考える。「原因→結果」という単純で固定的な枠組みだけで教育を捉えようなどとは決して考えない。


■ 神の創造についての2つの解釈

 聖書の詩篇に端を発しプラトンとアリストテレスの形而上学を経由した創世記の神は、無からすべてを創造する神である。だが、別の解釈では、神は大地や水や風を作り出したのではない。それらの存在は既に神と共にあり、神はそれらの存在を善きものと呼んだ (called good)というのがその解釈である。この2つ目の意味での創造は、無が存在に変わることではなく、存在が善に変わることである (not a movement from non-being to being, but from being to the good)。(p.13, 17頁)

=> 中高一貫校で宗教を教えている私の配偶者(神学部出身)によると、創世記は2つの系統の文書から構成されているということは、キリスト教神学の常識らしい。私はまったく知らなかった。


■ ヤハウエとエロヒムの違い

 創世記で神はヤハウエともエロヒムとも称されるが、これらには違いがある。ヤハウエはエデンの園での行いによって示されているように、アダムとイブに生命を与えたというよりも、生命の試練を与えている (Yahweh does not so much give Adam and Eve life as he gives them a test of life)。ヤハウエは自らが創造したアダムとイブを信頼しておらず、最終的には二人をエデンの園から追放するという形で、創造主として自分が取るリスクを最小化した。ある意味で、ヤハウエはアダムとイブを「永遠の子ども」のように扱っている。

 これに対してエロヒムは、リスクを取ることを厭わない。本当の信頼とは常に根拠なしの信頼であり (always without ground)、「見返り」 ("return") がないことを知っている。この意味で、信頼とは無条件である。エロヒムにとって生命とは無条件に贈与するもの (unconditional gift) である。(p.14, 17頁)

=> 思い切って俗っぽい言い方をするなら、ヤハウエ的な教師は、学生に課題を与えて「この課題を行えば単位をあげます。課題ができなかったら、それはあなたの責任ですから、私は知りません」と言う。課題ができない学生や課題に反抗する学生がいても「課題ができなければ単位をあげません」と繰り返すだけである。

 他方、エロヒム的な教師は、課題に苦しんだり課題を面白くないと決めつける学生に対しても、「この学生もいつかは、課題の意義がわかり、課題ができるようになるはず」という信念を、根拠やエビデンスなしに抱き続ける。そして、その時々に応じた対応をする(時には敢えて何もしないという対応を取る)。それらの対応が報われず、学生が教師に感謝の意を示さないとしても、「教師というものはそんなものだ」と思いを新たにし、次の授業においても学生を信じる。


■ エロヒム的な創造

 エロヒム的な創造とは、そこにある存在を肯定する行為 (the act of affirmation) である。その肯定により、存在に意義と意味 (significance and meaning) が与えられる。エロヒム的な創造は、原因という形而上学的説明を授けるものではない。 

 エロヒム的な創造は、教育者も創造がリスクを伴う営み (a risky business) であること、というよりも、リスクを取らなければ主体性という出来事 (the event of subjectivity) は生じないことを教えてくれる。(p.23, 30頁)

=> エロヒム的な教師は、学生ができるようになるのは、学生の内にある力が外からの働きかけをきっかけにして開花したからと考える。そしてその成長をすばらしいと認める。教師としての自分の働きかけも、無駄に終わるかもしれないことを自覚しながら、少しでも事態が改善する方向にもってゆくための試行錯誤を繰り返す。

 これに対してヤハウエ的な教師は、学生が何かできるようになったら、それは自分の授業のおかげだと考える。そういった教師の授業は、「エビデンス」やシラバスといった権威にひたすら忠実なものであり、そこからの逸脱を嫌う。学生が課題を達成できなかったら、それは正しい授業にもかかわらずできなかった学生のせいであると考える。ヤハウエ的な教師は、エビデンスがなく失敗するかもしれない新たな働きかけをするといったリスクは取らない。


■ 子育てから考える神の態度

 善い親は、自らの子どもはいつかは成長してわかってくれるだろうと望みながら、子どもが予測不可能で見通しが立たず、愚かで、ひいては破壊的ですらあることと折り合いをつけなければならない (must learn to deal with the unpredictability and the unforseeablity, the foolishness, and even the destructiveness of his children, in the hope that they will grow up and eventually come around)。(p. 15, 19頁) エロヒムの態度は、善き親の態度に似ている。

=> 以上のビースタの神学的な議論は、Caputo (2006) The Weakness of God: A theology of the events. Indiana University Pressに基づいています。このCaputoの本はいつか私も読みたいと思っています。


■ 教育における主体化

 ビースタは、教育の過程と実践は、有能化 (qualification)、社会化 (socialization)、主体化 (subjectification) という3つの領域が重なり合うところで営まれていると考えている。

 ここでの主体化とは、教育される者が客体・対象物 (object) としではなく独自の主体 (subject) --行為し責任を取ることができる主体--であると考えることである。主体化を尊重するならば、教育の過程と実践が、人間的主体性 (human subjectivity) の創発 (emergence) に貢献することを願う。

 主体化は社会化とは異なる。社会化は、教育を通じて個々人が既存の秩序と伝統の一部となることである。だが主体化は、人間の存在はそれらの既存のものでは完全には決定できないことを示している。 (p. 17, 22頁)

=> ビースタのいう教育は、下のベン図の3つの円が重なる領域であると考えられる。ある知識・技能で有能になっても、既存の社会に溶け込めなければそれは適切な教育とはいえない。社会には適応できても、知識・技能が足りなければ教育として不適格である。だが、有能で社会に適応していても、その人が一人の人間として独自の行為を選んで責任を取ることができなければ--つまりその人の主体性がなければ--、その教育は失敗である。

 もっとも一部の政治家や資本家は、優秀で従順でありながら、決して自分の意思をもたず、自分たちの指示にひたすら従う主体性のない「人材」を作りだすことを教育の使命と考えているかもしれない。





第2章 コミュニケーション (Communication) 


■ 開かれて不確定だからこそ生成的かつ創造的なコミュニケーション

 教育のほとんどの部分はコミュニケーションであるが、コミュニケーションを理解するには強いコミュニケーションではなく弱いコミュニケーションについて考えるべきである。以下、本書の一部を翻訳する。

 「デューイはコミュニケーションの弱い理解を提供してくれる。つまり、コミュニケーションは、根底的に開かれ不確定というだけでなく、生成的で創造的な過程である。デューイにとってコミュニケーションとは、意味が創られ共有される過程である。ある情報をある場所から別の場所に「安全に」に伝達するための機械的な「仲介」ではない。デューイによれば、コミュニケーションは主体の間の出会いとして生じるものであり、客体の間の交換ではない。したがってコミュニケーションは、そのような出会いに賭けられているすべてのリスクと予測不可能性と共に生じるのである。(Dewey provides us with a weak understanding of communication, that is, of communication as a process that is not only radically open and undetermined but also generative and creative. For Dewey communication is a process in which meaning is made and shared, not a mechanical “go-between” for the “safe” transportation of bits of information from one location to another. With Dewey communication thus emerges as an encounter between subjects, not an exchange between objects so that it comes with all the risk and unpredictability that is at stake in such encounters.) (p. 35,46頁)

=> ビースタは、博士号をデューイの研究で獲得したそうです。私は前任校の広島大学の大学院で、数年間、デューイのDemocracy and Educationを教科書にして授業をしていましたから、このあたりのビースタの議論はよくわかります。

 

John Dewey (1916) Democracy and Education (デューイ『民主主義と教育』の目次ページ)

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2013/09/john-dewey-1916-democracy-and-education.html

 

私の偏見は、学部生や修士課程の時代に最先端の研究論文ばかり読ませると、若き研究者の促成栽培には成功するかもしれないが、それらの学生さんの潜在的能力を活かせないかもしれないということです。時の試練を経て読みつがれている古典を、現代的視点から批判的に読む教育は重要だと考えます。さもないと研究者は、狭い分野を追い続けるという能力に特化した専門家ばかりになってしまいます。もっとも分業体制がしっかりした科学分野ではそれでもよいのかもしれませんが、英語教育といった総合的というか臨床的というか実践的な分野では、視野狭窄の専門家があまり権威と権力をもつべきではないと私は考えます(こうやって私は業界にますます敵を増やしています(笑))。




第3章 教えること (Teaching) 


■ 人によって教えられることと、人から情報を得ることは異なる

 教師 (teacher) は、単なる情報のリソース (resource) とは異なる。誰かが教師を情報のリソースとして使うなら、その人は教師と教師の言動すべてを自分の理解の範囲の中にとどめてしまう。そうなるとその人は既存の自分のままにいることになり、根本的な変容を経験できない。

 誰かから学習するという経験は、誰かに教えてもらうという経験とは根本的に異なる (to learn from someone is a radically different experience from the experience of being taught by someone.) (p. 52, 71頁)

=> ビースタは、「教えること」は「(一人で)学ぶこと」とは異なることを強調しています。論証の中ではレヴィナスの論も使っています。教師は「教える」中で、学習者がその時点では理解できないことを教えようとしているのだということは、同じくレヴィナスに基づく内田樹先生の次の本がわかりやすいです(「内田樹なんていう評論家風情について言及するなんて・・・」とお怒りのエビデンス派の皆様、申し訳ございません(笑))


内田樹『先生はえらい』(2005)ちくまプリマー新書





第7章 わざ (Virtuosity) 


■ 教師の主な仕事は状況的な判断

 教育は、有能化・社会化・主体化というそれぞれ異なる次元の課題を統合させることであるので、教師はこれら3つの次元を同時に考えながら何が教育的に望ましいのかを状況に応じて判断しなければならない (situated judgments about what is educationally desirable in relation to these three dimensions)。ゆえに、教師の主な仕事は、単に目標を決めて計画を実行することではない。教育は多次元であり、教師は3つの次元のバランスについて常に判断を行わなければならない。どれかの次元を優先させることもあるだろうが、その優先は一般的で固定的なものではなく、具体的な状況と個々の生徒との関係で判断されるものである。そこには緊張や葛藤が生じるかもしれないが、それをプラスの相乗効果に転じることが望ましい。 (p. 129, 170頁)

=>だから教師はしばしば判断に悩む。悩みながら得た知恵は次の機会に活かされるが、次の機会はまた異なる状況なのだから、教師が判断から免れることはない。


■ 教えることは科学ではなく技芸

 William Jamesは、教えること (teaching) は、科学であるべきではないし、そもそも科学ではありえないことを述べた。しかし、彼は教えることが技芸 (art) であることについて述べなかった。よってアリストテレスの議論が重要になってくる。(p. 132, 173頁)

=> 上では偉そうに古典の重要性を述べながら、私はここで言及されている以下の2つの古典を未読です。明らかな勉強不足です。お恥ずかしい。

Talks to Teachers on Psychology and to Students on Some of Life’s Ideals

『ニコマコス倫理学』


■ 変化する世界におけるポイエーシスとプラクシス

 実践的な生活 (practical life) は、変化する世界 (the world of change) であり変動する ("variable") ものである。この変化する世界においては、ポイエーシス (poiesis) とプラクシス (praxis) という2つの行動の様態がある。(p. 133, 174頁)

=> 実践的な生活に対比されているのは、必然的なるものと永遠なるものについての観照的生活 (theoretical life) 。観照的生活で得られるのはエピステーメー (episteme)。ちなみに、この実践的な生活と観照的な生活の対比は、アレントも使っていた。


■ ポイエーシス(生産)とテクネー(生産技術)

 ポイエーシスとは例えば鞍や船といった物の生産 (production) である。これまでなかったものを作り出すことであり、そのためにはテクネー (techne) が必要である。Techneは、英語ではしばしば "art" と翻訳されるが、ここは以下これを「生産技術」と訳すことにする。

 ポイエーシス--以下「生産」とする--は、それ自身が目的 (end) ではなく、それ以外の目的のために行われるものである。したがって生産技術は、その目的に適う物を生産するための手段である。(p. 133, 175頁)

=> しかし、この生産と生産技術は変化する世界の中の出来事であることに注意。生産技術は、エピステーメーのような必然的で永遠の真理ではない。


■ プラクシス(倫理的実践)とフロネーシス(実践的賢慮)

 変化する世界は、物の世界であると同時に、社会的世界--人間の行為と相互行為-- (the social world -- the world of human action and interaction) でもある。社会的世界ではプラクシス (praxis) が行われる。プラクシスは、人間の世界に「善さ」 ("goodness") をもたらすことであり、善き行為 (good action) である。つまりそれ自身が目的であり、何か他のことのための手段ではない--この意味で、ここでは以下、"praxis" を「倫理的実践」と呼ぶこととする。

 倫理的実践で必要な判断は、どのようにして事をなすべきか (how things should be done) はなく、何がなされるべきか (what is to be done)である。この判断はフロネーシスと呼ばれる。"Phronesis"は英語ではしばしばpractical wisdom(実践的知恵)と訳されるが、ここでは「倫理的実践」とのつながりを少しでも示すため「実践的賢慮」と訳すことにする)。(p. 133, 175頁)

=> 私は昔から "practice" と "praxis" をどう訳し分けたらよいか悩んできたが、ここでは「実践」と「倫理的実践」という翻訳で区別することにした。

=> P.133には実践的賢慮とは"a reasoned and true state of capacity to act with regard to human goods"という表現が見られるが、私はここでなぜ "goodness"ではなく "goods"が使われているのかわかりません。


■ 教育は生産(ポイエーシス)以上のものであり、教育を生産にしてしまってはならない

 教育は人材の生産であるなどと考えてはならない。教育とは社会的な技芸 (a social art) である。教育は生産以上ののものである。いやむしろ、生産以外のものといった方がよいかもしれない。教育は倫理的実践(プラクシス)である以上、自由の中で自由のために (in freedom and for freedom) 行われなければならない。この発想は生産の論理からは出てこない。(p. 133, 175頁)

=> よく言われるように、ある者にあることができるようにするもっとも確実で迅速な方法は、拷問かもしれない。しかしそのような恐怖による支配を私たちは決して教育とは呼ばない。ビースタの用語を借りるなら、そのような強制は、有能化には成功しても、適切な社会化は行えていない。行えているのは、特定の権力集団へ服従させているだけである。ということは、主体化もまったくなされていない(というより没主体化に成功している)。

 そういえば私は昔、このようなウェブ記事も書いていた。


教育と生産を混同するな--ウィドウソン、ハーバマス、アレントの考察から--

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/10/blog-post_4057.html



■ 実践的賢慮(フロネーシス)は人格的特性である

 実践的賢慮(実践的知恵・フロネーシス)は、人に付け加えられる技術・傾向性・能力 (a set of skills or dispositions or a set of competences) ではない。実践的賢慮は、その人自身のある種の性質や卓越性 (a certain quality or excellence of the person) として理解するべきである。古代ギリシャはこのような人格的特性をアテレーと呼んでいた。アテレーの英訳は "virtue" であり、翻訳書ではこれを「ヴァーチュ」と表記している。だが、ここでは「人格」と訳すことにする。「徳」という用語も考えたが、後の "virtuosity" との関連で「人格」とする。

 そうなると実践的賢慮は、どうすれば学習できるかと問うのではなく、どうすれば実践的賢慮に充ちた教育的に思慮深い人 (educationally wise person) になれるかと問うべきである。(p. 134, 176頁)

=> 人格や徳などというと、エビデンス派の人たちなどは冷笑するだけだろう。しかし古代ギリシャや古代中国の昔から言い継がれているこれらの特質について、近代人はもう少し注意を払うべきではないか。

私は以下の本を長年読めないでいるが、いつか時間を見つけて読み通したい。


Trying Not to Try: Ancient China, Modern Science, and the Power of Spontaneity



■ 教師は、教育的に思慮深い判断に基づく人格的な技芸を求める

 教育関係者は、教育実習生 (teacher students) が、人格的な専門職 (virtuous professionals) になることを求めている。それよりも適切な言い方は、教師教育が求めているのは、教育的に思慮深い判断を行う人格的な技芸であるというものだろう (what we should be after in teacher education is a kind of virtuosity in making wise educational judgments)。 (p. 135, 178頁)

=> 教育が人を育てるものなら、教師教育も人を育てるものでなければならない。ただ、最近は物を生産するような教育そして教師教育が多くないか。教師も一人の人間である以上、多くの欠陥をもつ。だが、それだからこそ人を育てるという教育の営みに自らの身を呈しなければならない。そうやって教師が真剣に生きようとする時、学生も始めて学びに本気で向かい始めるのではないか。





エピローグ 出来事の教育学のために (For a Pedagogy of the Event) 


■ 教育が教育であるためにはリスクを取ることが不可欠である

  リスクがなければ教育そのものがなくなり、社会的再生産がそれに取って代わり、人の存在・行動・思考を既存の秩序の中に組み込んでしまう。(p. 140, 181頁)

=>しかし、今、教育改善といった名前で推進されているのは、まさにここで批判されている社会的再生産--強くて確実で予測可能でリスクのない生産--ではないのか。


■ 教育の弱さ、敢えて言うなら教育の崇高なリスクを引き受ける出来事の教育学が必要である

 私たちは原因と結果の教育学、つまり、予め特定された「学習目標」だけを生み出すだけを狙う教育学を必要としていない。私たちが必要としているのは、出来事の教育学 (a pedagogy of the event) である。つまり、教育の弱さ (weakness of education) を肯定することを志向する教育学である。この教育学は、教育の崇高なリスク (the beautiful risk of education) を喜んで取る教育学である。(p. 140, 182頁)

=> 「出来事」を私は、「固定的でも永続的でもない動態的で次々に変化する対象、いつか始まりいつか終わる現象」ぐらいに捉えています。教育はある数値目標といった固定的で永続的な目標を達成する営みではなく、教師が自らの弱みを認めながら、児童・生徒・学生の「善さ」を肯定するために彼ら・彼女らとかかわり続ける営みです。教育はリスクを伴う営みですが、そのリスクを教師は--敢えて意訳するなら--崇高 (beautiful) なリスクと考えるべきです。





関連記事

ガート・ビースタ(著)、 亘理陽一、神吉宇一、川村 拓也、 南浦涼介(訳) (2024) 『よい教育研究とはなにか--流行と正統への批判的考察』 明石書店

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/08/2024.html

ガート・ビースタ(著)、 亘理陽一、神吉宇一、川村 拓也、 南浦涼介(訳) (2024) 『よい教育研究とはなにか--流行と正統への批判的考察』 明石書店


 今月発刊される大修館書店の『英語教育9月号』に、ガート・ビースタ(著)、 亘理陽一、神吉宇一、川村 拓也、 南浦涼介(訳) (2024) 『よい教育研究とはなにか--流行と正統への批判的考察』(明石書店)について私が書いた書評記事(というよりも紹介記事)を掲載していただく予定です。

 私はまったく不勉強でこのビースタという教育学者の存在すら知らなかったのですが、読んでみたら大当たりでした。こんな本を読みたかった。私が常日頃言いたくても言語化できないことを見事に表現してくれた本でした。もちろん私にとっての発見もたくさんありました。 

 教育研究(私の関心で言うなら英語教育研究)を目指す人には全員読んでほしいと私は思っています。ベテランの研究者も--「量的研究」と「質的研究」という便利だけれどやや粗すぎる用語を使って述べるなら--、量的研究の限界を確認し、質的研究についての勉強不足を自覚するために本書を読むべきでしょう。

 この本があまりによかったので、私は書評原稿を2種類書きました。1つはこの本の良さを私なりにできるだけ忠実に伝えようとしたもの、もう1つはそれよりももう少し大胆に私の意見も入れたものです。編集部との相談で、後者の書評を掲載していただくことにしました。

 以下に掲載するのは、『英語教育9月号』に掲載しない方の書評です。本当は9月号の発行の直前に掲載する予定でしたが、本書の前に発行されていたビースタの『教育の危うい美しさ』を読んだらそれも面白くて、そのまとめもブログに掲載したく思ったので、本書の出版しない書評を本日掲載することにしました(この掲載についても大修館書店編集部の許可を得ています)。



英語教育研究の再生のための必読書


 あなたが研究者であれ実践者であれ、以下の問いが心に刺されば、ぜひ本書を読んでほしい。該当章からでいい。

 「研究者が自説に引用する理論は、研究者の信仰対象になっていないか(1章)」。「教育研究を自然科学化する動きは無条件に正しいのか(2章)」。「教育研究はエビデンスを求めるだけの営みか(3章)」。「実践とは、インプットとアウトプットの間の没個性的な生産プロセスなのか(4章)」。「教育研究は、心理学者や社会学者や哲学者が自らの専門を応用する研究にすぎないのか(5章)」。「教育における測定の過大視は、教師を技術的管理者に変え、教育の知恵を矮小化していないか(6章)」。「知識は人の主観から独立した存在か、それとも人と物理世界の間で越境的な相互作用 (transaction) が行われることで生まれるのか(7章)」。「学術出版制度は今や研究のあり方を定める政治的・経済的権力になっていないか(8章)」。

 教育学の世界的重鎮による本書は、現在流行し正統とされている研究だけが教育研究ではないことを示す。実践の個性や複雑性や価値判断を重視する研究は可能だ。評者は本書に、研究者と実践者が共に学び合える教育研究の可能性を見る。プロローグに書かれた「研究者の仕事をいくらかでもより知的なものとすること」の含意は、実は非常に深い。質の高い翻訳と訳注と共に刊行された本書を英語教育界は丁寧に読み解かねばならない。



 翻訳および訳注は優れていて読みやすい日本語になっています。とはいえ現在流行しているしか追っていない研究者は、慣れない考えが出てくるので、本書を丁寧に読む必要はあります。しかし丁寧な読解はきっと教育研究についての深い理解をもたらしてくれるでしょう。

 私の場合は、下のようにデューイやシステム理論をある程度理解していましたから、スイスイ読めました。これらの分野にある程度の知識がある人でしたら楽に読めるはずです。


John Dewey (1916) Democracy and Education (デューイ『民主主義と教育』の目次ページ)

https://yanaseyosuke.blogspot.com/2013/09/john-dewey-1916-democracy-and-education.html


英語教育の哲学的探究2:ルーマンに関する記事

https://yanaseyosuke.blogspot.com/search/label/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3


英語教育の哲学的探究3:ルーマンに関する記事

https://yanase-yosuke.blogspot.com/search/label/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3


B・ラトゥール著、伊藤嘉高訳 (2019)『社会的なものを組み直す』法政大学出版局、Bruno Latour (2005) “Reassembling the social” OUP

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2019/08/b-2019bruno-latour-2005-reassembling.html



  本書『よい教育研究とはなにか--流行と正統への批判的考察』のご一読を心よりお勧めします。また『英語教育9月号』もぜひ御覧ください。



関連記事

ガート・ビースタ(著)、田中智志・小玉重夫(監訳) (2021)『教育の美しい危うさ』東京大学出版会 /Gert Biesta (2013) The Beautiful Risk of Education. Routledge

2024/07/24

【Ver. 2.7に改訂】英語での解説を聞いて単語を当てるテスト問題("Jeopardy!"形式) とその解説資料を作成するChatGPTプロンプト

2024/08/02:Ver. 1.1にして、出力に反意語を含めるようにしました。

2024/10/05:Ver. 1.2にして、類義語を独立項目として出力するようにしました。

2024/10/08: Ver. 1.3では、説明の中では問われている単語を "this word" と呼ぶようにChatGPTに指示しました。また、単語の定義を、COBUILDのようにその語をどのような場合に使うかの説明を中心にして行うようにしました。この改訂で学生さんが単語を推測しやすいようにしました。

2024/10/09: Ver 1.4の改訂で以下のような出力が出るようにしました。(1) 複数の品詞で使われる語については、品詞ごとに説明をする。 (2) 定義について説明する前に、その品詞における類義語を提示して、学習者がその語を推測しやすくする。また、プロンプト記述は、指示の順番と階層性を明らかにして、ChatGPTがプロンプト作成者の意図をより忠実に反映するようにしました。しかし「推測させる語を述べてはならない」と何度も指示しているにもかかわらず、ChatGPTがその語を説明の中で使ってしまうことはたまにあります。ですからAI利用の常として、AIからの出力は常に人間がチェックする必要があります。 (下にありますように、プロンプトはVer. 2に改訂しましたが、記録のためにVer. 1.4の出力例とプロンプトはこの記事の末尾に残しておきます)。

2024/10/09 追記:Ver. 2に改訂しました。Ver. 1.4についてのブログ記述を書き終えてトイレにいったら、ふと「そうか、ベテラン教師に語についてのストーリーを語ってもらった方がわかりやすいだろう」と思いつきました。私たちは定義といった包括的で正確な説明法からよりも、ストーリーで理解することを好むからです。
プロンプトに "story" という語を入れたら、はたせるかな出力が大きく変わりましたのでVer. 2としました。添削・改訂プロンプトを書いたときは "plain English" で大きくAIの挙動が変わりましたが、今回は "story" が一種のマジックワードになったようです。この変化は大きかったので、Ver.番号を2にしました。
もちろん "story" をプロンプトに入れた後も、ChatGPTの出力を見ながらプロンプトの言葉遣いを細かく調整しました。ですがこのあたりの調整は、人に対して伝わる文章を書く時と一緒で、わかりやすく (clear)、誤解されず (correct)、具体的で (concrete)、簡潔 (concise) な表現 --3Cs + Concreteで4Cs -- を目指しただけのことです。

また、このVer. 2では私の勤務校のニーズにより合わせるために、大学を中心とした学術英語としての使用を強く志向しました。もしこのプロンプトを他の状況でご利用くださる場合は、適宜、プロンプトの用語を書き換えてください。他のプロンプト同様、私のプロンプトは、商用目的以外でしたら、どなたでもご自由に利用してくださって結構です。

2024/10/10:Ver. 2.1 では、storyの前に語の意味や語が使われる場面や注意すべき点についての説明が来るようにしました。Storyは頭に入りやすいのですが、そのことが語の特定に必ずしもつながるとは限らないからです。このstoryに関するプロンプトは短いのですが、なかなか思うような出力が出ず、5回程度書き直しました。最終的にはChatGPTが出力で使っていることばをヒントにしてプロンプトを修正しました。

2024/10/24:Ver. 2.2の主な改訂ポイントは以下の4つです。 (1) 最後に語源解説を入れるようにしました。(2) Storyの項目の記述を具体的にするために、プロンプトにはあえて "story" という用語を使わずに、"describe a moment in a particular situation when your students want to use the target word" と指示しました。(3) Synonymsは列挙するだけでなく、当該語との違いを簡単に説明するようにしました。(4) Synonymsの説明がやや長くなるので、それより前に意味の説明を行うようにしました。なお、説明部分に当該語を直接使わないようにする指示は強化したのですが、時折、当該語が出力に含まれています。これについては人力で取り除き書き換えるしかありません。また、語源については毎回、ONLINE ETYMOLOGY DICTIONARY (https://www.etymonline.com/) で確認していますが、今のところChatGPTが間違った語源情報を出したことはありません。

2024/10/25:Ver. 2.3で、Word FamilyをInflectionとWord Familyに分けました。最初はInflectionとDerivationという用語で分けたのですが、それですと掲載される語が少なくなるのでWord Familyという用語は残しました。

2024/10/31: Ver.2.4ではアメリカ英語とイギリス英語それぞれのIPAの発音記号表示を加えました。品詞が複数ある場合は、それぞれの発音記号を示すように指示しています。

2024/12/03 (Ver. 2.5):  語の説明出力がぶつ切りの形になってきたので、narrative styleで説明するように指示しました。ChatGPTの内部機構は少しずつ変化しているようなので、時にこのような調整が必要です。

2024/12/06 (Ver. 2.6): 授業内テストでは音声で提示する説明の冒頭に単語の最初の文字と品詞を告げることを止めました。学生さんがそれらの情報だけで単語を正しく推定し、残りの音声説明を聞くことをやや蔑ろにすることを防ぐためです。また、説明は項目ごとに区切らず、一連の自然な流れで語り続けるようにしました。最初は "em" や "uh" などのfillerを入れるように指示したのですが、現在私が利用しているTTS (text-to-speech) の「音読」ではきわめて不自然な音声になるので、filler挿入を止めました。

2025/01/16 (Ver. 2.7) :スペリングや発音の点で紛らわしい語の情報も含めるようにしました。

 

 



■ このプロンプトの狙い


前の記事(柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51)にも書きましたが、私は英単語とその日本語訳を一対一で対応させて暗記する対連合学習には批判的です。そういった単語小テストは、教師が管理するには便利ですし、丸暗記を好む学習者でしたらそれなりに達成感を味わえます。ですが、そうやって覚えた単語はなかなか実際には使えないことは多くの人が感じている通りです。

それを克服する方法の1つが上の記事で紹介したプロンプトですが、そのプロンプトを使った学習は時間がかかることが短所になります(「短所は長所」で、逆に言いますと、時間をかけて深い学習をすることこそが長所なのですが)。

そこで比較的短時間で単語テストを行うために作ったのが今回ご紹介するプロンプトです。今回もChatGPTの利用を前提としています。このプロンプトでは、単語力以上に多くの日本人英語学習者が必要としているリスニング力も同時に鍛えることを目指しています。学習者は、英語の文章を聞いて、その文章で説明されている英単語が何であるかを当てます。もちろん学習者が聞く文章の中には当該の英単語は使われていません("Jeopardy!" 形式と言えば。ご存知の方にはすぐにわかっていただけるでしょう)。ただし、教師は、学習者に予め単語集の範囲を指定しておいた方がいいでしょう。さもないと単語の推測と同定は難しくなるでしょう。

英単語の説明は英語で行われますから、必然的にこのプロンプトはある程度の英語力をもった学習者のためのものです。英語力がある学習者にとっても難しいように思えるかもしれませんが、テストを受けることで単語をさらに深くそして広く学べる教育的なテストといえるのではないかと私は考えています。

このプロンプトは指定された英単語を解説する英文(および例文・コロケーション・派生語・反意語)を生み出します。教師はその英文を文字-音声変換アプリを使って、学習者にその音声を聞かせて説明されている単語が何であるかを当てさせます(例文・コロケーション・派生語には、当該単語(の一部)が出てきますから、音声提示の際には使わず、後で見せて解説します)。

このプロンプトを使った単語テストでは、学習者は聞こえてくるたくさんの英単語が織りなす意味のネットワーク関係の中から、予習範囲の1つの単語を思い起こすわけです。学習者は、テストの音声を聞きながら、説明されている単語が英語という言語の中で他の単語とどのような関係にあるかを総合的に学びます。その学びの中で、学習者は説明されている単語が何であるかを当てるわけです。

この英語のリスニングと思考の連動は、一字一句正確に聞き取るヒアリングとは大いに異なります。仮に細部がわからないとしても何となく聞いて考えるうちに、「あぁ、あの単語のことかなぁ」と学習者は単語を想起します。私は細部を大切にするヒアリング訓練の価値を痛感していますが、同時に、そればかりだと「木を見て森を見ず」の不十分なリスニングしかできないようになることも警戒しています。このリスニング版単語テストを通じて、学習者には考えながら聞く・考えるために聞く術を身につけてほしいとも願っています。

テストが終了したら、教師は読み上げられた英文、および当該単語の例文・コロケーション・派生語を示した資料を学習者に提示しさらに詳しく解説します。私は単語テストを実施して採点をするだけの営みは、「指導」や「教育」ではなく「管理」に過ぎないと思っています。

このChatGPTプロンプトを使うと、学習者にたくさんの英語を聞かせて、その英語を通じて考えさせる英語解説が瞬時にできます。またその解説を補う例文・コロケーション・派生語も自動的に入手できます。このプロンプトは、できるだけAIの力を使って、語彙の学習と指導を高度化するものです。

抽象的な説明が続きましたので、下では、学習者が経験することを疑似体験することにしましょう。



■ 学習者が行うこと


L1(予習):学習者は、単語集の指定された範囲について授業前に予習をしておく。

L2(テスト受験):学習者は、教室でのテストで次のような音声を聞き、その音声が指定された範囲のどの単語についての説明かを推測し、解答欄に書く。

注1:通常のテストは5つの音声を流すが、この記事では簡潔に例示するため1つだけにしている。

注2:筆者の所属校ではLMS (Learning Managemment System)を使っているので、学生はスマホで解答する。システムはそれを自動採点して点数と正解を学生に伝えると共に教師用の成績簿に点数を自動記録する。

L3(テスト後の学習): 学習者には、次のような教材が視覚的に提示される。教師は説明部分の音声をもう一度流した上で、当該単語についての解説を加える。(注:下のサンプルはVer. 2.7の出力です)。



Word 1: Individual

Pronunciation

  • American English: /ˌɪn.dɪˈvɪdʒ.u.əl/ (noun, adjective)
  • British English: /ˌɪn.dɪˈvɪdʒ.u.əl/ (noun, adjective)

Explanation

This word can function as both a noun and an adjective, but it is more commonly used as a noun. When used as a noun, it can refer to a single person considered separately from a group. For example, synonyms might include "person" or "human being." However, this word is more formal or specific than "person," and it emphasizes separateness.

As an adjective, it describes something related to a single person or thing rather than a group. Synonyms for the adjective use might include "unique" or "distinctive." Unlike these synonyms, this word does not always carry a sense of rarity or being special; it can simply mean "separate" or "specific."

Imagine you're introducing yourself to a group of people at an event. You want to convey that you see each person as distinct, with their own characteristics, and you're looking forward to getting to know each one on their own terms. This is the context where you'd use this word.

This word means someone or something that is separate from others in a group or category. Learners should note that this word can sound quite formal, so it may not always fit casual conversations.

The initial letter of this word is "I." What is this word?

Example Sentences

  1. Every individual in the class is responsible for completing their own project.
  2. As an individual, she values her privacy above all else.
  3. The organization focuses on helping individuals achieve their personal goals.
  4. He has a very individual style that sets him apart from others.
  5. Each individual's opinion matters in the decision-making process.

Collocation

  1. responsible for something
  2. rights of the individual
  3. individual differences
  4. individual choice
  5. individual attention

Inflection

  1. Plural: individuals

Word Family

  1. Individually (adverb)
  2. Individuality (noun)
  3. Individualism (noun)
  4. Individualist (noun, adjective)
  5. Individualistic (adjective)

Synonyms

  1. Person (noun) /ˈpɜːr.sən/
  2. Human being (noun) /ˈhjuː.mən ˈbiː.ɪŋ/
  3. Unique (adjective) /juːˈniːk/
  4. Distinctive (adjective) /dɪˈstɪŋk.tɪv/

Antonyms

  1. Group (noun) /ɡruːp/
  2. Collective (adjective) /kəˈlɛk.tɪv/

Confusing Words

  1. Indivisible (adjective) /ˌɪn.dɪˈvɪz.ə.bəl/ - Cannot be divided or separated.

Etymology

The word comes from Late Latin individuum, meaning "an indivisible entity." It is derived from Latin in- (not) and dividere (to divide). Over time, it came to describe a person as a separate, distinct entity. The adjective usage followed later, emphasizing uniqueness or separateness.



■ 教師が行うこと


T1(テストする語の決定): 学習者に指定した範囲の中から問題に使う語を選ぶ。語の説明の録音は40-60秒程度ということを考えて、適切な数の語を選ぶ。

T2(ChatGPTの利用): 下のChatGPT用プロンプトに選んだ語を入れた上で、それをChatGPTに入力する。ChatGPTからの出力はとりあえずすべてワープロにコピーしておく。



# Goal

- You're a college instructor who teaches academic English to international students who struggle with English as a second language. You will carry out the following tasks for each target word in the word bank below "=====" until you finish doing the tasks with the last target word.

-Do not open canvas.


# Task 1: Pronunciation

Provide the International Phonetic Alphabet of the target word for each part of speech in American and British English, followed by the part of speech and the variety of English in parentheses.


# Task 2: Oral Explanation in a Narrative Style

- General Instructions of Task 2: Your role is to talk about the target word without explicitly mentioning it and its related word. You talk about the following items in a natural narrative style without breaking your story item by item. Your narrative must sound natural as if a real teacher is talking to their students. Please note that you can never mention the exact target word or any words that would make it too easy to guess in your story. Say "this word" when you need to mention the target word.

- First, you state the part(s) of speech in which the word can function. When there are multiple parts of speech, emphasize a more frequently used part of speech.

- Next, uou mention the target word's synonyms in each part of speech. You also briefly explain how the target word (keep saying "this word" in this explanation) differs from these synonyms without explicitly mentioning the target word or its related word.

- You describe a moment in a particular situation when your students would want to use the target word without explicitly saying the target word or its related word. Never use the target word or its related wordin the description or its related word. 

- You explain what the target word means without explicitly saying the target word or its related word.

- You also explain what language learners should keep in mind when using this word. However, you can never use the target word in this advice.

- Finally, you must state the initial letter of this word before saying "What is this word?".

# Task 3: Example sentences

Produce five example sentences that use the target word. In this task 3, you can write the target word using complete spelling in example sentences. Your five example sentences must represent typical uses of the target word. The example sentences are numbered from 1. to 5. for each selected word.


# Task 4: Collocation

Provide the most frequent combinations of words with the target word. Show actual word examples rather than grammatical categories. If a subject or object is necessary when representing collocation, show "something" or "somebody" in the position of a subject or object. 


# Task 5: Inflection

Provide the target word's inflection forms along with their labels. The label includes (past tense), (past participle), (present participle), and (third-person singular) for a verb, (plural) for a noun, and (comparative) and (superlative) for an adjective.


# Task 6: Word Family

Provide other words in the word family to which the target word belongs, excluding the inflection forms that you provided above. 


# Task 7: Synonyms

If any, show synonyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word. Show their pronunciations, too.


# Task 8: Antonyms

If any, show the antonyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word. Show their pronunciations, too.


# Task 9: Confusing words

If any, show the words that are confusing with the target word in spelling or pronunciation. Show their parts of speech, pronunciations, and definitions.


# Task 10: Etymology

Provide useful information about the etymology of the target word so that students can understand its meaning and related words better.


# Iteration

Keep doing Tasks from  1 to 9 until you reach the last target word in the Word Bank.


# Output format: produce the following four items for each target word.

- Word with a number (e.g., Word 1) <The target word>

- Pronunciation <The output of Task 1>

- Explanation <The output of Task 2 in a natural spoken style>

- Example sentences <The output of Task 3: Add a number to each sentence>

- Collocation <The output of Task 4: Add a number to each collocation>

- Inflection <The output of Task 5: Add a number to each word>

- Word Familiy <The output of Task 6: Add a number to each word>

- Synonyms <The output of Task 7: Add a number to each word>

- Antonyms <The output of Task 8: Add a number to each word>

- Confusing words <<The output of Task 9: Add a number to each word>

- Etymology <The output of Task 10>


# Word Bank

=====

ここにテストする単語を入れる。複数入れる場合は、カンマや改行などで区切る。

===== 



T3(ChatGPT出力の確認): ワープロ上で、ChatGPTが出力した説明などに不適切な箇所がないか確認する。もしあれば修正する。ChatGPTの説明が気に入らなければ、同じプロンプトを再度入力すると少し異なった出力が得られるので、その方法で適切な出力を入手する。

T4(音声ファイルの作成): ChatGPTの説明部分だけを、文字-音声変換アプリに入れて英語音声のMP3ファイルを作成する。

注3:MP3ファイルの冒頭からいきなり音声がスタートすると何かと使いにくいので、もし「音読さん」などのアプリを使う場合は、音読用英文を下の真ん中の空白部分に入れた上でそれをアプリに入力する。下の例だと、ファイルが作動して2秒後に音声が流れ始める。数字を変えれば秒数も変えられる。

<speak><break time="2s"/>   </speak>

T5(テストの実施):T3のワープロファイルとT4の音声ファイルを保存したラップトップを教室にもっていき、単語テストを行う。



■ 語彙学習だけを行う90分授業の可能性


このプロンプトと前の記事のプロンプトを使って、次のような90分授業ができないかと今私は夢想しています。


(1) リスニングを通じての語彙テスト(30分):上のテストを行う。10問出すとしたら音声提示と回答で10分、解説で20分ぐらいかかる。

(2) ChatGPTとの対話を通じての深い語彙学習(45分):学習者がそれぞれに指定範囲の中から使えるようになりたい単語を選び、ChatGPTと対話しながら学ぶ。学びはレポートにまとめる。

(3) 学びの共有(15分):学習者はペアやグループで (2) で学んだことを共有する。教師はその学びを適宜クラス全体でも共有する。

教師の教室外課題: (2) のレポートのチェックと次のテストの作成。

学習者の教室外課題:次のテスト範囲の単語の予習。

期末テスト:(1)の形式のテストを50問程度と、学習者が(2)の学びの過程で学んだ10語程度の英単語を使った例文を書かせる。



こういった実践を重ねてゆけば、教師は単語集のすべての語に対して、解説ファイルと音声ファイルを作成することができるでしょう。他の同僚と共同作業で行えばその作成はもっと早くできるでしょう。そうやって完成した解説ファイル集と音声ファイル集を学内限定で共有すれば、教師はいつでも楽にテストを作成できます。


AIを使って日本の英語教育を高度化したいと私は強く願っています。



追記

問題を視覚提示する従来型の単語テスト(定義・類義語・例文・連語つき)を作成するChatGPTプロンプトは下にあります。2024年度前期の私の授業は、最初にはこのプロンプトで作成するテストを使っていましたが、途中からこの記事で紹介したリスニング型のテストを使うようにしました。今回ご紹介したプロンプトはその過程で何度も改訂したものです。


英単語テスト生成プロンプト (Ver. 1.3.1 ) :

英単語群の単語の定義・類義語・例文・連語を提示したテスト問題を自動的に作成します。

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2024/04/blog-post.html



*****


Ver 1.4の出力例


Word 1: function

Explanation

  • The first letter of this word is F.
  • This word is primarily used as a noun and also as a verb.

As a noun:

  • Synonyms of this word include "purpose," "role," or "duty."
  • This word refers to the way something works or the specific job it performs. For example, when you think about an item or system, you might consider what it is designed to do or the specific role it plays in a larger process. You might use this word when talking about how a machine operates, how an organization runs, or even the purpose of a body part in biology.
  • This word often appears in technical, academic, or scientific contexts, where you're explaining or discussing how things work. Be careful when using this word because it often refers to specific, practical aspects of a system or object.

As a verb:

  • Synonyms of this word in verb form include "operate," "work," or "perform."
  • This word refers to the act of something doing what it is designed or expected to do. For instance, when a device or machine is working properly, it is said to be performing its job. You might use this word in a sentence when discussing whether something is doing what it was intended to do.
  • As a verb, this word is frequently used in more formal or technical contexts, especially when talking about machines, systems, or even organizations.

To conclude: the first letter of this word is F, and it can be used as a noun and a verb. What is this word?


Example sentences

  1. The function of this device is to monitor air quality in the room.
  2. Every team member has a specific function in this project.
  3. This program isn't working properly; it doesn't function as intended.
  4. In biology class, we learned about the function of the liver in the human body.
  5. The computer stopped functioning after the power outage.

Collocation

  1. Main function
  2. Specific function
  3. Perform a function
  4. Serve a function
  5. Function properly

Word family

  1. Functional (adjective)
  2. Functionality (noun)
  3. Malfunction (noun/verb)

Synonyms

  1. Purpose (noun)
  2. Role (noun)
  3. Operate (verb)
  4. Work (verb)
  5. Duty (noun)

Antonyms

  1. Malfunction (verb/noun)
  2. Fail (verb)




Ver 1.4のプロンプト

# Goal

-You're an experienced high school teacher who teaches academic English. You will carry out the following four tasks for each target word in the word bank below "=====" until you finish doing the tasks with the last target word.


# Task 1: Explanation

-General Instruction of Task 1:Your primary task is to produce a spoken passage to let your students guess the target word without saying it or its related word forms in the passage. You orally explain the target word without saying it or its related word forms in natural spoken English. Never use the target word or its related word forms in your speech. Don't replace the word with underscores (__) , asterisks (***) or any other substitute symbols. Keep referring to the target as "this word" throughout your explanation. You do the following subtasks indicated by "##" or "###" in the indicated order.

## Task 1-1: State the initial letter of the word.

## Task 1-2: State the target word's part(s) of speech. If the word functions in multiple parts of speech, you have to state the more frequently used part of speech first, followed by other parts of speech.

## Task 1-3: If the word functions in multiple parts of speech, start explaining the word in the following points in the most frequently used part of speech.

### Task 1-3-1: List the target word's synonymns.

### Task 1-3-2: Define the target word without saying the word or its related word forms. Describe a situation in which one is most likely to use the target word by reffering to the target word as "this word," without saying it or its related word forms. If the word has multiple meanings, you must provide as many definitions as necessary. 

### Task 1-3-3: Give additional information, such as the genre or connotation associated with the word without saying the word or its related word forms. Furthermore, give advice on how to use or understand the target word correctly without using the word or its related word forms.

## Task 1-4: Repeat the Task 1-3 and its subtasks in another part of speech of the target word, if any.

## Task 1-5: Conclude your speech by restating the initial letter of the word and the part(s) of speech for this word and saying "What is this word?".

-Reminder for ChatGPT: Please remember that your passage is a spoken explanation in plain English. Don't forget that you can never say the target word or its related word forms in your speech. 


# Task 2: Example sentences

Produce five example sentences that uses the target word. In this Task 2, you can write the target word in full spelling in example sentences. Your five example sentences must represent typical use of the target word. The example sentences are numbered from 1. to 5. for each selected word.


# Task 3: Collocation

Provide most frequent combinations of words with the target word. Show actual word examples rather than grammatical categories.If a subject or object is necessary when representing collocation, show "something" or "somebody" in the position of a subject or object. 


# Task 4: Word family

If any, show other words in the word family to which the target word belongs. Nevertheless, don't include the present participle or present participle of the target word in the list. If there are no particular words in the word family, show "n/a." Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Task 5: Synonyms

If any, show synonyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Task 6: Antonyms

If any, show antoyms of the target words. Indicate the part of speech in parentheses after each word of the word family.


# Iteration

Keep doing Task 1, Task 2, Task 3, Task 4, Task 5, and Task 6 until you reach the last target word in the Word Bank.


# Output format: produce the following four items for each target word.

-Word with a number (e.g., Word 1) <The target word>

-Explanation <The output of Task 1>

-Example sentences <The output of Task 2: Add a number to each sentence>

-Collocation <The output of Task 3: Add a number to each collocation>

-Word family <The output of Task 4: Add a number to each word>

-Synonyms <The output of Task 5: Add a number to each word>

-Antonyms <The output of Task 6: Add a number to each word>

# Word Bank

=====

ここにテストする単語を入れる。複数入れる場合は、カンマや改行などで区切る。

===== 

2024/07/23

柳瀬陽介 (2024) 「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」KELESジャーナル9号 pp.45-51


KELESジャーナルに掲載していただいた拙稿が、少し前にJ-STAGEでも公開されました。


柳瀬陽介 (2024) 

「ChatGPT による学術英語語彙の自律的学習

―言語観とプロンプト設計と学習者認識の一貫性―」

KELESジャーナル9号 pp.45-51

https://doi.org/10.18989/keles.9.0_45


この実践報告は、2023年10月1日に関西英語教育学会のKELESセミナーで発表させていただいた報告に基づいています。そのセミナーのスライドや予行演習動画は、こちらから閲覧することができます。


「AI活用の決定要因としての教育観と学習観

―英語学習者が「語彙学習では間違うことが必要」と自覚するまで―」

スライドと解説動画の公開

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ai.html


このJ-STAGE公開を可能にしてくださったすべての方々、特に関西英語教育学会の事務局の皆様に改めて深く感謝いたします。論文執筆者としては、多くの方々に読んでいただくことが何よりの喜びです。不特定多数の読者が無料で多くの論文を読むことができる文化装置を維持するために多くの時間を割いてくださっている皆様には感謝のことばしかありません。



この実践は、個人的にはとても好きで思い出深いものです。詳しくは上から論文をダウンロードしていただきたいのですが、私としては学生から次のような感想を聞けた時には本当に嬉しく感じました。


  • 「他の様々な語に触れ、文章を考えるので、とても頭を使っている」
  • 「自分で例文を作るときに具体的な状況を提示することを意識した。どんな状況でその単語を使うかによってニュアンスは微妙に変わってくるから、より実践での単語選びに近づけるためには具体的な状況設定が不可欠だ」
  • 「たとえ意図は伝わったとしても、ニュアンスの部分が外れていれば、小さな誤解が生じたり、印象が悪くなったりする恐れがあるので、細かな意味まで、丁寧に学習するようにしたい」
  • 「自分が今まで覚えていた単語の意味やニュアンスがChatGPTと会話する中で少しずれていることに気づいた。単語帳とにらめっこするだけでは本当の意味で単語を使えるようにはなれないのだとわかった」
  • 「自分が選んだ単語や構造の不適切さを指摘されたときは、そのわけをわかるまで尋ねる方が良いと感じた。そうしないと、やはり癖が出て、適さない場面で再び使うことになるだろうからである」
  • 「ChatGPTにすべてを任せるのではなく、尋ねる前に自分でしっかり推敲したり、冠詞、単語の吟味をしたりしてその上でAIを頼るというプロセスを踏まないと自分で間違いに気づけなくなるうえに勉強にもならないので、これからは丁寧に作文をしていきたい」
  • 「長い文を作ることでミスが増えるが、その分、得られるフィードバックが大きいので、これからもミスを恐れずに具体的で分量の多い例文を作っていきたい」
  • 「このように自分の英作文のボロを効率よく出すためには、やはりなるべく長く具体的な英文を作ることが一番だ」



この実践で使ったプロンプトは、下の記事で公開しています。


【Ver. 3.1.3に改訂】 学術英語語彙の使い方を学ぶためのChatGPTプロンプト

https://yanase-yosuke.blogspot.com/2023/10/ver-3-chatgpt.html


このプロンプトの利用も改編も自由です。私はAIを使ってできるだけ教育格差を解消し、やる気のある学習者を支援したく思っています。また、その学習者の姿を見て他の学習者が意欲を喚起されることを望んでいます。日本の公教育に携わる者の間で、AIに関する知見を共有する文化が普及しますように。



大学院授業:言語教育設計学2(2026年度後期版)

  言語教育設計学 2       授業開催形式   授業はすべて教室で対面で行います。受講者の皆さんは、京都大学の人間・環境研究科の Learning Management System である KULMS にアクセスできるデバイス(ラップトップ推奨)を...